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クナリさん

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異能 The black Lantern of darkness

14/04/11 コンテスト(テーマ):第五十五回 時空モノガタリ文学賞【 予感 】 コメント:16件 クナリ 閲覧数:2004

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新撰組の構成員はその殆どが、幹部による検分を経て入隊している、腕利きの剣客達である。
それは、剣だけが能、という人物の寄せ集めとも言えた。
その中で、監察の山崎烝は少々訳が違う。独自の人脈、金策の腕前、更には医療の心得など、この人斬り集団の中では異能と呼べる類の才に優れていた。
ただ、信用に足る記録に乏しく、未だもって謎の多い人物である。
立場上、斬り込みの際に最前線へ立つ役目ではなかった。が、山崎は裏方でありながら、剣気盛んなことを最も評価する新撰組局長の近藤勇から、随分愛されていたことが伝わっている。

江戸時代末期、幕府による京都の治安維持の為に置かれていた新撰組は、その性質上、長州、薩摩、土佐、水戸等々、諸藩入り乱れての諜報合戦の中にあった。
副長土方歳三は情報戦に腐心し、幕府に敵対する藩の間者と疑わしき者があれば、容赦なく隊士を斬った。
その為の情報の収集にも、山崎が属する監察方は活躍した。同時に隊士にとっては、どこを取って二心を疑われるか、監察は内部の脅威であった。

山崎は、剣の他に棒術を収めていた。十番隊の式村宗佑は、道場で山崎と二人になった折、余興がてら、一度その妙味を味わったことがある。山崎の余興は珍しい。
式村に木刀を構えさせ、山崎は物干し竿を手にした。
山崎が竿の先で、式村の剣先を左右からぱしぱしッと一度ずつ叩くと、しかと握った筈の式村の手から、木刀があっさりとはたき落された。三度やって、全て同じ結果だった。
「山崎さん、これは凄い」
「座興だ。俺は棒はいいが、剣の腕が無い。こんな曲芸、空しいものだ」
山崎は剣も達人であり、これは嘘である。

一八六四年、六月末。
長州藩勢を中心とした倒幕派の集会が近々あることが、新撰組にも知れていた。だが、それがいつどこなのかが掴めない。
山崎はじめ監察は、市井に紛れて倒幕派の動きを探った。
ある夜、流行らぬ旅籠に、山崎が客の振りをして潜入していた時のことである。月も隠れがちな闇の中、勝手口の外辺りを見分していた山崎は、右手に気配を感じた。
「式村君か」
闇夜の人影は答えなかったが、山崎は構わず続けた。
「長州藩邸で、面白おかしく囃されているらしいな。新撰組は、幹部様が剣よりも物干しが得意だと」
「あの絶技です、噂になるでしょう」
声は、やはり式村。
「俺があれを見せたのは、京に来てから君と副長だけだ」
人影が、嘆息する。
「嵌めましたか」
「君が間者だと、特別の証左があった訳ではない。ただの予感だ、俺ではなく副長の。大抵外れないがね、あの人のは」
「山崎さん、あなたは新撰組にあって異能です。恐らくあなたがいると、たかが人斬り集団の下手共が、酷く上手になる。私のこれも予感ですが、きっと当たる。我らには、厄介です」
式村が剣を抜いた。
大小を旅籠に預けている為に丸腰の山崎は、脇に立てかけてあった、つっかえ棒か何か、太刀程度の長さの棒を取って構えた。
式村は、山崎の例の技を警戒した。だが、さすがに真剣で後れは取るまいという棒術への侮りがある。
驕りは、意識を幼稚にする。しかも相手は山崎、ここで勝負あった。
濃い闇の中、山崎の棒が、下段に揺れた。式村の幼稚化した意識の八割が、下へ向く。
瞬間、どう繰られたものか、棒の腹ではなく先端が、いきなり式村のこめかみを強かに突いた。視界を火花が覆う。
仰天と衝撃で途切れかけた意識を立て直した時、式村の手の中から刀の重量が消えた。
山崎に奪われた、と悟った時には、式村の両腕が肘から切り落とされていた。目眩が止むと、白刃を構えて残心する山崎が闇の中に浮かび、式村の戦意は霧散した。
「仲間の集う場所を言え」
されば命だけは助けてやる、とは、山崎は言わない。白々しくなる。
言わない方が、式村の様な男は可能性にすがる。式村自身もそれを悟った。
「また、予感だがね……、山崎さん、あなた、むごく死ぬよ……」
山崎は式村を気絶させて止血し、近隣の部下を呼んで、裏切者を屯所へ送って拷問にかけるよう指示した。

