小李ちさとさん

面白いと思ったことだけをやりたいのです。 space a:kumoというくくりで、ごそごそ活動しています。

性別 女性
将来の夢 砂漠で死ぬこと。
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The Rain

14/04/08 コンテスト(テーマ):第五十四回 時空モノガタリ文学賞【 激しい雨がふる 】 コメント:8件 小李ちさと 閲覧数:1460

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どかどかどか、はげしい雨がふっています。バケツくらいではもの足りなくて、風呂おけでも足りなくて、小学校のプールをひっくり返したみたいな大雨です。ちいさな坂道は川のようにあばれ、せまい溝はとうの昔にあふれていました。石ころもだれかの落としものも、ぜんぶぜんぶ流されてしまいそうです。あちこちでぶつかりあった水流が、街灯の光を反射してきらきら光っていました。
からだが痛いなぁ、とおもいながらモーリシュは、踊るように動いているヤヌーシュカをながめていました。ヤヌーシュカが動くたびに水滴の軌跡がはしって、うつくしい線を描きます。とてもきれいなその光景を見るのが、モーリシュは好きでした。
「……死んじゃった?」
動きをとめたヤヌーシュカに、モーリシュは尋ねます。
「うん。死んじゃった」
ヤヌーシュカは答えて、手にしたナイフをぽいと投げすてました。右手には血だらけのハンカチが残りました。
「モーリシュ、準備しといて」
モーリシュは返事をしましたが、それは雨の音にかき消されてしまいました。でもヤヌーシュカは返事がないことを気にもしません。ヤヌーシュカはいつだって、返事があろうがなかろうがおかまいなしなのです。
ぴんと立てた人さし指にヤヌーシュカが息をふきかけると、めらめら炎がともります。ヤヌーシュカは鼻歌交じりに、ハンカチを指先で燃やしてしまいました。
「モーリシュ、消して」
うなずいたモーリシュが炎をにぎると、あたりは暗やみに戻ります。ヤヌーシュカはやっぱり血まみれになったレインコートをぬぎ、もう一度指先に炎をともすと、手際よくレインコートも燃やしつくしてしまいました。モーリシュは炎を消し、かばんからとりだしていた新しいレインコートを、ヤヌーシュカに渡します。
「今度は水色か」
「水にも色があるの」
「水にはないな」
「じゃあどうして、水色っていうの」
「さあな」
ヤヌーシュカはかるく答えて、レインコートを頭からかぶりました。
「ヤヌーシュカは、どうして色がわかるの」
「モーリシュはどうしてわからないの」
「それにどうしてヤヌーシュカは、人さし指に火をつけられるの」
「どうしてモーリシュは、つけられないの」
「でもぼくは、火を消せるよ。ヤヌーシュカは消せない」
「どうしてモーリシュは消せるんだろうな」
「ぼくだけじゃない。みんな消せる。ヤヌーシュカだけがみんなとちがう」
「なんでだろうな」
「ちがうことは、かなしい?」
モーリシュはヤヌーシュカに尋ねました。
「かなしくなんかないよ。どうしてかなしいとおもうんだい?」
ヤヌーシュカはぎょっとして聞きかえしました。
「だぁれもわかってくれなかったら、かなしくない?」
「じぶんのことをか?」
「そう。じぶんのことを」
ヤヌーシュカは首をかしげました。
「わからないな。そういうふうに考えたことはない」
「ヤヌーシュカは、ずるい」
「そうかもな」
肩をすくめて、ヤヌーシュカはこたえます。水滴の軌跡がちいさく散ります。
「どっちだっていいんだ。モーリシュがいれば、それでいい」
「ぼくも、ヤヌーシュカがいればいい。でも、だからヤヌーシュカのことを知りたいとおもうのは、いけないことかな」
「いけない、なんてことはないよ。だけど、そうだな……じぶんのことは、よくわからないから」
「やっぱりヤヌーシュカは、ずるい」
モーリシュが言うと、ヤヌーシュカは声をあげてわらいました。
「まぁいいや、早く次にいこう。さっさと今日の分を終わらせないと、時間がなくなってしまう。これ以上、降水管理局に借りをつくるのはごめんだ」
ヤヌーシュカが降水管理局をたいへんきらっているのはモーリシュもよく知っていましたから、それ以上はモーリシュもなんにも言わずに、歩きだしたヤヌーシュカのあとを追いかけました。
どかどかどか、はげしい雨がふっています。小学校のプールをひっくり返したような雨です。ぜんぶぜんぶ流されてしまいそうです。モーリシュとヤヌーシュカの足あとも、ふたりが去ったあとに残る、ナイフと亡骸も。


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このストーリーに関するコメント

14/04/10 浅月庵

小李ちさと様
初めまして、拝読させていただきました。

二人の会話は不思議なようでいて心地よく、
だけどポップな文体に反して内容は少しダーク。
次第に惹かれる魅力的な作品だと思います。

14/04/11 小李ちさと

浅月庵 様
コメントありがとうございます。
初めての投稿だったので、反応いただけて小躍りしています。
童話っぽい文体で後ろ暗い話を、わけのわからないものとして描きたかったので
いただいた感想、とても嬉しいです。
これからいろんな挑戦をしてみたいと思っているので、どうぞよろしくお願いします。

14/04/11 小李ちさと

長月五郎 様
コメントありがとうございます。
はい、これは、「これは一体なんなの?」と言われたくて描いたものです。
なので不満足いただけたなら たいへんうれしいです。
今後いろいろ試してみたいと思っているので、よければ ぜひまたご意見を下さい。

14/04/14 gokui

 読ませていただきました。
 何か物語の中に深いものがありそうですが、残念ながら読み取ることが出来ませんでした。が、雰囲気が独特でいいですね。きっと書き慣れていらっしゃるのでしょうね。

14/04/14 小李ちさと

gokui様
コメントありがとうございます。
深いものがあるというよりは、もっと長い流れの一部分、ワンシーンだけ、というイメージです。
雰囲気は気を遣ったので褒めていただけて嬉しいです!
書くことは小さい頃から大好きで、ずうっとごそごそ書いています。慣れているかは分かりませんが…(笑)
こちらのサイトでもたくさん書きたいと思っているので、よろしくお願いします。

14/04/19 小李ちさと

OHIME様
コメントをありがとうございます。
なんだか とってもお洒落な感想を頂けて、どきどきしております。
ありがとうございます。
OHIME様のコメントを拝読して、
そうか、この二人は まったく違うから ぴったりはまるのだな、
と気付きました。
凹凸の具合が丁度良いのでしょうね。
わけの分からないものを描きたかったので、「よく解らないけれど、とても好き」
と言っていただけたことが嬉しいです。
いろんな描き方をしてみたいなと思っているので、ぜひまた よろしくお願いします。

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