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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

性別 男性
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家柄が故に

14/04/27 コンテスト(テーマ):第五十六回 時空モノガタリ文学賞【 結婚 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:959

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花粉が飛んでいた。マスクをしている涼子が目を痒そうにしている表情が、とても可愛らしく思い、森田太一はそんな彼女の髪を歩きながら撫でた。
駅から歩くこと10分あまりで太一の実家が見えてきた。
「これ、俺の実家」
「すごい大きなお屋敷ね」
西から東に大きく延びる敷地を囲むように、立派な塀が森田家を要塞するように建てられていた。
東京近郊にあるこの町で、森田一族と言えば富豪で有名だった。もともとは、曽祖父が大正時代に材木店を始め大成功をおさめ、その後を継いだ祖父が建築業・不動産業・金融業とビジネスを拡張していった。
現在は太一の父である森田正孝がグループの社長を務めていて、副社長の太一はゆくゆくは社長の座につくことが約束されていた。
塀の端から5分程歩き、大きな正門の前に2人は立った。
「すごい立派な門ね。なんだか太一さんのお父様とお母様に会うのが、ここまで来て躊躇しちゃいそうな気分だわ」
「そんな緊張することはないさ。どこにでもいるような普通の親父とお袋だよ」
太一がインターホンを鳴らし、防犯カメラに向かって手を上げると、自動で扉が大きく開いた。
来客用の和室に入ると、父と母がテーブルの前に座って待っていた。
太一は涼子を父と母に紹介した。緊張している涼子は、声のトーンが若干上擦っていた。
長年、森田家で家政婦をしている信子が、お茶と和菓子をお盆に載せ部屋に入ってきた。
「信子さん、こちらの女性は俺の婚約者の涼子」
「あら〜、素敵な女性を見つけましたね、お坊ちゃま」信子は人の好さそうな笑顔で笑ってみせた。
涼子を父と母に初めて紹介した日から1週間が過ぎた。太一はこの日、父に呼ばれて実家に帰った。
リビングルームでソファーに座る父から「あの女性との結婚は許さない」と言われた。
「なんでだよ!」
「あの女性の家柄を調べたら、父親が強盗犯で刑務所に入っていた時期があることが分かった。そういう父親をもつような女性と、オマエを結婚させる訳にはいかない」
「でも、涼子が犯罪を犯した訳じゃないんだから、問題ないだろ」
「うちは、他の家と家柄が違うんだ。後々面倒になるような女性を、オマエの結婚相手にすることはできない」
父に対する怒りから実家を飛び出した太一は、歩きながら涼子に電話を掛けた。
「もしもしオレだよ、太一」
「どうしたの? 息が荒れているようだけど」
「今さっき、親父から涼子との結婚を反対された」
「……」
「答えたくないなら黙っていても構わないけど、涼子のお父さんは過去に刑務所に入っていたのかい?」
「……。うん……」
「そうか」
「私、太一さんとの結婚は諦める。私にはあなたの奥さんは務まらないわ。もっと良い人を見つけて幸せになって」
「涼子、俺は君と結ばれたい。父と母が反対してでもだ」
「だけど、あなたは森田興行グループの次期社長よ。私のような犯罪者の娘では親戚中が反対するんじゃない?」
「駆け落ちしよう。もう親とは縁を切るし会社も辞める」
「本当にいいの? 後悔しない?」
「後悔なんかしない。君と一緒になれるなら後悔なんかするもんか。僕と明日、どこか遠い場所に駆け落ちしよう。東京駅に午前7時に落合おう」
翌日の月曜日は小雨が降っていた。大きなキャリーバッグとボストンバッグを手に持ちながら涼子を待っていたが、約束の午前7時になっても彼女は現れなかった。
電話も先ほどから何度も掛けているがつながらない。午前8時を少し過ぎ、太一は怒りと哀しみを覚えながらタクシー乗り場に向かった。
なぜ涼子は約束の時間に来なかったのか、理解できなかった。
タクシーの運転手に、涼子が暮らす実家の住所を言った。
タクシーの中で太一は目を瞑って、涼子のことを考えていた。
「お客さん着きましたけど、なんか騒がしいようですよ」
太一は目を開けた。少しの間、浅い眠りに入っていたようだ。運転手の言ったとおり、涼子の自宅前に警察車両が数台と野次馬ができていた。
料金を払って下車すると、野次馬の一人に何事があったのか尋ねた。
「なんだか、娘さんがお父さんを包丁で刺して殺したそうだよ」
太一は激しい眩暈を感じ、路上に手足をついて項垂れた。
それから半年が過ぎ、太一の体は土方焼けをしていた。森田興行グループの副社長を辞め、今は土木作業員として日給8000円で汗水を流して働いていた。
涼子の裁判もようやく判決がくだり、懲役5年が確定した。
太一は茶封筒に入れた手紙をポストに投函して、今日の仕事に自転車で向かった。

水野涼子さんへ
僕は、涼子が5年の刑期を満了して出所するのをずっと待っています。
君が出所する時は、僕が36歳で君が30歳ですね。
君と結婚することが僕のいまの願いです。
どうかお体に気をつけてください。
もし涼子が許してくれるなら、面会に行きます。
太一


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