監察はその後七月八日、会合の当日に反幕府分子の結集する場所を池田屋と四国屋に絞り、新撰組は二手に分かれて同時刻に両方へ斬り込んでいる(四国屋は土方率いる本隊が踏み込んだが無人であり、土方は大急ぎで池田屋の分隊へ合流したという)。
監察なくして新撰組の活躍は無く、また、山崎なくしてその監察は無かった。
山崎は後年、鳥羽伏見の戦いでの鉄砲傷が悪化し、苦しんで死んだ。
むごいと言えばむごく、式村の予感、いや呪詛は、一応当たりはした。
だが新撰組幹部で、報われて死んだ人間はそもそも少ない。

山崎の人生は、その役割上偽名や隠蔽事が多く、冒頭述べた様に謎が多い。
ただ彼が、新撰組でも一際濃い闇を生きた、並ならぬ異能であったことは伝わっている。


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このストーリーに関するコメント

14/04/11 クナリ

このエピソードは創作であり、式村宗佑は架空の人物です。

14/04/12 ナポレオン

拝見いたしました。
内容もさることながら、扱いの難しい歴史ものとしてはまったく違和感を感じずに読めたことに感嘆いたしました。やはり面白い話は細部が作りこまれてしっかりとしているという当たり前のことを改めて考えさせられるお話でした。

14/04/12 泡沫恋歌

クナリさま、拝読しました。

新撰組いいですねぇ〜♪ 大好きです!

私は幕末は歴史的に難しい上、熱烈なマニアが多いので、怖くてとても手を出しません。
自分は平安時代の貴族と江戸時代の庶民が、一応時代小説における分野です。

それにしても、クナリさんの抽斗の多さに感服します。
剣術のシーンも迫力があって巧いなあーと感心させられました。

いや、もお〜凄い人ですね。クナリさんは・・・O┓ペコリ ← 頭が下がる

本格的時代小説をありがとうございました。

14/04/12 yoshiki

読ませていただきました。

新選組お好きなのですね。お調べなって書かれたと思います。
史実にもとずくお話は、書きやすいと同時に、とても書きにくいと思います。その情熱に拍手を送りたいですね。素晴らしいです(*^_^*)

14/04/13 クナリ

ナポレオンさん>
歴史ものの難しいところは、調査や時代考証ではなく、「そうじゃない!」と激昂する識者の皆さんだったりするようなそんなような。
一応、新撰組にあまり興味のない方でも読みやすいように書いたつもりなのですが、細部なんぞしっかりしていませんよー、知らないことだらけですから。
うれしいお言葉、ありがとうございました!

泡沫恋歌さん>
そう、熱烈な方々が多いのです。
ちょっと調子に乗ると、「それは史実と違う!」と怒られたりしますからね…今生きている誰も、あったことのない人々のことでも…。
いええ、ちっともすごくないですよ、抽斗はあげぞこですかすかですよ!
ちゃんばらシーンは、我ながらノリノリで書いてますね(^^;)。

yoshikiさん>
新撰組は好きなのですが、それほど多くの資料を読み込んだわけではなく、時代小説を読みふけったわけでもなく、半可通のお手本のような状態です(^^;)。
京都には池田屋事件のときの刀傷が残った端のギボシなんかもあるそうなので、一度見てみたいものです。
歴史もの、不思議なもので、いっとう大好きな源義経はなかなか書けません…。なんでだろう。

14/04/16 草愛やし美


拝読しました。クナリ様。

クナリさんの創作上の式村殿を実在の如く感じます。架空ながら、そのことを、微塵も感じさせない筆運び、今にも史実に、式村宗左佑が表れて歴史を歩いていたかのような気持ちになりました。
剣術のシーン恰好いいですね、映画の垣間見たような……素晴らしい。

14/04/17 メラ

クナリ様。拝読しました。

新撰組、歴史モノ。大好きです。でも自分では書きませんけど。
クナリさんはこういう文章も書けるのですね。その多彩、多才さに感服。
まるで現代のノン・フィクションを読んでいるような、そんな感じでした。

