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浅月庵さん

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他人(ひと)殺しと罵られ

14/04/12 コンテスト(テーマ):第五十五回 時空モノガタリ文学賞【 予感 】 コメント:1件 浅月庵 閲覧数:1250

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「おいキヨ、変なおっさんがお前のこと探してるっぽいぞ」掃除を終えて、いち早く教室から出て行ったはずの哲平がわざわざ息を切らして戻って来た。
「なにそれ。つーか、俺の名前言ってた?」俺は手提げ鞄を握り、哲平の横を通り過ぎようとする。
「金髪のツンツン頭で、自転車通学してて赤いヘッドフォンで音楽聞いてて、クロスのネックレス付けた奴って言ってたから、キヨしかいねぇーかなって」随分、細かいところまで情報を握ってるな。
「キヨ、またなんかやらかしたん?」和彦が笑うので、俺はうっせーよって吐き捨てて教室を出るが、どうにも嫌な予感がする。若干、心当たりがあるからだ。

 靴を履き、外へ出る。チャリ置場では複雑に他車同士が絡み合う中から愛車を引っこ抜き、それに跨がる。校門の方に目を向けるが、その“おっさん”とやらは見当たらなそうだ。
 自転車を漕ぐ。耳には愛用の赤いヘッドフォン。ロックは耳に心地いい。自分だけの世界にのめり込める。
 信号なんか見ちゃいない、俺は車通りを見て一旦停止。

 すると、急にハンドルを握る俺の右手に鈍い痛みが走る。
「君だねぇ、犯人は」見知らぬおっさんは、俺の右手を思い切り握りしめている。
「なにすんだよ!」俺は反射的に手を振り払う。もしかして、こいつか? 俺のことを探してる奴は。
「なに、じゃないだろっ! この人殺しが!!」大人しそうな親父が獣のように吠えるので、俺はぎょっとする。しかも人殺しってどういうことだ。
「はぁ? 意味わかんねぇ」この前深夜にムカつく酔っぱらいを殴ったから、そいつが復讐で俺のこと探してるのかと思ってたけど......。
「とぼけるのもいい加減にしろよ! 君は人を殺したんだよ」大人しそうな容姿に似合わず荒げる声はどうしてか、鬼気迫るものがある。
「とぼけてねぇよ。第一証拠があんのかよ」「あぁ、私がしっかりこの目で見ていた」.......見ていたってことは、この前の酔っぱらいの近くにもう一人仲間がいて、それがこのおっさんか。でも、おかしいぞ。俺はその酔っぱらいをたった二発ぶん殴っただけだ。それだけで大の大人が死ぬか?
「見ていたって、俺が殺人を犯すその現場をか?」「あぁ。はっきりと見ていたさ! そして、あと数分で犯行時刻と同じ時間になる」
「今の時間帯に俺が人を殺したってか」仮に酔っぱらいが死んでいたとしても俺が奴をぶん殴ったのは夜中だぞ、おかしい。
「君は本当に身に覚えが無いとしらを切るつもりだね、人殺しのくせに!!」
 あー、わけわかんねぇ。俺はおっさんの言葉にとうとう頭にキて、チャリをその場に投げ出す。「さっきから俺のことを人殺し人殺しってうっせーんだよ!!」俺はおっさんの胸倉に掴み掛かって威圧するが、怖じ気づく気配もない。こいつ、一体誰なんだ。

「そんなに自分の罪を認めたくないというなら、一から説明してあげよう」そう言っておっさんの視線は背後に移る。
 俺もおっさんにつられて電柱の方に目を向ける。その根元には死者に手向けられる花束が置かれている。
「現場はここだっていうのかよ......」
「あの日も君は、ここの信号を渡った」徐々に親父が近づいてくる。俺はじりじりと車道の方へ下がる。
「それがどうした」「その時、丁度信号待ちをしている女性がいたんだ」「女性?」「その子はね、携帯に夢中だった」「なに言ってんだ?」「あのな、君がこの信号を渡ったとき、赤信号だったんだ! でも、君は無視してそのまま渡った!」「それが一体......」そこまで言われても俺と殺人がイコールで結びつかない。
「それにつられた女性はね、君が信号を渡るもんだから、てっきり青信号に変わっていると勘違いして道路に飛び出した、携帯に目線を落としたまま」「おい、それって!」まさか、こいつの言ってることは......。
「その女性は、君がギリギリで躱した車に轢かれて亡くなった。私の“娘”は君に殺されたんだよ!」おっさんはなおも詰め寄ってくる。しかもその女性はこのおっさんの娘だったのか。
「おい、待てよ! 携帯に夢中で周りが見えてなかった娘が悪いじゃねぇかよ!!」納得いかないぞ。何故、それで俺が人殺しになるんだ。
 俺は必死に反論するもどうにも嫌な予感がする。こいつの口から次に出てくる言葉に、とてつもなく嫌な予感を覚える。

「......いや、全部お前が悪い」そう言って親父に両肩を押された瞬間、俺は道路に飛び出す格好になる。赤信号。
 何故俺は、記憶にも残らない他人事のような交通事故の原因として罵られなければならないのか。何故、名前も知らない顔も見たことのない、赤の他人の娘と同じ時刻、同じような形で自らの命を終わらせなければならないのかと自問自答している暇もなく、通りかかったトラックにあっさりとその思考を飲み込まれた。


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このストーリーに関するコメント

14/04/12 yoshiki

読ませていただきました。

えっ? どうなってるの から始まって、読むうちになるほど、なるほど、そうなったかと思い納得しました。
最後のあっさりとその思考を飲み込まれた。 この表現は好きですねえ。
面白かったです(*^_^*)

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