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五助さん

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(続)うんこ夫人

14/04/28 コンテスト(テーマ):第五十五回 時空モノガタリ文学賞【 予感 】 コメント:1件 五助 閲覧数:1380

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「また出なくなったの」
 由美子は電話口に話しかけた。電話相手は母親で、相談事は便秘である。
「まぁ、大変ねぇ。この間は六日ほどだったんでしょ。今度は何日ぐらい出てないの」
「もう、一週間はたってるわ」
 由美子はため息をついた。
「あら重症ねぇ。病院に行くしかないじゃないの」
「いやよ。便秘で病院に行くなんて、恥ずかしいわ」
「じゃあ、どうするの」
「待つしかないわ。昔からそうだったから、それしかないわ」
「大変ね。子供の頃はそうでもなかったんだけどね」
「えっ、そうだったの、私、子供の頃からずっと便秘気味だったわよ」
「ちがうわよ。小さいときは、そうでもなかったのよ」
「いつ頃の話」
「小学校の、そうそう、病院に入院した辺りじゃないかしら、小学校二年生の時にあなた、肺炎で入院したでしょ。あの辺りからじゃないかしら」
 確かに由美子は肺炎で入院している。注射が恐くてよく泣いていたことを思い出した。
「肺炎が原因で便秘に、そんなのあるかしら」
「ないわね。ああ、思い出したわ。あなた変な癖あったの覚えてる」
「変な癖って」
「子供の頃トイレに行くとき、お洋服を全部脱いでいっていたでしょ」
 電話口で由美子の母親は口を押さえて笑った。
「そ、そんなことしてないわよ」
「してたのよ。あなた覚えてないかも知れないけど、いつも廊下でお洋服を脱ぎ散らかしてね。デパートでも大変だったのよ。おトイレって、おもちゃ売り場で脱ぎ出しちゃって、ふふふ」
「やめてよ。かあさん、私そんなことしてないからね」
「まさか外でもそんなことをするとは思ってもいなかったから、ほんと驚いたわ。しかりつけたら泣いちゃってねぇ。あの頃は、ほんとかわいかったわ」
「もう、そんなことしてないからね。話し作らないでよ」
「そうだあなた知ってる。ご近所の菅原さんの話しだと」
 由美子はしばらく母親と世間話をした。問題は何も解決せず、雑念のような引っかかりが残っただけであった。

 日は暮れ夜になっても、由美子の肉体は排泄を拒否したままであった。食事もあまり進まず、夫も心配していたが、理由は話せなかった。
 就寝時間になり、由美子は布団の中でまんじりとしたまま、昼間母親と交わした会話のことを思い出していた。子供の頃、便秘ではなかった。母は確かにそういっていた。便秘になったのは、入院前後、入院前なのだろうかそれとも後だろうか。入院前、入院後、この二つの間でないかが起きたということだろうか。
 母の話によると、私はトイレに裸で行く癖があったそうだ。まさか、裸で病院のトイレに行っていたなどと言うことはあるまい。母もそんな話はしていなかった。とすると、入院中は服を着てトイレに行っていたことになる。退院後その癖はどうなったのだろうか。現在、服を着てトイレに行っているのだから、それを境に服を着てトイレに行くようになったと考えるべきだ。その後、便秘が始まったとしたら、服を着てトイレに行くようになってから便秘が始まったとしたら、それが原因で便秘になったとしたら、そんな馬鹿げたことがあり得るだろうか。
 由美子はおなかを撫でた。相変わらず張りと、ときどきわき起こるかすかな便意を感じた。夜である。夫の寝息が聞こえる。
 由美子はそっと、布団をめくり起き上がった。夫の様子を確認しながら、まるで不貞をはたらくかのように足を忍ばせ部屋を出た。

 しんと静かな夜の中、月明かりを頼りに、廊下を歩き、由美子はパジャマのボタンを一つ一つと外し始めた。今宵こそ、そんな予感がした。徐々に肌があらわになる。すべてを夜にさらしながら、脱いだ衣服を手に、明かりをつけずトイレのドアを開き、入った。
 緑のタイル、小窓からは、まぶしいばかりの月明かり、肌がうっすらと粟立つ、これだ。これなのだ。私に必要だったことはこれなのだ。予感は確信にかわった。
 私は服に縛られていたのだ。妻として、夫のよき理解者として、エプロンを着け家事にいそしみ、外では、着物の帯を締め、俳句やお茶会をし社交辞令を重ね、社会に合わせるために着込んだ私という服が、外の世界どころか、この家の中すべてに、究極の個人空間であるトイレにさえ入り込み、私の肉体を精神を、そして肛門をも縛りつけていたのだ。由美子は一人確信した。
 便座のふたを開け、由美子はどこまでも白い肉体をおろした。尻が広がる。暖かい。便座を温める機能がついているのだ。他にも、便座から腰を上げると、自動的に水が流れる機能や、急速脱臭機能もついている。見上げると小窓から月が見えた。
 
 月浴びて 水面とどろく 夢の音
 
 由美子は、一句口ずさみ、裸体をふるわせた。
「あぁ」
 うんこが止まらない。


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このストーリーに関するコメント

14/05/01 ナポレオン

拝見いたしました。
前作ともども皆コメントを控えているようなので勇気を出して書き込みます。
ラストの数行が非常にリアルでなにか匂ってきそうな印象でした。それにしても、この紳士淑女の多いサイトでう○こネタを連発する勇気に感動いたしました(笑)。

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