1. トップページ
  2. 雨の素

W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

投稿済みの作品

2

雨の素

14/03/24 コンテスト(テーマ):第五十四回 時空モノガタリ文学賞【 激しい雨がふる 】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1966

時空モノガタリからの選評

ユニークな設定と無駄のない構成で、読みやすくとても面白かったです。「忘れられたかえりみられることのないしろもの」‥…。大人になれば誰しもそんなものがありますよね。それは物質的なものかもしれないし、精神的なものかもしれない。「パック」を一つ一つ開けていくことは、記憶の底に封印したそれらを開封していくことのように見えます。それは無意識的にしてもみずからが選択的に封印したものですから、開封することは多少なりとも痛みを本人にもたらすのかもしれませんね。特に3つ目の「パック」は「ねじれたような地球の絵と『雨•台風入り』の文字」のデザイン入りですから、もうそれは大変なことになりそうです。慌てる両親と、「けらけら笑いながら」無邪気に開けようとする娘のラストのシーンが面白いですね。やはり何事も大きな変化を起こすのは、子供の無邪気さと大胆さなのかもしれないな、と思います。

時空モノガタリK

この作品を評価する

 部屋を整理していると、ふりかけのパックのようなものが三つ、押し入れのすみからでてきた。なにかのおまけにでももらったのか、口をあけることもないいまま、いつしか記憶からこぼれおちたようだった。記憶からこぼれるぐらいだから、たいしたものであるはずがなく、おなじように忘れられたきりかえりみられることのないしろものは、探せばいくらでもみつかるにちがいない。
 パックの一つは、『雨の素』とあった。その名のとおり、デザイン化された雨だれが数滴描かれている。二つ目のパックには稲妻のイラストとともに『激雨の素』とあり、三つ目は地球が中央でくびれた絵の上に『雨・台風入り』の文字が読み取れた。
 耳元でふってみると、粉っぽい音がきこえる。
「やっぱり、ふりかけかな」
 私が声にだしていうと、それまでテレビに夢中になっていた妻が、
「なんのこと?」
「いや、これさ」
 妻は私の手からパックをとった。
「雨の素………調味料じゃない」
「激雨―――激辛………うーん」
 そこへ、二階で本を読んでいた娘が、階段をおりてきた。
「なんなの、それ」
 あいまいに首をかしげる私たちをみて、娘はかけよってくるなり、
「ちょうだいね」
 と、パックを一個をつまみとると、さっさと二階にもどっていった。
「食べちゃいけないわよ」
 娘ももう小学校の高学年だったので、妻もそんなに強い調子ではなかった。
 その妻が、なにやらぴんときたとみえ、
「ねえ、これ、植物に使うものじゃないかしら」
 妻はいま、家庭菜園にこっていて、部屋からのぞく庭には、あざやかに彩られた初夏の草花が咲いている。
 パックの裏面には、水にいれて使用とかいてある。妻のいうとおりかもしれない。
「さっそく、使ってみようからしら」
 この一週間ばかり、雨がふらずに妻は、水道水をさかんに草花にあたえていた。
 私も興味をおぼえて、彼女といっしょに庭におりた。
 寝ている飼い犬の水入れを拝借して、私がそれに水をみたすのをまって、妻は『雨の素』の封を切った。
 たいして中身をあらためることなく彼女は、私がもつ水入れのなかに、口をあけたパックをかたむけた。
 さらさらと、白い粉が水に落ちた。
 わずかな量にもかかわらず、水は真っ白に染まって、ぼこぼこと泡立ちはじめ、やがて白煙がたちのぼりだすのをみた私は一瞬、ドライアイスを連想した。
「あら………」
 妻がてのひらをうえにむけて、すっとんきょうな声をあげた。私の顔にも、ぽつり、ぽつりと、雨がおちはじめたのは、その直後のことだった。
 雨はひとしきりふりつづくと、やがてぴたりとやんだ。軒下に身をよせていた私も妻も、偶然だろうという顔をみかわした。
「この程度の雨じゃ、焼石に水だわ」
「じゃ、つぎのをあけてみろよ」
 と私は、なかば冗談まじりにいった。もうひとつのパックは、『激雨の素』なのだ。妻もまたこちらの冗談にあわせるように、
「そうね。ちょっとはげしい雨にふってもらいましょう」
 いいながら、『激雨の素』のパックをあけた。
 パックからこぼれおちた粉は、さっきの雨にぬれた花壇の上に、ふりかかった。
 地面からたちのぼった煙が、黒々と頭上にひろがったとおもうと、ピカリと稲光がひらめいた。
 雷鳴が轟き、いきなり途方もない雨がふりだした。二人が家に入ろうとするよりもはやく、二度目の稲光が庭の桜につきささり、木は縦にばりばりと裂けてしまった。雨はますますはげしさをまして、低い土地にある家の庭は、たちまち踝の位置まで水浸しになった。
 槍のようにふる雨は、私から視力を奪い、雷が大嫌いでパニック状態におちいった妻をたすけることもままならなかった。もしもこのまま豪雨がつづいたら、ほんとうに我々はどうなっていたことか。幸いなことに、それからまもなくして雨はやんだ。
「だいじょうぶか」
 雨と涙にまみれた顔をあげて妻は、なさけなさそうな目で私をみつめた。
「いのちがあって、よかったわね」
 本心でいっていることが、おなじ目にあった私にはよくわかった。
「これからは、中身のわからないパックは、ぜったいにあけないようにしよう」
 妻も私も、固く誓い合った。
 そのとき、二階の窓がガラリとあいた。
「お父さん、これ」
 娘が、ピンクの洗面器を空中にさしだした。その中で水が揺れ動くのが、下からみてもはっきりわかった。
「なんだかおもしろそうだから、いれてみるわね」
 娘は例の三つ目のパックを空中でふった。私の頭に、ねじれたような地球の絵と、『雨・台風入り』の文字が浮かびあがった。
「やめるんだ」
「やめてちょうだい」
 くるったようにわめきたてる私たちの様子が、なぜかコミカルにうつるのか、事情をしらない娘はけらけら笑ながら、パックの粉を、水のはいった洗面器に一息にあけた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

14/03/25 朔良

W・アーム・スープレックスさん
拝読いたしました。

不思議なふりかけ…じゃなくって、雨の素、誰が一体忍び込ませたものなんでしょう。
地球をねじれさせるほどの雨と台風…世界の終りでもきてしまいそうですね^^;
雨の素というアイディアが面白かったです!

14/03/25 W・アーム・スープレックス

朔良さん、読んでいただいてありがとうございます。

誰が一体忍び込ませたのか、それは私にもわかりません。あるいは以前に、置き薬屋さんがおまけの紙風船のかわりに置いていったのかも。
いずれにしろ、人騒がせな話ではあります。ショートショートというのはおおむね、人騒ぎな話で満載されていますよね。
コメントありがとうございました。

14/03/29 クナリ

冒頭で娘さんが1パック持ち去ってから、ラストまでずっと嫌な予感しっぱなしの、ショート・ショートの特性を活かされた作品でした。
「ほらあやっぱりもうーーーー!」と、娘を止められない読み手としてのもどかしさが、良かったです(^^;)。

14/03/29 W・アーム・スープレックス

やっぱりああいうわがまま娘は、ショートショートにはなくてはならないありがたい人材です。
コメントありがとうございました。

ログイン