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坂井Kさん

今年(2014年)は思い付きと勢いだけで書いてきましたが、来年(2015年)は、状況設定をもう少し固めてから書こうかな、と思っています。スティーヴン・キングによると、「状況設定をシッカリとすれば、プロットは無用の長物」らしいですから。

性別 男性
将来の夢 夢というより目標として、来年(2015年)こそ長編小説を書き上げたい。
座右の銘 明日はきっと、いい日になる。

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何かをすれば腕が出る

14/04/17 コンテスト(テーマ):第五十五回 時空モノガタリ文学賞【 予感 】 コメント:0件 坂井K 閲覧数:1033

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 良く行くバーで、頻繁に顔を合わせる男がいる。本名も職業も年齢も知らない。と言うか、あえて聞かないようにしている。彼の方だってそうだ。日常生活を忘れたくて行っているのだ。本名など名乗る気もない。お互いに適当な呼び名で呼び合っている。彼は「カッパさん」。僕は「ハニワくん」。

 彼がハゲているとか、僕がハニワに似ているとか、そういうわけでもない。本当に適当に名付け合っただけだ。理由も覚えていない。悩み事を相談するとか、愚痴を言い合うとか、そんな間柄ではない。どうでも良いことをグダグダと言い合う。ただそれだけの関係だ。

 カッパさんの喋ることは、基本的に大ボラだ。「20階建てのビルの屋上から飛び降りても傷一つなかった」とか、「金があり過ぎて困るから毎晩マンションのベランダからバラ撒く」とか、そういった誰にでも分かる嘘を、大真面目に語るのだ。

 ただ、その話し方がとても上手くて、ついつい引き込まれてしまう。その上、ちゃんとオチまでつけて話してくれるのだから、(大したものだ)と毎回感心させられる。僕が知らないだけで、カッパさんは実は高名な落語家あるいは落語作家なのかも知れない。まあ、調べるつもりは毛頭ないが。

 仕事が長引いたある日、いつもより遅い時間に僕がバーに行くと、カッパさんはすでにグデングデンに酔っぱらっていて、カウンターに突っ伏していた。「彼、眠ってるんですか?」マスターに聞くと、「俺は寝てねえよ!」カッパさんがガバッと上半身を起こした。「だいぶ酔っぱらってるようですね」と僕。

「酔っぱらってもいねえ」と彼。が、明らかに泥酔している。「今日はさあ、とっておきの話を聞かせてやるよ」いつもとは違う強い口調で、カッパさんは話し始めた。「俺のさあ、身体の中にはさあ、何か知らんが、小人が住んでるんだ」「小人、ですか?」「そうだ、多分、おそらく、そうだ」

「多分、と言うと?」「ああ、実はな、全身を見たことはねえんだ、いつも見るのは、穴から出た『腕』だけなんだよ」「穴って言うのは鼻ですか? それとも耳ですか?」「鼻であることもあるし、耳であることもあるし、その他の穴であることもある」「じゃあ、見せて下さいよ」「いいよ」

「ただ、腕が出るのは俺がある動作をしたときだけなんだ。それを当てられたら、の話だけどな」「簡単な動作ですか?」「初めはノーヒントだ」「あくびをしたときとか、くしゃみをしたときとか」「残念」「ヒントを下さいよ」「俺が良くする動作だ。ここでもな」

 カッパさんが良くする動作、つまりは癖――小指で頭を掻くこと。リズミカルな貧乏揺すり。目を上下左右に動かすこと――ぐらいかな……。僕は思い付いた順に答えて行ったが、どれも正解ではなかった。他に何かあったっけな……。「もう少しヒントを下さいよ」

「俺が自分の話に乗っているとき、ついついしてしまう動作だ」と言うと――「独特な声を出したり、独特なポーズをとったりすることですか?」「どっち?」「じゃあ、ポーズの方で」「正解」「じゃあ、約束通り見せて下さいよ」「どんなポーズかまで当ててくれないと、見せられないね」

 カッパさんが良くするポーズか――すぐに思い出せるものだけでも結構あるな……。「右脚を自分の肩に引っ掛けるポーズとか」「ハズレ」「じゃあ、掌の代わりに膝で頬杖をつくポーズとか」「違うね」「じゃあ、腕を蛇のように脚に巻き付けるポーズでは?」「巻き付け系ではないよ」

 となると、「立ち上がっての決めポーズですか?」「ご名答」カッパさんはホラ話を終えるとき、立ち上がってポーズを決める。それは毎回微妙に違うが、大きく五つの系統に分けられる。喜びのポーズ、怒りのポーズ、悲しみのポーズ、気持ち良いとき(快)のポーズ、気持ち悪いとき(不快)のポーズ、だ。

 口を開け、掌を上に向け、天井を見上げながら膝を曲げた喜びのポーズ。口をへの字に結び、右腕か左腕のどちらかを前に出し、お尻を後ろに突き出した怒りのポーズ。目を細め、背中を丸め、ズボンを脱いだような格好をした悲しみのポーズ――どれも違っていた。あとは快のポーズと不快のポーズだけだ。

「じゃあ、快のポーズで」僕が言うと、カッパさんは唇を尖らし、爪先立ちになり、斜め四十五度の角度で両腕を上げた。直後、「来たよ。来た来た。出て来たよ」僕は身を乗り出した。が、彼の鼻の穴、耳の穴、口などに変化はない。――嫌な予感がする。「もしかして……」カッパさんがヒソヒソ声で話す。

「トイレに行こう。そして、俺のズボンを下げてみな。お尻の穴から出てるから」誰が見るかよ、そんなもん! たとえ小人であったとしても。僕は「結構です」とキッパリと断ると、すぐに店を出た。相手が毛深いオッサンじゃなく、若くて綺麗な女性だったら? 当然あの場で見ていたはずさ。


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