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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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清算感情

14/03/26 コンテスト(テーマ):第五十四回 時空モノガタリ文学賞【 激しい雨がふる 】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:948

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 吐き出せなかった感情の行く先を、僕は三年後に初めて知る。
 
 高校合格。自分の受験番号を掲示板に見つけた時、人目も気にせず喜んだ。
 すると、隣の小柄な女の子が視界に入る。小さな黒髪のその子は目が大きくて色白で、マフラーを口元まで上げていたのできちんと顔が見えたわけではないけど、一目で可愛い子だということはわかった。
 その子は僕と目が合うと、首を傾けてニコリと微笑んできた。その瞬間、高校合格の喜びが一瞬どっかに吹っ飛んじゃった気がして、僕は無闇に頭を下げてその場から逃げ出した。

 帰り道でも僕の頭から彼女の笑顔が離れない。これが一目惚れというやつなのかな。人を好きになる感情を味わったことのない僕からしたらそれは新鮮で、でも不明瞭で掴み難いものだった。

 ーー入学式。教室に入り、ホームルームを終えてそわそわする僕の視界に映る一人の女性。
 ......僕は運が良かった。なんと僕は彼女と同じクラスになれたのだ。彼女の名前は中山美沙。趣味は服屋巡りらしい。
 やった! これで高校生活がより充実したものになるぞ、なんてこの時の僕は信じて疑わなかった。

 だけど、現実問題、口下手で女子と話す機会がほぼ皆無の僕は、なかなか中山さんに近づくことができない。中山さんはクラスで一番可愛くて(僕目線)男女両方に人気があって、声まで可愛くて、頭は良いけど運動神経はいまいちで、でもそこが可愛くて日に日に僕の想いは自分の容量では抱え切れないほど増幅していった。好きで好きで堪らないのに、縮まらない距離がもどかしい。

 一年があっという間に過ぎる。席替えの際には、中山さんと隣りの席になれますように、なんて願っても神には届かず、勉強やスポーツで良いところを見せたい、と思っても僕より上の奴はゴロゴロいるし、中山さんは服が好きみたいなのでファッション雑誌を買ってみるけど、僕にはチンプンカンプンだ。

 中山さんに彼氏がいるかも分からないまま僕は二年生、三年生へと進級し、悪戯に日々は過ぎていく。学校祭、体育祭、宿泊研修。通常通りの日常に刺激あるイベント事が訪れようとも、僕と彼女の間に恋の進展は無いし、僕のこの想いも笑っちゃうくらい変わらない。僕の想いが伝わる日、伝えられる日を待ちわびながら、毎日僕の視線は中山さんを追う。

 ーーそして、ついに卒業式の日を迎える。
 下級生に見送られ、泣きながら歩を進める中山さん。三年間、ほとんど話すことのできなかった、僕の大好きな中山さん。

 僕が告白したところで振られるのはとっくの前から分かってたんだ。三年間、ほとんど話したことのない男子から告白されても、中山さんからしたら、は?って感じだろうし、卒業して東京の大学に行ってしまう中山さんに想いを伝えたところで、何もかも無意味なんだ。こんなの僕の勝手な自己満足でこの想いは伝えるべきじゃないんだ、答えはすでに分かりきっている。

 僕は中山さんのどんどん小さくなる姿を目で追う。もうこれで最後なんだ。これで中山さんとお別れなんだ。
 結局、何の進展も無かったな、この三年間、僕は何をしていたんだろう、勇気を出していれば、もう一歩二歩踏み出せば、こんな後悔しなくて済んだかもしれないのに。
 
 “好き”って感情を初めて僕にもたらしてくれたのは中山さんだったな、なんて振り返っていると、気づいたら両目から涙が豪雨のように流れ出していた。あれ? 僕は何で泣いてるんだろう。
 誰にも見られたくなくて、僕はみんなが歩いている道とは反対の方向に走り出す。
 あー、僕はやっぱり好きだったんだ。どうしようもなく中山さんのことが好きだったんだ。でも、僕には告白する勇気も度胸も無い。

 心が泣いていた。数年経った今なら分かる、振られることは分かっていてもちゃんと想いは伝えるべきだったと。結果も勿論大事だけど、自分の感情にけじめをつけるには、中山美沙さんに告白する“過程”が絶対的に必要だったんだ。
 
 人は区切りをつけながら生きていく。僕にとっての区切りは、高校卒業でも大学進学でも就職でも無い。あの日あの瞬間、自分の想いを全部ぶちまけて、感情を全て清算するべきだったんだ。

 ーーあれから五年。僕はまた人を好きになる。激しい雨の中、君を待っている。きっと振られるだろう。結構もう笑っちゃうくらい分かり切っている。
 でも、やっての後悔よりやらずの後悔の方が何倍も子どもっぽいだろう、もう高校生じゃないんだし。
 あの頃は未熟だったと思えるならそれは大人になった証拠だし、また泣くことになるかもしれないけど心の準備は出来ている。きっと、また大泣きして馬鹿みたいに走り出すことになろうとも、アスファルトを叩くこの激しい雨が涙とごっちゃになって、どっちがどっちか分からなくなるだろう。そうなってほしい。


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