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スレイさん

趣味で小説を書き始めた高校生です。 何かを感じたときに、表現する手段が無ければ悲しい。 そう思って少しずつ書き始めました。

性別 男性
将来の夢 世界を旅すること
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陰りの昼下がり

14/03/26 コンテスト(テーマ):第五十三回 時空モノガタリ文学賞【 太陽のせい 】 コメント:1件 スレイ 閲覧数:1082

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パーリーは回廊の壁の裏に身を隠し、ティルが部屋から去る時をひたすらに待っていた。
時刻は正午を少し過ぎたころ。黒髪を刺す陽光のためだろうか、まだ涼しげな春の初めだというのに、彼の額には玉のような汗が浮かんでいる。

(おっと!)

汗ばんだ右手から滑り落ちた木槌を、左手が間一髪で掴んだ。
危なかった。もう少しでバレるところだった。落ち着け、落ち着け、パーリー…。
パーリーはひとつ深い息を吐く。

(今バレる訳にはいかない…。)
パーリーは相当に怒っていた。
領主たる父親が、ただの養子のはずのティルに家宝のペンダントを手渡しているところを見てしまったのだ。それは父親が後継者にティルを選んだということを意味している。即ち、パーリーは領主として相応しくないと判断されたのだ。
書斎の窓から父親とティルが笑い合うのを見たとき、パーリーはよっぽど今すぐ飛び出してティルのニヤけ面をぶん殴ってやりたいと思った。そうしなかったのは、背景に窓に映った自分の顔が、一緒に映り込んだ太陽が眩しすぎたせいか、クシャクシャであまりにも情けなかったからである。

パーリーにとっては非常に悔しいことだが、ティルは本当に何でもよくできた。勉強はもちろん、馬術も、剣術も、得意の工作や音楽でさえも、彼が年下のティルより優れていることは何一つなかった。
父親は、昔からティルを「まるで太陽のような子だ」と褒めちぎっていた。
一方パーリーは、数ヶ月ほど前に大喧嘩をして以来、父親とは口も聞いていない。

その日は一晩苛々しながら復讐の方法を考えた。そして明くる朝、母親や友人宛の手紙を机の上に残してから、こうして工具箱から木槌を持ち出したのだった。
一晩経つも怒りの冷めやらぬパーリー
は、最後に一矢報いてから家を飛び出すことに決めたのだ。家を飛び出して、この小さな街も飛び出して、北の都を目指すのだ。
パーリーとて決してダメなわけではない。ティルと比べるからダメに見えるだけで、実際は器用さに富んだ、少しばかり短気が過ぎるだけの優秀な青年である。
眩しすぎる太陽のもとでは、小さなランプの輝きなど無慈悲にかき消されてしまう運命にあるのだ。

(だから、俺はここにいるべきじゃない)

そう考えた彼は、夜のうちに自分の荷物を一つの麻袋にまとめてしまった。

パーリーを照らしていた日がさっと陰った。
ティルが黒電話の受話器を置いて立ち上がるのが見えた。

(もうすぐだ…)

ガチャリとドアを押して、ティルが部屋の中から現れた。彼は急ぎ足で書斎へと続く廊下の奥へ消えていった。
パーリーは木槌を握り直すと、ティルの部屋にすべり込んだ。風の通らない部屋の中は木工場に似た香りがした。

(ペンダントはどこだ…)

彼は部屋の中を探しまわった。机の上には作業台と彫刻ナイフがばらばらに置かれていた。
しばらくして、目的のものが机の中で見つかった。

(やっぱり見間違いじゃなかった)

手の震えが強くなり、両足までも震え始める。パーリーはペンダンドの入った箱を作業台の上に置いた。そして木槌を両手で握ると、高く高く振り上げた。
箱の淵に、代々の領主の名が彫られているのが見えた。

(くだらない伝統も、ここで終わりだ!)

木槌を振り下ろそうとするパーリーの手が止まった。父親の名の下に彫られている名前に、目が吸い寄せられたのだ。

「M.Perlie」

手の震えが一層激しくなったのが分かった。
パーリーは真新しい彫り口の自分の名をその震える指でなぞった。しばらくの間は息をすることさえも忘れていた。

ガチャリ。突然ドアが開いて、ティルが入ってきた。

「…兄さん?」

パーリーは狼狽えた表情で振り向いた。何かを言おうとするのだが、適切な言葉が見つからない。

ティルは義兄の顔と木槌を握る手を交互に見ていたが、やがて後ろを向くと言った。

「父さんが呼んでるよ。書斎に来いって。」

「……。」

「大事な用があると言ってた。」

「…悪い、今は行けない…。気分が悪いんだ。夜行くと伝えておいてくれると助かる。」

パーリーはそれだけを絞り出すように喋って、部屋を去った。

自分の部屋に戻ったパーリーは木槌をそっと机の中に戻し、用意しておいた別れの手紙を手に取った。
無造作に大窓を開ける。顔の側を生暖かい風が吹き抜けてゆく。彼は手紙をビリビリと破き、その紙片たちを風に乗せた。紙片はフラフラと進んだが、あまり遠くまでは飛ばなかった。
その様子をしばらく眺めていた彼は、おもむろにペンを取ると、そばにあった紙にこう書いた。

「二年後には戻る」

パーリーは全てがつまった麻袋を背負って、曇った空を振り仰ぐ。

どうにも気分が優れないのはきっと、いつまでも雲の陰に隠れて顔を出そうとしない、シャイな太陽のせいである。


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このストーリーに関するコメント

14/03/27 朔良

スレイさん、こんにちは。
拝読いたしました。

そうか、お父さんがティルに家宝を渡したのは彫刻を頼むため…。最初から心は決まっていたのですね。太陽のせい霞んでいたとしてもちゃんとランプの明かりを見ていた。
家を出たパーリーが、2年の間に成長して良い領主になれるといいなと思います。

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