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泡沫恋歌さん

泡沫恋歌(うたかた れんか)と申します。

性別 女性
将来の夢 いろいろ有りますが、声優ソムリエになりたいかも。
座右の銘 楽しんで創作をすること。

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驟雨期 ― 新たなる進化を遂げて ―

14/04/18 コンテスト(テーマ):第五十四回 時空モノガタリ文学賞【 激しい雨がふる 】 コメント:14件 泡沫恋歌 閲覧数:3478

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 22世紀初頭、地球では大規模な核戦争が起こった。
 共産主義と資本主義というイデオロギーが違う二つの勢力が真っ向からぶつかり合い、同盟国や隣国を巻き込んで、果ては宗教紛争にまで飛び火して地球全体の戦いとなった。
 過去の遺物ともいうべき国連はなんら機能せず、戦争は激化して、最後は『核のドッジボール』によって幕を閉じた。
 100億人を突破したといわれる世界人口が、この戦争によって10分の1の10億人にまで激減した。勝敗を決めるには被害が膨大過ぎて……結局、共倒れという形になってしまった。国家は崩壊し、生き残った人々だけで都市国家(アクロポリス)が建築されたが、彼らは放射能の被爆者で、大地は汚染されて、安全な食品もなく、厳しい状況だった。
 そして、地球全域に異常気象が起こっていた。
 まるで汚れた地球を洗い流すかのように、一日に何度も激しい雨が断続的に続いているのだ。23世紀になった今も雨は百年近く降り続いている。この異常気象を『驟雨期(しゅううき)』と人々は呼んだ。止まない雨のせいで、海は増水し地球の面積の3割だった陸地が2割にまで減少していった、このままでは海に陸を奪われてしまう。しかも太陽光線が不足して植物も育たなくなり、それに伴い昆虫や動物も絶滅していった。
 22世紀の核戦争で生き残った子孫たちは、激しい雨との戦いだった――。

 アクロポリス・ヤマトの東大アカデミーのヤマダ教授は、ある仮説を元に研究を続けていた。その仮説とは生物の進化を覆すような、とんでもない奇説で、『ヤマダ進化論』と呼ばれていた。
 今日も研究室のベランダに出て、広大無辺な海を眺めながら、ヤマダ博士は自説の正しさに確信を深めていた。そこへ助手のサトウが入ってきた。
「ヤマダ教授、また海の水位が上がっています」
「見渡す限りの海、やがて大地は海に呑み込まれてしまうだろう」
 この場所はかつて富士山山頂と呼ばれた場所であった。
「海水は濃度3%の塩などが溶けた水なのですが、最近、塩分の濃度が薄まっているようです」
「そうか、いよいよ還る日が近づいてきた証拠だよ」
「海では見慣れない新種の生物が誕生いるようです」
「人類もいずれ、その仲間入りになることだろうさ」
「ずっと僕は『ヤマダ進化論』には懐疑的でしたが……最近は、この説が真実だと思えてきました」
 助手の言葉にフッとヤマダは笑みを浮かべると、
「ああ〜風が気持ちいいね。サトウ君」
 ヤマト・アクロポリスでは、放射能と雨を避けるために巨大なドームで都市全体を覆っている。その中で人工太陽を作って、作物を育てて、家畜を飼育しているのだ。
 雨の降らない時はドームは開放されて、風も吹き込んでくる。――すると、ポツポツと大粒の雫が。空から降ってくると自動的に閉じられる開閉式ドームなのだ。

「雨だ! 部屋に入ろうか」
 ヤマダ教授の研究室の壁には珍しい化石の標本が飾られていた。
「サトウ君、アカンソステガは実にチャレンジャーなんだ。水から這い出し陸に上がった初めての生物だった彼らが、どんどん進化して哺乳類になった。いわば人類の遠い祖先だ。――人類もまたチャレンジャーになる時がきたのだ」
 ヤマダ教授は嬉しそうに語る。助手のサトウはそれを黙って聴いている。
「私の学説『ヤマダ進化論』は学者の間で笑い草にされたが、それを裏づける証拠がいろいろ出てきたよ」
 教授は一冊のファイルをサトウに渡した。そこには子どもの写真が数枚挟んであった。
「ここ数年の間に生まれた子どもたちだ。よく見たまえ、五本の指の間に水かきのような膜が付いている。しかも、一回の呼吸で約10分は水に潜っていられる。肺が浮き袋のように肥大した新人類だよ。この子たちを放射能の影響だという医師もいるが、違う、断じて違う! 人類のDNAが進化を始めたんだ」
「教授、それは本当ですか?」
「それだけではない、野生化した犬や猫たちが海に潜って狩りをしているのを確認した。海の中は食糧が豊富だからね」
「……ということは、教授が唱えていた!」
「海から生まれた生命は、再び海に還っていくのだ。この「驟雨期」は、陸上生物にとってチュートリアルなのだ」
「我々が生き延びる方法は他にないんですか?」
「水棲生物へ進化を遂げないと、人類は滅亡するだろう」
「それは神の意思なのでしょうか?」
「サトウ君、地球は惑星という巨大生物なんだ。ある時は神とも呼ばれ、思考もするし、感情もある」
 いきなりドームの外で稲光が走った。轟音が鳴り響き、激しい雨は止みそうもない。
「いずれ陸は海に沈む――。人類はね、もう一度、母なる海に還るんだよ」
 ヤマダ教授は遠い眼をしてそう言い放った。

