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堀田実さん

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夕子、超能力が身につく

14/04/25 コンテスト(テーマ):第五十五回 時空モノガタリ文学賞【 予感 】 コメント:0件 堀田実 閲覧数:1149

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 人には見えない力が眠っている。見えないといってもそれは単に科学的に証明できないというだけであり、偏見の目を開けば急に見えるものだったりする。

「あっ、A美から電話の電話だ!」
電話が鳴ると同時に思いが浮かぶ。通話ボタンを押すとまさにそうだった。長電話を終えるとふと自分がA美から電話がかかってきたと予感していたことに気がついた。
「どうしてわかったんだろう」
疑り深い夕子はそれでも自分の予知を疑おうとする。
「A美から電話がかかってくる時間や周期に規則性があるのかも」
そう思って履歴を調べて見るものの時間も周期もバラバラだった。数日おきに電話をかけあう時もあれば、数ヶ月間電話をしていない時もあった。
「う〜ん、さっぱりわからない。やっぱり不思議な予知能力みたいなものがあるんじゃないだろうか」
彼女は思いを巡らせる。人も携帯電話と同じように電波を受信しているんじゃないかとか、人の思いというのは空間を越えて他人に伝わるんじゃないかとか。
夕子はこの出来事を父に話してみた。すると彼は心理学が好きだったのでユングのことを持ち出してこういった。
「人の無意識っていうのは深いところで繋がっているものなんだよ。そういうところで理解したんじゃないかな?」
 夕子はまたこの出来事を母に尋ねてみた。母は夕食の皿洗いをしている最中だったので大して話しに取り合ってくれないだろうと思っていたけれど、急に皿洗いをやめ寝室にいき分厚い本を持ってきた。母はクリスチャン系の学校に通っていたので今でも聖書が愛読書のひとつだった。彼女は指し示して言った。
「夕子も知ってると思うけど、イエス様はペテロの離反を予言されたわ。ペテロはイエス様のことを知らないって三回言ったの。イエス様のように純粋になればなるほどこういう不思議な力がつくようになるんじゃないかしら」
 それでも夕子はいまひとつわからなかった。どの説明もきちんとした科学とは言えないし、本当に不思議な力を理解した答えだとも思わなかった。夕子は悩みを解消できないモヤモヤした気持ちのままふてくされるようにして布団を頭まで被り眠りについた。
 気がつくと彼女は綿のような身軽さでふわふわと宙に浮いていた。さきほどまでのベッドの上には夕子の身体だけが深い眠りについている。
「あっ、私が寝ている!」
そう思ったのもつかの間、風のような速さで自室の天井を通り抜けると光の中に飛び込み何やら見知った場所に抜け出していた。そこには夕食を食べ終わって食器を運び、テレビのニュースを眺めている自分と家族がいた。
「あれ、これ見たことある」夕子は思った。「自分のことだから当たり前か」
 おぼろげな意識のなかで意味のないことを考えては忘れていった。まるで夢の中そのものだった。
 ニュースで沈没船の事故のことが伝えられるとふと何かが頭をよぎる。何か大事なことを思い出さなくてはならないのに、それが何なのかも忘れてしまっているような感覚だった。思考の糸口が見えてこない。
 しばらくやきもきした気分が続いた。夕子は物事をはっきりさせたいタイプなのでそれがとてもストレスに感じられた。いつの間にかテーブルの上の食器は全部片付けられていて、台所の流しの水の中にうずまっている。
 次の瞬間スマートフォンの着信音が鳴り始めた。
「あっ、A美からの電話だ!」
思わず叫んでいた。やきもきした感情が急に流れ道を見つ出した時のように、思わず声は漏れていた。その瞬間すべてが理解できた。さっきまで不思議がっていた予感は夕子自身がしゃべったことなのだった。
「なーんだ。簡単なことだったんだ」
夕子は胸をなでおろした。
 しかし夢は覚めなかった。身体への戻り方がわからないのだ。焦る気持ちとはうらはらにどんどん時間は過ぎていってしまう。いつの間にか肉体を持った夕子は電話を終え、父や母に話を聞いているところだった。激しい思考が駆け巡った。
「そうだ!」
夕子はひらめくと肉体をもった夕子が眠りにつくのを待った。物思いにゆっくりと階段を上り自室へと向かう自分がどうも恨めしい。
「もー、いちいち悩みすぎなんだよ」
 イライラしていたのかもしれない。夕子はふて腐れながら眠りについた自分の体を思い切り蹴飛ばした。するとさっきまで身体を持っていた夕子は蹴りだされてどこか遠くへ飛んでいき、光の中へ消えていってしまった。
「これで良かったのかな?」
 罪悪感と奇妙な気持ちにさいなまれながらも、夕子は空きができた身体の中にすっと飛び込んだ。気がつけば夕子は深い深い眠りについていた。朝になり目を覚ますと、わき腹の当たりがひどく痛んでいた。しかし夕子は何も覚えていなかった。
 夕子はこの日から全てがよそよそしく感じるようになっていた。まるで違う世界に来てしまったかのような、そんな奇妙な感覚だった。


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