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W・アーム・スープレックスさん

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予感獣

14/04/07 コンテスト(テーマ):第五十五回 時空モノガタリ文学賞【 予感 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1259

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 しんとした座禅道場には、コヌカをはじめとする採掘技術者たち十名が、石地蔵のようにじっと座り続けていた。
 みな、ピクリとも動かない。
 それもそのはず、背後からにらみをきかす禅僧のもつ警策でたたかれる痛みは、なまやさしいものではない。最初はいまの倍の数の参禅者がいた。が心がみだれ、精神集中に失敗したものたちは次々と離脱していった。
 それができないものは到底、サトリ星で生き延びることなど不可能だった。

 一週間後、座禅による無我の境地に達することができたコヌカたち十名は、資源採掘船に乗せられ、サトリ星に送り届けられた。
 サトリ星の地下で採れる天然資源は宇宙で使用する燃料には最適だった。この天然資源を求めて諸惑星から多くの採掘船が飛来した。
 が、ここにはひとつ、非常に高い難関がまちかまえていた。
 これからコヌカたち技術者をまちかまえている相手がそれだった。
 コヌカたちは、船から採掘場までの間を、座禅道場で確立した無我の境地でやってきた。
 いちどでも気持ちがゆらいだら、予感獣が襲いかかってくる。予感獣は、文字通りわれわれの行動を予感し嗅ぎつける能力をもった恐ろしく獰猛な獣だった。
 予感獣はわれわれの心の乱れを予感し、襲いかかってくる。
 人間たちはつねに先手先手をこされたあげく、気がついた時には喉笛を食い裂かれているのだ。
 これまで地下資源の採掘権を得ようしてやってきた連中のほとんどが、目的をとげることなく敗退していった。コヌカたち採掘技術者が禅道場で修行した目的は、予感獣にさとられない統一できた精神を確立することにあった。
 
 コヌカたち採掘技術者たちは、荒涼とした暗い大地を前進していた。
 強烈な殺傷能力を有する武器で身をまもってはいるものの、そんなものが予感獣の前ではなんの役にもたたないことはみんな知っていた。
 なにもおもわず、考えず、あくまで無念無想―――宇宙船から降りて以来彼とその仲間たちは、かたときといえどもその精神状態から逸脱しないようにしていた。
 わずかでもこの状態が崩れ、ちょっとでも煩悩がわきおこったらさいご、それによってできた人間たちのすきを、けっして予感獣はみのがさないだろう。
 予感獣は、我々が気づくよりも必ずはやく、われわれの心の乱れを察知する。それをさせないためにも、徹底して無我の境地を維持しなければならなかった。
 ふいに前方に、影がゆれうごいた。
 コヌカも、他の仲間たちも、平然とした態度でその方向をみやった。
 体長3メートルほどの、青みがかった灰色の毛に覆われたたしなやかな胴と、引き締まった四肢をもった一匹の獣がそこにうずくまっていた。
 予感獣だ。
 巻き毛が鬣のように首筋になびいている。その毛の一本一本がいわばアンテナとなって、我々の精神の動きを機敏に感じ取るのだ。
 技術者たちは、きわめてゆっくりとした足取りを保ちつつ前進をはじめた。
 コヌカは、自分がいま完璧な無我の境地にあることをしった。
 あらゆる人間の煩悩から脱却してゆく自分を意識し、これまで味わったことのないぐらい心は澄み切った静謐にみたされはじめた。
 仏教の開祖釈尊が覚りをひらいたときもこのようなものではなかったのかと、いま自分がひたっている境地のすばらしさに彼は法悦の歓びを感じた。
 欲望がひとつひとつ自分の中から去っていき、もはや彼からは欲も得もきれいさっぱりなにもなくなっていた。
「おお」
 仲間が驚嘆の声をあげるのをきいたコヌカは、彼もまた無我の境地を獲得したことに歓喜しているのをしった。
 それはほかの連中も同様のようで、かれらが次から次に涅槃の境地にはいってゆくのが、その無垢なまでに晴れ晴れと輝いた表情からみてとることができた。
「みんな、これから真理について、はなしあおうじゃないか」
 技術者のひとりが、岩のうえに結跏趺坐の姿勢になって、にこやかにいった。するとみんなも手にした武器を地面に放り棄てると、彼のまわりをとりまくようにして座った。
 コヌカも、その車座のなかに座り込んでもはや地下資源の採掘権などそっちのけで、真の幸福とはなにかを語りだした仲間の声にすすんで耳を傾けた。
 
 その様子を、岩の上から予感獣が鋭い目を光らせながら、じっとみおろしていた。
 もはや、まったく無害な存在になってしまったかれら人間たちの息の根をとめるのは、いまならじつにたやすいことだった。
 いやこのままほっておいても、かれらが涅槃の境地とやらに浸りきり、幸福の絶頂のまま息絶えていくのは目にみえていた。これまでにも、すでに何人もが、かれらとおなじ運命をたどっているのをかれはみていた。
 すべては、予感どおりだった。
 予感獣は、空に向って、勝ち誇ったような咆哮をあげた。















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このストーリーに関するコメント

14/04/10 W・アーム・スープレックス

長月五郎さん、はじめまして、コメントありがとうございました。

『梵天勧請』不勉強で読んでいません。もうひと波乱あった方が―――確かに面白かったように思います。獣の目を通して描いたほうがよかったかなとも………あとになっていろいろ課題が湧き出した作品でもあります。

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