 太陽系第3惑星という巨大生物は、核戦争で地球を汚染した、愚かなる人類へ怒り鉄槌を下した――。


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このストーリーに関するコメント

14/04/18 泡沫恋歌

画像は無料壁紙】未来をイメージしたクールなイラスト集から
お借りしています。
http://matome.naver.jp/odai/2129298719613841501


アカントステガはデボン紀、3億6000万年前に生息した生物で、水の外で捕食をしていた最初の水生動物である。
画像はアカントステガの復元模型、ウィキペディアからお借りしました。

14/04/19 鮎風 遊

水に戻るのですね。
まかせて下さい、カンチンです。
水槽の金魚、毎日ちょっとずつ水を減らしていくと、水なしで生きていけるようになります。
この反対バージョン、私たち毎日水に浸かっていると水棲動物に進化できますよね。
海の方が食べ物多いし、アワビもエビも食べ放題。

と、超ポジティブな思考までに飛ばせてくれました。
面白かったです。

14/04/19 そらの珊瑚

恋歌さん、拝読しました。

「ウォーターワールド」という映画でも陸地のなくなった世界で、ミュータンス化して生き残った人類が描かれていました。
愚かな人間の所業による「驟雨期」という環境の変化に適した人間だけが
生き残るのかもしれませんね。
新人類に期待したいし、この先の展開も気になるところです。
科学SFとしても設定がしっかり構築されているので、大変読みごたえがあり、面白かったです。

14/04/21 草愛やし美

泡沫恋歌様、拝読しました。

なるほど、有り得る未来だと思います。実際、進化はそういうものかもですね。もし、そうなら人類が助かる道は開かれるはず、SFとしても希望の持てる話に何だかほっとしています。そこまで、自分が生き延びることは皆無ですが、それでも、人類の未来がなくなってしまうことだけは避けたいものですから。地球は、何万か何億年後、どうなっているのでしょうね、知りたいような、怖いので知りたくないような……。大汗
面白い進化論の作品で楽しませていただき、ありがとうございました。

14/04/21 朔良

泡沫恋歌さん、拝読いたしました。
おお、すごい! ここに新たなる進化論が!
こういうSFチックなものって状況や設定の説明が難しいと思うのですが、その流れもすごく自然でヤマダ理論に説得されてしまいました。
いや…こういう未来、本当に来そうで怖いです。
すごく面白かったです! 

14/04/22 泡沫恋歌

鮎風 遊 様
コメントありがとうございます。

カナヅチだって、進化して半漁人になれますよ(笑)

そりゃあ、海は食べ物も豊富でアワビやエビも食べ放題で毎日グルメ生活ですわ。

14/04/22 泡沫恋歌

OHIME 様
コメントありがとうございます。

これから生まれてくる子どもたちのDVAが少しづつ変化して、水棲生物に向いた身体に
創り変えられていき、いずれ人類は海に還るという。

このヤマダ教授の学説が証明される頃まで、果たして教授が生きていられるか?
この証明には千年、二千年の時が必要かと思われます。

この学説はおおいに注目ですよ。

14/04/22 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様
コメントありがとうございます。

「ウォーターワールド」という映画は観たことはありませんが、大昔、ジャンプの漫画家で
星野 之宣の「ブルーシティ」というのを読んだことがあって、それの印象が深く頭の中に
残っていましたね。

陸よりも海が遥かに広い地球で、なぜ海に棲まなかったのか?
もし、人類が海にいれば、戦争も核兵器もなかったと思うんです。

14/04/22 泡沫恋歌

凪沙薫 様
コメントありがとうございます。

私もSF好きなので、こういう荒唐無稽な話が大好きです。
アイデアが浮かんだ時から、どうかこうかとわくわくしました。
文章に書いていない部分にたくさん物語を描いています。

宇宙ではなく、海に還るという発想は少し面白いでしょう?
海って、宇宙以上に浪漫を感じると私は思うんです。

14/04/22 泡沫恋歌

草藍 様
コメントありがとうございます。

人類が滅亡してしまうのは悲しいですよね。
だから、新たな進化を遂げて生き残っていくという発想で考えていきました。

陸を捨てて、海に還ったら人類はまた新しい価値観と幸福を手に入れることができると
思うんですよ。

14/04/22 泡沫恋歌

朔良 様
コメントありがとうございます。

SFモノはどうしても、その時代の文化や背景などを説明するのに文字数が要ります。
まあ、この作品もその傾向はあるんですが、2,000文字でどこまで書き込めるか
自分的には、それにチャレンジした作品でもあります。

珈琲の香りを楽しんだだけに終わったかも知れませんが・・・いずれ、長編で書いて
みたい作品でもあります。

14/05/04 ドーナツ

ヤマダ進化論、応援します。
ほんとにそうなるかも。
生物は海から生まれたし、最後は海に帰る、、この考え、ビンゴかなと思います。

水棲生物へ進化を遂げないと>>>これ読んで、思わず、河童を想像してしまった(^^

核がどうとか、物騒でおバカなことを考えてる国へ、「ヤマダ進化論」教えてやりたいです。

14/05/06 泡沫恋歌

ドーナツ 様、コメントありがとうございます。

生物は海から生まれたし、最後は海に還って、もう一度進化をやり直すというのがヤマダ進化論です。

たぶん、地球人が水棲生物だったら、こんなに科学は進歩していなくて平和な生き物として
地球を汚すことなく生きていたと思います。

河童は、きっと地球人の進化系だと思う(笑)

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