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ナポレオンさん

まだまだ未熟者ですがコメントもらえると嬉しいです。 忙しくてなかなか投稿できませんでしたが半年ぶりに復活してみました。 しかし、皆さんレベルが高いです^_^;

性別 男性
将来の夢 本とか出せたらいいなー
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ひまわり

14/03/24 コンテスト(テーマ):第五十三回 時空モノガタリ文学賞【 太陽のせい 】 コメント:2件 ナポレオン 閲覧数:1356

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 四月になり、念願だったマイホームを手に入れた。
とはいっても決して大きな家ではない。郊外の、自然に囲まれた小さな家だ。ただ、日当りだけはすこぶる良い。日の光をたっぷり浴びた子供は良く育つという妻のこだわりだ。
 そんなわけで妻は一日中日当りの良い窓辺に座り、お腹をさすりながらもうすぐ生まれてくる子供に笑顔で何やら話しかけている。窓の外には小さな庭が広がり、レンゲソウの可憐な薄紅が眩しい逆光の中で風に揺れていた。静かな春の朝だった。

 我が家の庭の片隅にはれんがで周囲を囲った程度のこぢんまりとした花壇がある。
 ある日ぶらりと立ち寄った園芸店でひまわりの種を買った。家に帰り、妻にそれを見せると妻は目を丸くし、早く植えようと子供の様に喜んでいた。
 それから、花壇には妻が毎朝小さなじょうろで水をやるようになった。僕と妻と生まれてくる子供と三人で満開になったひまわり畑を見たいねと口癖のように妻は言った。

 しばらくして、朝仕事に向かう僕を妻が血相を変えて呼び止めた。妻に引きずられるようにして庭に出ると、花壇の黒土を押しのけ、僕たちの植えたひまわりが無数に芽生え始めていた。うれしそうにはしゃぐ妻の姿を見て、僕は無意識に彼女を抱きしめた。間違いなくこの妻とこの家は、僕にとっては贅沢すぎるほどの宝物だった。

 ある日、テレビをつけると、とんでもないニュースが流れていた。
 太陽の活動が止まったという。何かの冗談だと思った。周りの人も同じように感じたらしく、この時はさほど騒ぎになることはなかった。ただ、気のせいか空に浮かぶ太陽がほんの少し暗くなったような気がした。

 世界が本当に滅亡の様を呈してきたのは、梅雨が明けても日本の気温が上がらないどころかどんどんと寒くなっていった頃であった。空を見上げると、明らかに太陽は六月の夏の勢いを失っていた。
 誰の目にも明らかな異変を目の当たりにしたことで、日本中の人間たちが自分たちの生の終わりを認識し、絶望に暮れていた。
 さて、わが妻はというと相変わらず窓際の椅子に座りながら笑っているだけだった。

 七月に入り、気温は10℃を下回った。
 庭のひまわりは、大人の膝くらいの高さで寒さに凍えていた。それでも妻は毎朝のように水をやり続けた。
 お腹が冷えるからもう外には出るなと僕が言うと、妻はこれが自分の一番の楽しみだからと泣きそうな顔をした。ならせめて一番温かいコートを着るようにと妻に言った。
 ありがとうと言う妻の笑顔を僕はどうしても見ることもできなかった。

 窓の外には夜明け前のような白みがかった世界が広がり、黄色くしなびた草むらが力なく風に揺れていた。
 この日、妻は初めて泣いた。妻を悲しませたのは世界の終わりではなく人の世の終わりだった。となりの家の家族が心中したのだった。もうすでに世界中の人間が我を忘れて狂い始めていた。家族を置いて赤道直下の国に逃げるもの、自暴自棄になり略奪を働くもの。そして徐々に衰弱していく世界を見ることに耐え切れず、自ら命を絶つもの。
 この時、僕も初めて泣いた。僕が今まで泣かずにいられたのは無理して気丈にふるまう妻のおかげだということに、この時になってようやく気が付いた。

 絶望がかつての夢のマイホームを支配していた。
 いっそこのまま僕たちも……。そんな邪念を振り払うかのように一人、真昼にもかかわらず薄暗くなった庭に立つ。つい数か月前に、僕たちを溢れんばかりの生命力で迎えてくれた緑の下草も、青々とした木々も、すべてが死に絶えていた。ふと、花壇の端に置いてあるじょうろが目についた。そういえば、いつも水やりを欠かさない妻も今日は庭に出ていない。
 僕は何を思ったかじょうろを手に取ると片隅の水道から水を汲み、ひまわりの花壇に水を撒いた。その時、紙のように薄くなった葉の隙間から何かが見えた。

 僕は急いで部屋に戻ると窓辺の椅子でうなだれる妻の手を握り、引きずるようにして庭へと導いた。
 一片の黄色。今にも折れそうなほど細い花茎の先に掌に乗るように小さなひまわりの花が咲いていた。
 それだけではなかった、庭を覆う枯草の下ではたくさんの緑の芽が夏を待ち続けるようにじっと寒さに耐えていた。枯れたと思っていた木々たちも、大きな幹の根元から新たなひこばえを伸ばし始めていた。
 自然は何も変わることなく生き続けていた。人間だけが世界の終わりから逃げていた。

 三人で満開のひまわり畑を見るんだろ?僕が泣きながらそう言うと妻は力強くうなずいた。
 静かな静かな真夏の昼下がりだった。


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このストーリーに関するコメント

14/04/15 ナポレオン

凪沙薫様
卓越した技工なんてもったいないお言葉非常にありがとうございます!
この話は私がここに投稿した初めての作品で、まだ他の人がどういった感じで書いているのかもわからず
、手探りで自分なりの掌編を表現してみたものなので、褒めてもらえて非常に嬉しいです。

14/07/06 四島トイ

拝読しました。
静かに迫る終末を効果的な素材で捉えた良作でした。特に妻につられて涙する主人公のシーンが印象的でした。

以下、一読者としての要望ですのでお聞き流しください。
今作は終末の原因を『太陽の活動が止まった』ためとされていますが、説明としては弱いと感じました。掌編ですのでガッチリと固めた科学的な根拠はなくてもいいのかもしれませんが、あまりに漠然としていると読者に委ねる想像と、作者様の想定する話筋に大きなズレが生じて話に入り込みにくくなると思われます。
また終盤で主人公がじょうろで庭に水をまくシーンがありますが、『僕は何を思ったか』という表現に違和感を覚えました。

以上です。拙い感想ですが御容赦ください。

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