14/04/17 朔良

クナリさん、拝読いたしました。
式村とエピソード丸ごと創作なのですか!
史実部分と創作部分の融合がお見事で、引き込まれてしまいました。
映画ののワンシーンを息をつめてみているような感覚です。
すごく面白かったです。

14/04/17 クナリ

草藍さん>
歴史を題材にした話に、オリジナルキャラクタを登場させるというのは、自分の中では反則だと思っています…が、やってしまいました(^^;)。
まあ、歴史というのはどうしたところで二次創作のような価値を持ってしまうというのは避けられないのですけども。
新撰組を扱う以上、ちゃんばら(してないけど)はやはり一番大事だと思いますので、そう言っていただけてうれしいです!
ありがとうございます!

メラさん>
前回に沖田総司が出てくる話を書きまして、で、今回は山崎さんなわけですが、思っていたよりも多くコメントを寄せていただいていて、うれしいやら驚きやらです。
自分が歴史なんぞ書いても、一顧だにされないんじゃないかと思っていましたから…。
以外に多いのですね、歴史好きの方々ッ。
自分では不器用だと思っていたのですが、最近器用さを評価されるような機会が増え、もしや自分は起用なのではなかろーかフフフ、ときもちわるく笑っておりますフフフ。
ともあれ新撰組の魅力が、少しでも表現できていればうれしいです。


朔良さん>
ははッ、丸ごと創作であります!
これでも少し調べてはおりまして、時代背景や実在の人物の設定なんかは一応の史実どおり、ではあるのですが、「史実」は「事実」ではないという歴史学の大前提を「カッコよさ」が駆逐してしまう悲しさに打ちひしがれているのであります(?)。
殺陣のシーン(すぐ終わっちゃうけど)は、映像を考えて、カメラワークなんかも含めて想像してから書きました。
映画っぽさが出ていれば、うれしいです。

14/04/20 クナリ

OHIMEさん>
歴史物を書くのに必要なのは、おそらく、最低限の下調べ、先人と時の折なしに対する敬意、そして何よりコアな歴史ファンの矢ぶすまのごときお叱りに耐える鉄の意志です。
ここまでの二作はほとんど創作でしたが、そろそろ史実どおりのものもちゃんと書いてみたいとは思っています(言うのはタダ)。
殺陣は時代劇の顔ですから、できる限り魅力的に仕上がってくれたまいと願いながら書いています。
ありがとうございます。

メイ王星さん>
そうッ、地味な立場ながら何気に新撰組の屋台骨、それが山崎さんです。
土方さんや沖田さんに比べて、活躍しているところはなかなか見かけないですからね(監察なので、仕方ないといえば仕方ないのですが)。
仕事柄、名前を偽ったり姿を消したりでまともに記録も残っておらず、「この史料のここに出てくる人物って山崎っぽいんだけどなー…でも確証ないなー…」ということがよくあるようです。
ススム・ヤマザキの魅力が少しでも伝われば、幸いです。

14/04/24 黒糖ロール

拝読しました。

ほんと構成から人物の表現、文章に至るまでお上手ですね。見習いたいものです。
史実にある程度基づく物語を面白く書ける方は尊敬します。
私も沖田総司をいつか書いてみたいです…。

14/04/25 クナリ

黒糖ロールさん>
やはり実在の人物(しかも割りと近代)を扱うので、それなりにいろいろ気を遣ってはおりますが、そういっていただけてありがたいです。
史実だけを書いて、それが面白いというのが理想なんですけどね。
ええぜひ書きましょう沖田さんいいですねえ沖田さんッ。


14/05/03 光石七

池田屋事件の背景、本当にこうだったのではないかとまた信じそうになりました(苦笑)
謎が多い山崎も架空の人物である式村も生き生きと魅力的に描かれていて、クナリさんの力量に感服しきりです。

14/05/04 クナリ

光石さん>
いかにもっともらしく書けるか、というのも自分の中でのチャレンジだったりします(^^;)。
本当はもっと血しぶき剣舞う、けれんみたっぷりのほうがいいのかも知れませんけども、まあひとまずこのような地味な感じでッ。
でも、こう、歴史ものであることを意識した自分の、しょせんミーハーであることが丸分かりである文体は、読み返していて非常に恥ずかしいのである。である。ヒャア恥ずかしい。

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