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エンターティナー

14/04/19 コンテスト(テーマ):第五十五回 時空モノガタリ文学賞【 予感 】 コメント:3件 おでん 閲覧数:1544

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 今の時代、両親が共に働きに出ているという家庭は少しも珍しくない。
 では、落語家の父とマジシャンの母をもつ子どもというのは、ここ日本にどのくらいの数がいるのだろう。
 はっきり言って、うちの落語家とマジシャンは共に二流である。テレビに出たこともなければ、大きな舞台に呼ばれたこともない。おまけに二人をマネジメントしているのが三流プロダクションだから救いようがない。
「今日も絶句してしまったよ」
 と落語家の父はケロリと言う。落語での絶句とはセリフが出てこなくなることだが、少なくとも落語歴二十五年のキャリアがやるような過ちではない。
 一方で母は、
「一番前の席に座っていた客に、ネタをばらされたわ」
 とぷりぷり怒っている。母が得意とするマジックは、トランプ、ロープ、リングなど多岐にわたるも、自分で勝手に「得意」としているだけである。下手したら近所にいる手品好きの中学生の方が、母よりも上手くやってしまう。
「ネタをばらされただけならまだいいさ、俺は座布団を投げられたよ」
 慰めのつもりか父がそう言うものの、
「私の方は、用意していたサクラが肝心な時にトイレに行っちゃって、まるで役に立たなかったわ」
 と母も負けていない。とにかく僕は、こんな両親のもとで二十八年間も子供をやってきたのだ。

 二人の出会い。当時まだ学生だった母が、落語家として駆け出しの頃の父の演目を見に行ったのがきっかけだという。
「お父さんったらかなり緊張して、演目に入る前のマクラっていう小噺だけで持ち時間をほとんど使いきっちゃったのよ」
 お茶をすすりながら、父が照れくさそうにしている。一方で母は、どこか誇らしげに続けた。
「そうしたら、兄弟子の人が出てきて、なかなか演目に入らないお父さんをポカポカなぐりはじめちゃったの。ほら、昔の人って気が短いから。それでお父さんの顔が、血だらけになって――」
 聞きながらぼくは、あまりいい気分ではなかった。色々と恥ずかしい父だけど、その父が、人から血が出るほど殴られた経験があるというだけで、なんだかいたたまれない心持がした。
「それでどうなったの?」僕が尋ねると、
「お父さんたら凄いのよ」母は顔の皮膚を柔らかくしてこたえた。「顔を血だらけにしながらも、私たちお客さんに向かって、またきてください、って笑顔で手を振ったの。一緒に見に行った友達の子は、気持ち悪いって怯えていたけど、私はその次も、そのまた次も、お父さんの演目を見に足を運んでいたわ。この人は絶対に大物になるって、予感がしたの」
 
 唖然としている僕に、父が待て待てと話に割って入る。
「でも本当に凄いのはお母さんの方だよ。高校卒業と同時に事務所にやってきては、無名の俺に土下座して、弟子にしてください、だもん。あの時は社長や兄弟子たちが腰抜かしてたっけ」
 聞けばこの弟子入り志願は、大手企業の内定を蹴ってのことだというから驚いた。さらには、
「とんでもない奴が弟子になったと思いきや、俺の亭号が気に食わないと騒ぎはじめてね。ちょうどその時、同じ事務所のマジック部門に、フラワーミストおさちって先輩がいてさ。お母さんはそのフラワーミストがえらい気にいって、あっさりそっちに弟子入りしちゃったんだ」
 その様子を見て、こんな女にはもう二度と出会えないと思った【ほっとい亭ぷう太】は、即プロポーズをした、とのこと。

 なんとも、どえらい話を聞かされたものである。ちなみに、この話を聞かされたのは、愛していた妻に浮気され、離婚届を提出したその日だった。
 今、父が真剣な表情で、落語の「時そば」を僕ただ一人の前で演じている。この次に控えているのは【フラワーミストももえ】のマジックショーだ。二人とも、妻と別れた僕を元気づけようと、必死になってくれている。
「おいそばや! 今は何時(なんどき)でい?」
 父の、相変わらず下手くそな「時そば」を、僕は一生懸命笑ってやる。無理に笑っていたら、なんだか泣けてきた。妻が他の男にはしった原因の主は、僕の甲斐性のなさだ。そして、浮気されるまで危機感がいつまで経っても芽生えなかったのは、この、社会からはみ出た二人の手によって育てられたからに違いない。
 何度、二人を恨みたくなったことか。
 無理して笑っている僕を見て父は、涙が出るほどウケているのだと勘違いしたのだろう。さらに調子をあげて饒舌になるも、明らかに空回りし始めている。
 僕は予感する。この先も、彼らは変わることがないだろう。そして、自分自身もきっと……。
 ふっ、と、体の力が抜けた気がした。
 ああ、これでいい。
 あとはフラワーミストももえが、いつものように、トランプをぐったりした花に変えてくれればそれでいい。
 僕は再び涙を流す。どんなときでも変わることのない、この家族のために。(了)


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このストーリーに関するコメント

14/04/21 草愛やし美

おでん様、拝読しました。

私自身にも、こういう予感ありました。子は親を選べず、また親も子を選べないものなのに、ああだ、こうだと思いつめたりします。ないものねだりが世の常。でも、傷ついた息子のため、懸命に演じる親御さん、あたたかいですね。
この親にして、この子ありとも申します。きっと、明るく立ち直られることでしょう。温かいお話でほっこりさせていただきました。ありがとうございました。

14/04/22 おでん

OHIME様
力が抜けるような親子ですが、愛らしさを感じていただけてよかったです。
また元気づけられる物語を書きますので、よろしくお願いいたします。

草藍様
ほっこりしていただけて何よりです。
好き嫌いが出る作品かと思いましたが、好評ありがたく受け止めます。
またよろしくお願いいたします。

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