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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

性別 女性
将来の夢 可愛いおばあちゃん
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プリマヴェーラ

14/04/06 コンテスト(テーマ):第五十三回 時空モノガタリ文学賞【 太陽のせい 】 コメント:10件 光石七 閲覧数:1173

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 あの日雨が降っていたら、空がどんより曇っていたら、君と出会うことは無かっただろう。風が強かったり、寒かったりしてもあの出会いは無かった。よく晴れた穏やかな春の一日。だからこそ、僕のような出不精も珍しく外で昼を食べる気になったんだ。
 あの日、午前の就業時間が終わると、春の陽気に誘われるように僕は会社の外に出た。そしてコンビニでお茶とおにぎりを買い、公園に向かった。木陰のベンチをみつけ、腰掛けた。心地よい木漏れ日に爽やかな風、目に映る色とりどりの花々。僕はゆっくり深呼吸した。たまにはこういうランチも悪くない。鼻歌交じりにおにぎりのビニールをはがし、いざかぶりつこうとした瞬間――君が現れたんだ。
 花模様のスカートに若草色のカーディガンがふわりと揺れる。長い黒髪がそよ風になびいて……。切れ長の目、愛らしい唇、ほんのり染まった頬。柔らかな日差しを纏う君は春の女神そのものだった。僕はおにぎりの存在など忘れ、ただ君に見惚れていた。
 次の日も、その次の日も、またその次の日も、僕は昼休みになると公園のベンチに向かった。もちろん君に会うためだ。君の会社は僕の会社の近くなんだね。毎日お昼を買いに外に出るんだね。内勤で昼も社食ばかりだった僕は知らなかったよ。
 園宮美桜――君の名前。カーサ・ヴィオレ302号室――君の住んでいる部屋。映画鑑賞、クロスワード――君の趣味。苦手なのはゴキブリとナメクジ。駅前の『マシェル』のチーズケーキがお気に入りで、時々買って帰る。ちょっぴり引っ込み思案だけど裏表が無い優しい性格で、会社でも信頼されている。中学からの親友を大事にしていて、今でもしょっちゅうやりとりしている。……君のことを知れば知るほど、君に惹かれている自分を自覚する。はにかむ君。僕の視線に気付いて恥ずかしそうに俯く君。君の表情一つで、僕は幸せな気持ちでいっぱいになる。インドア派のはずの僕が、外出が苦にならなくなった。僕を変えたのは君だ。きっかけはあの出会い。春の太陽がくれた出会いだよ。あの日の太陽が僕を外へと誘い、君と引き合わせたんだ。
 今日は君の誕生日だね。君の大好きなガーベラを花束にして、プレゼントを用意して、君の部屋に行くよ――。


「ストーカー規制法って知ってるよな?」
訪ねてきた警官が僕に言う。
「被害者から相談があった。度重なる待ち伏せや付きまといに迷惑していると。君に園宮美桜さんへの接近をやめるよう警告する」
「どうしてですか? 僕らは愛し合ってるのに」
何故警告を受けるのか、理解できない。
「君が思い込んでるだけだ。彼女は君を嫌がっている」
「恥らってるだけですよ。大人しい子だし」
彼女、シャイだからね。
「その大人しい彼女が、思い余って警察に相談してきたんだ」
警官がため息を吐いた。
「誰かに好意を持つのは人として自然なことなんだが、相手が嫌がることをしちゃダメだ。どうして彼女に付きまとうようになった?」
「どうしてって……太陽がそうさせたんです」
そう、あの春の太陽が僕らを結びつけた。
「……カミュの『異邦人』の受け売りか?」
警官がこわばったような顔で呟く。
「何ですか、それ?」
「……知らないならいい。とにかく、彼女に近づかないように。ちゃんと警告したからな。これからもストーカー行為を続けるようなら、告訴されて相応の処罰を受けることになるぞ」
言い残して警官は帰っていった。
 ――処罰? 僕が何の罪を犯したっていうんだ? ねえ、君。僕はただ君を好きになっただけ。これが罪だというのかい? そんなはずはないよね。
 明日は君が楽しみにしてた映画の試写会だね。もちろん行くだろう? 楽しんでおいで。僕は残業で行けないけど、終わる頃には会場の外で君を待ってるから……。


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このストーリーに関するコメント

14/04/07 かめかめ

なんか、可哀想な主人公ですね。ストーカー怖い、とかじゃなくて。
「太陽がそうさせた」というセリフがホントに合いますね。

14/04/07 泡沫恋歌

光石七 様、拝読しました。

どんなに自分が好きでも相手が嫌がっていては恋は成立しない。

恋の基本中の基本が分かってない、この男性はきっと恋愛経験が少なくて・・・
たまたま公園で出会った、彼女に衝撃的な愛を感じたのでしょうね。

ああ、無常というか・・・このままでは警察のお世話になりそう。

主人公の心理を細かく描いておられて面白かったです。

ありがとうございます。

14/04/07 草愛やし美

光石七様、拝読しました。

「ああ、そうなの、あらまあ、そうだったのね」と、思わず呟きました。
本人にとっては、こんな感じなのかもしれませんねえ、でも、相手にとっては迷惑なこと。犯罪者になってしまうのは、こういう心理なのでしょうねえ、困ったものです。思い込みって、どうすればわかってくれるのでしょう、深刻な社会問題です。太陽のせいだと言われてもねえ……。うまいですね、ストーカーってこんな感情でいるのかなって思いました。美桜さん、充分お気をつけてくださいと、祈らずにはいられません。

