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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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淘汰される退廃

14/03/11 コンテスト(テーマ):第三回OC 【 廃 】  コメント:4件 浅月庵 閲覧数:1125

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 科学者は、強靭で狂人的な探究心を持ち合わせていないと成り得ない。だから私は、周りの制止を振り切って自分の体を冷凍保存することにした。人類の進化の行く末をこの目で確かめたい、そう思ったのだ。

 ーー私は目を覚ます。機械が正常に作動していたのなら、今は西暦2500年のはずだ。起きた時に地上へきちんと出られるようシェルターを作り、その内部に私は自分の体を冷凍保存していた。
 450年前時点での、最高技術でシェルターと人体冷凍保存機を作り上げ、それが450年後の現在でも通用していることが素直に嬉しい。
 さぁ人類は、進化しているのか。はたまた廃れてしまっているのか。これは見物だな。私は高鳴る心臓の鼓動をなんとか抑えようと必死だが、緊張で上手く機械の中から抜け出せない。なにせ、450年前の時代を生きていた人間が現世に降り立つなんて、ある種のタイムスリップ体験を味わっているようなものだ。
 私は震える足をなんとか自制し、壁に取り付けられたはしごに手と足を引っかけて上がって行く。この扉の先に西暦2500年の世界が待っている。
 私は左手と両足に力を入れ、片手で扉を押し上げる。強烈な重みが右手を伝い、ズズズズと扉が開いていく。
 太陽の光がシェルター内に差し込んでくると、嬉しさと反して不安で胸が押しつぶされそうになる。この世界は、この日本は一体どうなっているのだろう。

 私はやっとの思いで空き地へ抜け出る。ここが埋め立てられていなくて本当に良かった。
 さて、街の様子はどうなっているのだろう。車が空を飛ぶ時代にでもなっているのかな、と空を見上げると、人間が空を飛んでいた。
 ん? 人間が単独で空を飛んでいるだと。しかもなにか機械に乗っているわけでもなく、両手をバタバタとはためかせ、優雅に空を飛んでいる。

 空き地から抜け出て、住宅街に足を踏み入れる。各自の家と思われるものはシルバーで無機質で丸みがあって、私の作ったシェルター内と大して変わらないデザインだ。暖かみがこれっぽっちも感じられない。これは進化なのか、それとも......。
 
 太陽がジリジリと照りつけているにも拘らず、やけに涼しい気がするな。季節的には夏のようだが。私は地面に手を当ててみる。冷たい。
 もしかして、ロードヒーティングならぬロードクーラーみたいなものが地面に埋まっているのだろうか。豊かになったもんだな、夏場も快適に過ごせるなんて。

  その後も住宅街を歩いていると、一人の子どもと出会う。
「ノナンへンサジオ」その子どもは私が慣れ親しんだ日本語ではなく、奇怪なでたらめ語を話す。そして、私の顔を見て笑う。
 私は子どもの姿形を見て後ずさりしてしまった。彼の目は野球ボールくらい大きくて、歯は急速に発達しているようで、いわば異常なくらいの出っ歯だった。耳は大きく、手は地面に付きそうなほど長く、その手をバタバタ動かして空を飛んでいるのだと一目で分かった。 しかも彼はスケスケの衣類を身にまとい、さもそれが普通と言わんばかりに股間まで曝け出していた。
 進化ではない。これは退廃だ、人類はモンスターへと変貌している。主観ではそう感じた、いや、私の計る物差しが短すぎるのが原因なのだろうか。こんなの人間じゃない。人間の在るべき姿じゃない、どうしても私はそう思ってしまう。
 それでも私はこの世界を研究しなくてはならない、もっと知らなくてはならない。
 すると、一つ家の扉が開き、その中から女が姿を現す。こちらへ向かってくるので、どうやらこの子どもの親のようだ。
 その女は私の顔を見るなり「アァァァアアアアアア!!」と叫び声を上げる。
 女は私の顔を、服装を手を指差し、絶叫する。心の底から恐怖しているような叫び声だ。
 その声に驚いて、他の家の扉も開かれる。中からはモンスターがうじゃうじゃ出て来て、私の周りを取り囲む。
「なんだよ、どうしたって言うんだよ。お前らの方が、お前らの方がよっぽど......」言葉の続きは出なかった。私は鈍器で後頭部を思い切り殴られる。
 その場に倒れ込んだ私に容赦のない暴力が襲いかかってくる。
 
 私は悟った。今のこいつらからしたら、私の姿形は過去のもので、その存在すら知らないのかもしれない。
 歯が異様に出てて手が気味の悪いほど長い。彼らからしたらそれが普通で、私の姿の方が異常なのだ。退廃しているのは私の方なのだ。現代の私はこいつらにとって圧倒的差別の対象で、圧倒的暴力の矛先で、古き物は消される運命なのだろう。

 ーー私はこれから、淘汰される。


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このストーリーに関するコメント

14/03/12 タック

浅月庵さん、ご投稿ありがとうございます。拝読いたしました。

「地球最後の男」を彷彿とさせるようなストーリーでした。未来にある種の希望を持った男が疎外される様は恐ろしく、想像するだけで寒気が走りました。
時代、環境が変わり、自らがそこに不変のまま取り残されていた場合、それに抗うことが正解なのか? その変化を認識し、淘汰を受け入れることが正解なのか? いろいろと考えさせられる作品だったと思います。

14/03/12 浅月庵

タックさん、コメントありがとうございます。

「廃」というテーマ、個人的に難しかったのですが、
たくさん感想をいただけて嬉しいです。

14/03/12 かめかめ

たった4世紀半でそこまで変化するなんて……。なにがあったのか。
もしかしたら、宇宙人に侵攻されて人間はいないのかも???とか
SF好きの血が騒ぎました。

14/03/13 浅月庵

かめかめさん、コメントありがとうございます。
450年程度でここまで変化するとは到底思えませんが......
想像は膨らむばかりです。

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