糸白澪子さん

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貴方

14/04/01 コンテスト(テーマ):第五十四回 時空モノガタリ文学賞【 激しい雨がふる 】 コメント:1件 糸白澪子 閲覧数:1186

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独り、アスファルトの上を傘も無しに歩く。イヤホンから聞こえるラジオの天気予報のキャスターはこれから強い夕立ちが来ると言っている。ここら一帯には暴風雨警報も出ているらしい。
垂れ込める重い曇を見上げる。どうせなら、その雨になってしまいたい。どうせなら、雨になってしまって、この心のままに貴方を困らせたい。困惑させたい。貴方の傘を吹き飛ばして、空っぽの貴方に降るのだ。独特の匂いと共に、真夏の生暖かい雨粒一つ一つになって、どうどうと音をたてながら、貴方に降り注ぐのだ。そうやって、私で貴方を満たしていくのだ。
ぽつり。私の左肩に一滴の透明な粒が落ちてきた。それは白いブラウスの上にじんわり染みて私の肌をも通って、心に入っていった。こんな風に、貴方の側に行ってしまえるのに。今日の夕立ちになれば、貴方の側に行くことも、貴方の気を引くことも、簡単に出来てしまうのに。貴方の心に、留まることができるのに。こんなにもすんなりと、出来てしまうのに。
私には優しく貴方の隣に立つことは出来ないの。貴方のその脳裏に私の影を浮かばせることもできないの。だから、だから雷を連れて行く。貴方に雷を落としてしまおうかしら。そうすれば、倒れこんだ貴方に身を寄せられるのに。誰より近くに、身を寄せられるのに。この胸の高鳴りのままに、貴方の名を呼ぶことができるのに。
ぽたぽた降る雨は風も運んできた。ざわざわと木々が騒ぎ、風が向日葵を大きく揺さぶる。私は美しくない。気前もよくない。愛嬌もない。私は花には成れないわ。でも、きっとそう、夕立ちには成れると思う。いや、絶対成れる。豪雨には、成れるわ。そうやって貴方に迷惑かけるのよ。傘や雨具じゃ防げないような雨になって、貴方を濡れ鼠にしちゃうの。ねえ、そうしたら、貴方は少しは私のことを気にかけてくれるでしょう?振り向いてくれるでしょう?私を、見てくれるはずよね。
本降りになってきた雨は私の髪を濡らしていく。ふう、ため息一つ、雨の中に入っていった。すると、ずっと私独りしか居なかったこの道を、誰かが私を追って走ってきた。振り返って見えたのは、貴方だ。あの姿はきっと貴方だ。貴方は私に駆け寄って、傘を差し出した。息を弾ませながら、貴方は「これから強くなるらしいから、これ、これ、つ、使って」なんて言う。「俺は平気だから」それだけ言い残して貴方は走って行った。ぽたぽた降る雨の中、貴方が貸した傘を差す。雨粒は貴方の傘の上で柔らかに踊りながら下へと落ちていく。
ああ、私は雨にも成れなさそうね。くすっ…小さな笑いはため息と共に、消えた。ラジオの天気予報キャスターは、暴風雨警報の解除を伝えている。どうやら、晴れるらしい。


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このストーリーに関するコメント

14/04/15 gokui

 読ませていただきました。
 なんか二人の関係が気になる作品でしたね。雨もうまく使っていて詩を読んでいるような感覚でした。

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