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日向夏のまちさん

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不可解の戯言

14/03/24 コンテスト(テーマ):第五十二回 時空モノガタリ文学賞【 勇気 】  コメント:2件 日向夏のまち 閲覧数:1107

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「ほんとに中々大したもんだね! カツアゲられてる人を見て、人も呼ばず助けにも入らずただただぼんやり眺めてるとか、そんな事出来る人そういないよ。いやぁ、君の勇気には実に感動した! ぜひぜひ僕とお近づきになってくれない?」
これを本気で言っているとして、一体誰がお近づきになりたいと思うだろう。
夕焼けの射す湿った土に、桜舞い散る校舎の裏側。枝垂れ桜の根元に座り込んでいる制服姿の青年は、人懐こそうな童顔で笑い戯言の様な狂言を吐いて、俺に右手を差し出した。
「……初対面の奴にそこまでの嫌味吐く奴、俺は初めて見たが」
「そう? 照れちゃうなぁ」
「褒めてねェよ」
「知ってるよ?」
なんだこいつ。
確かに、こいつが先輩に囲まれているというヤバそうな場面を目撃したのは事実である。それをぼんやり眺めていたのも、事実である。だから一連が終わって、「大丈夫か?」と声をかけたのだ。結果嫌味を言われたが。
しかし、
「俺に気付いてたんなら、助け呼べば良かっただろ?」
「やだよそんなの。カッコ悪いじゃん」
本気か嘘かわからない。けれど、見事にカツアゲられたカッコの付かないこの男は、何が面白いのかけらけらと笑った。
不可解な男だった。
関わりたくないと思っていたのにクラスメイトだった。
しかし気付けば、そんなあいつのアドレスを携帯に登録していた。
それに気が付いた時には、自分に何が起こったのかが一番不可解だった。
けれど疑うまでも無く、入学式に出会ったあいつは、高校生活で最初に出来た俺の友人なのだった。
しかし、一癖二癖三癖あるその性格は、クラスどころか学年で見ても二十七センチ位浮いていた。ゆえに、日常的にいじめを受けていたように思う。
ように思う、と曖昧な表現になってしまうのは、あいつの性格と振る舞いの所為だった。
クラスメイトにいじめられているかと思えば、
「やだなぁ君達。そんなに僕の事が好きなの? いつ終わるか分かんない人生の限られた時間を、嫌いな奴に割く訳ないもんねぇ。いやぁ、モテる男って辛いなぁ!」
等とほざき、そんなずれた事を言うあいつを俺が冷たくあしらえば、
「全く君ってばツンデレなんだからさぁ。素直に言わないと伝わらないぞ? ほら言ってごらんて。ねぇ?」
等と俺をツンデレに仕立て上げ、クラスメイト全員から無視されているかと思えば、
「うーん。自分では気付かなかったけどどうやら僕は眩し過ぎるのかな。だから皆僕の事が直視できないんだね? ごめんよ皆! 黒板とか見にくくない?」
等と完全に的外れな事を問い、あいつの在りもしない噂が広がったかと思えば、
「しょうがないよ。巷を騒がせてしまうのは人気者の宿命だし、恨みを買っちゃうのは有名人の宿命なんだ。精々温かく見守ってあげようじゃないか! 噂を流すという行為が僕の知名度を上げていると、いつになったら気付くんだろうねぇ?」
等とのたまう。何様のつもりか。勿論、モテもしなければ眩しくもなく人気のにの字だってありはしないのだが、本人が「それしか考えられない」と毎度ドヤ顔で言い放つのだから、一ヵ月ともたずにいじめは消え失せた。
そりゃあ、いじめたにもかかわらず本人は全く堪えておらず、寧ろ全てを良いように解釈し自信をつけて行くというのだから、いじめる気も萎えるというものだ。
そうして常に、降りかかる災厄を跳ねのける俺の友人。
また気が付けば、俺はあいつを少し尊敬していた。
ポジティブにも程があった。そういう意味では、確かに眩しかった。
けれど未だ、なんのつもりであんな戯言を吐いているのかは解らなかった。

あいつと初めて会った枝垂れ桜の木の根元。案外居心地のいいそこに行くのは、俺の日課となっていた。木を挟んでいつも通り、背中合わせにあいつが座る。
初夏の風が吹くその頃、俺はあいつに聞いてみた。
「お前の戯言って、どこまで本気なんだ?」
テストの解答用紙で作った紙飛行機を飛ばそうとしていたあいつは、「んー?」と気の抜けた声を出した。
「どこまでも戯言だよ? 昔から僕はいじめられ体質でねぇ」
対策が、プラスに解釈する事だと。物事には色んな捉え方があると。あいつは、言う。
「実際はどういうつもりなのかしっかり解ってるから、ちゃんと傷付いてるんだけどね」
そういう風に見えない様に、戯言を言い聞かせているだけ。
ちくりと、刺さる。
「あぁでも、初めて会った時に言ったあれは本気」
間違いだと解っている回答を吐く事、自分に出来る事をしない事、そう、決断する事、全ては同じ事だと。勇気ありきだと。
「アクションだけが勇気だと思うなよ」
見えない勇気だって、決断だって、評価されるべきだ。
言葉に乗せられた紙飛行機が俺の前に落ちてきた。ゼロの評価が覗いていた。
無言で投げ返した俺にあいつは、流石の勇気だね、と、不可解に笑った。


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このストーリーに関するコメント

14/03/25 朔良

日向夏さん、こんにちは。
拝読いたしました。
最後まで不可解な“あいつ”のキャラ付けが面白いですね。
勇気のあり方は人それぞれなのだと思います。興味深く読ませていただきました。

14/03/25 日向夏のまち

いらっしゃいませ、朔良様!

わたくしは書く際、テーマの単語の意味や定義などを考えながら書き始めます。
しかし「勇気」という単語、こやつどうにも曖昧なモノでございまして、正に色んな捉え方が、人それぞれの捉え方があるというところに落ち着きました。
そんな、「色んな捉え方」と「目に見えない勇気」を掲げた作品でした。気付いて頂けてうれしいです!

ありがとうございました!

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