14/04/08 朔良

光石七さん、拝読いたしました。

素敵なボーイミーツガールのお話かと思っていたら、どんどん不穏な雰囲気に…。
してる方は純愛だと思っていても、されている側にとってはただのストーキング。
今の世の中では大きな犯罪につながりかねない場合もあるのが怖いですよね…。
ぞくりとさせられる太陽のせい、おもしろかったです。

14/04/08 光石七

>かめかめさん
コメントありがとうございます。
単なる勘違いストーカー野郎のつもりで書いたのですが、主人公がかわいそうとおっしゃるかめかめさんの優しさに、なんだか胸が痛みます。
無理矢理「太陽のせい」というテーマにこじつけたのですが(苦笑)、台詞に納得するところがあられたようで、うれしいです。

>泡沫恋歌さん
いつもありがとうございます。
ええ、近いうちにこの主人公は警察のお世話になるかと。彼女が迷惑してるなんてこれっぽちも思ってない、反省ゼロ。
想像で独白風に書いたのですが、楽しんでいただけてよかったです。

>草藍さん
いつもコメントありがとうございます。
主人公には全く悪気なし、思い込みは怖いです。
ストーカーしたこともされたこともありませんが(したことあったらヤバいですね(苦笑))、「こういう人もいるかも」と思っていただけたのなら、少しは説得力があったのかな……?
誰か美桜のそばについていてくれるよう、私も願ってます。

>OHIMEさん
いつもいつもありがとうございます。
やはり途中でわかりましたか(苦笑)
警察もまだるっこしいですね。一応この主人公は暴力的なことはしないつもりで書いてますが、近年のストーカーが引き起こした事件を考えると……
光石をストーキングする物好きはいないと思います(笑)。いたとしても、田舎は近所付き合いが密ですし、田んぼ道をついて来たら目立つでしょうね(苦笑)
こちらこそ、OHIMEさんの作品にはいつも唸らされてます。

>朔良さん
いつもコメントありがとうございます。
朔良さんもだんだん不穏な空気を感じられましたか。
おっしゃる通り、主人公は純愛のつもりなのでたちが悪い。一応こいつ(笑)は、肉体的に相手を傷つけたり、卑猥な言動をぶつけたりしないタイプのつもりですが。
面白かったとおっしゃってくださり、うれしいです。

14/04/08 四島トイ

拝読しました。
テーマを大切にされた作品だと感じました。主人公の視点からのみ語られる「彼女」の存在がどこか浮世離れた理想像としてのみ描かれていて、主人公の盲目さというか、本当に目が眩んでいる様子が伝わってきました。カミュの『異邦人』を引用された点が個人的にとても好みでした。

以下2点は、一読者としての要望です。
一点目は、前段の独白が誰かへ向けられていればと思いました。手紙でも日記でも告白でも。使い古された技法ですが、光石七様であれば凡庸となることなく、よりインパクトある表現ができたのではないかと思いました。二点目は、警察官が主人公宅へ警告をしに来ている点です。規制法を後ろ盾にするのなら警察署に呼び出されるような気がして少し疑問でした。

拙い感想ですが御容赦ください。次の作品を読めることを楽しみにしております。

14/04/09 光石七

>四島トイさん
コメントありがとうございます。
主人公は完全に自分の世界に入っているので、そこが伝わってうれしいです。
ご指摘もありがとうございます。
独白は、おそらくこいつ(苦笑)には友達がいないだろうし、自分の世界で生きている部分が大きいので、特定の誰かに向ける形にはしませんでした。表現が凡庸で工夫が足りないのは自分でも感じます。
警官が訪ねてくるよりも出頭するほうが自然、というのはごもっともです。短時間で作った話で、十分に調べなかったので。警察が電話で事実確認する場合があることは知っていましたが、他の警告の仕方がわからなくて。少し突っ込んで検索したら出てくるのに、書いてる時は頭が回らず……
言い訳がましくなり、すみません。
描写の工夫や十分な資料集めのためにも、余裕を持たなくてはいけませんね。そして十分推敲してから投稿したいものです。
それでもいろいろボロは出ますが(苦笑)、率直に教えていただけるとありがたいです。
本当に、ご意見に感謝します。

14/04/21 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

恋のはじまりかと思ったら、途中から雲行きが怪しくなり……
最初は純粋な恋心であったと思うのに、あらら、暴走してしまいましたね。
勝手に彼の春の女神にされてしまった彼女はたまったものではありません。

14/04/21 光石七

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
美桜からすれば迷惑だし気味悪くて怖いし、絶対嫌ですよね。
主人公、純粋と言えば純粋なのかもしれませんが、思い込みが強すぎて暴走するのはいただけません。
恋は素敵だけど怖いものでもありますね。

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