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しーぷさん

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― Buzzer Beater ―

14/03/10 コンテスト(テーマ):第五十一回 時空モノガタリ文学賞【 奇跡 】 コメント:3件 しーぷ 閲覧数:1453

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――あと1つ勝ったら、“全国”だ――

 会場全ての視線が俺のいるコートに注がれている。気づくと歓声が上がっていた。
 俺のミスからの失点。一点差でリードしていたのに、スリーポイントシュートを決められ逆転されたのだ。
 第4Qも残り数秒。このまま逃げ切れたはずなのに。

 時計をちらりと見ると、残りはわずか2秒。「もうだめだ」そんなことを言ったらあいつは何て言うだろう。
 そんなことを考えていると、俺にボールが回ってきた。しかし、正面に相手チームの選手が現れた、パスコースもふさがれている。
 再び時計に目をやった。
 どうせパス回してる時間も、俺がこの人を抜いてシュートまで持っていく時間もないんだ。

 俺は、ずっしりと重いバスッケトボールを天高く放った。

…×…×…

「明日香を甲子園に連れてって」
「どこの南ちゃんだよ。それに、俺たちが行くのは甲子園じゃねぇ」
「知ってる。私が南ちゃんより可愛いってこともね」
「それはない」
「ばか」
 ベッドで横になっているのに俺より元気そうな声。俺が通う高校の弱小バスケ部マネージャー。
「部長に聞いたよ。次勝ったら全国なんでしょ?」
「おう。俺が華麗にスリー決めてやんよ」
「無理無理。フリースローすらまともに決めらんないくせに」
「うるせぇ」
 俺と明日香は同じ学年で2年生。進級してすぐに、明日香は入院した。昔から体が弱く、こういうことも初めてではないらしい。
「ごめんね。決勝、行けなくて」
「全国の決勝には来いよな」
「そこまで勝てると思ってるんだ?」
 意地の悪い笑顔を浮かべる明日香。
「モチ」
「期待しとくよ」

…×…×…

 俺の放ったボールはゆっくりと弧を描いて飛んでいく。
 残り1秒だったはずなのに。何秒にも、何分にも感じられる時間の中。世界がスローモーションで。

 ――約束したんだ――

 だから――

…×…×…

 ある日、俺は部活終わりに明日香の入院している病院に向かった。他の部員も誘ったけど、みんなニヤニヤ笑いを浮かべ何かと理由をつけ、誰も来てくれなかった。
 明日香の病室に行く前に、あいつの好きなみかんジュースを買ってやろうと思い、自販機のある方へと足を向けた。
 その途中。明日香の両親がいた。声をかけようとしたけど、すぐ近くに明日香の担当医がいて、三人で暗い顔を浮かべていた。俺は無意識に曲がり角の陰に隠れた。
 何してるんだ俺。
「明日香は……」
 父親が訊いた。
「今、この時間に生きているだけでも奇跡です」
 あの人は何を言っているんだ。
「うっ……」
 母親が顔を手で覆ってその場で崩れる。
「半年後……、明日……。今この瞬間に死んでもおかしくない状況です」
「明日香はあんなに元気じゃないですか」
「何回か現れた症状は、突然意識を失い心拍が停止。今までは奇跡的に意識を取り戻し……」

 奇跡奇跡って。あいつホントに医者かよ。
 俺は走ってその場を去った。
 病室につくと、明日香はいつも通りの明るさで。みかんジュースを買い忘れた俺を怒れるくらい元気なのに。

…×…×…

 ビーッという長い音が聞こえた。試合終了の合図だ。しかし、ボールはまだ宙にある。このシュートが決まれば、俺たちの勝ちだ。
 明日香……。俺が奇跡を起こしたら。弱小バスケ部の中でも、一番下手くそな俺がブザービターなんか決めちまったらさお前も奇跡を起こしてくれよ。
 今まで通り。その笑顔を見せてくれよ。

 入れ。入れ。はいれッ。

 全国に行くんだ。約束したんだ。
 奇跡だってなんだっていい。勝てるなら。あいつと一緒に。

…×…×…

「先生ッ」
 けたたましく叫ぶ機械。明日香に繋がれたそれは、静かに眠っている明日香を起こそうとしてくれているのか、懸命に鳴き続けている。
 明日香の両親は思考が停止し、ただ立ち尽くす。数人の看護婦と担当医が慌ただしく動き回る。
 ピーッという音。画面に映し出される心電図の波形は、乱れることなく真っ直ぐに。
 明日香の担当医が作業の手を止めた。看護婦も俯き手を止める。
「明日香さんは……」
 担当医が言葉を重ねようとしたとき、その言葉を遮るように波形が波打った。
「明日香ッ」
 父親が駆け寄りその手を握るが、彼女はピクリとも動かない。

――おめでとう――

 担当医が止めていた手を慌てて動かし始める。

――ありがとう――

「あすかっ。あすかぁ」
 明日香の母親がもう片方の手を握った。

――ごめんね――

 波打っていた波形は、またぴんと伸び切った。
 ピーっという音とともに、まっすぐに。

――がんばれっ――

…×…×…
 俺が放った球は、まっすぐにゴールに向かっていった。
 試合終了のブザーが鳴り響く中、ボールがネットを揺らした。


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このストーリーに関するコメント

14/03/11 gokui

 読ませていただきました。
 現実の厳しさと奇跡の意味を考えさせられました。かなえられない望みを絶ちきる勇気が、果たして主人公にあるか。この物語の後も気になる物語でした。

14/03/11 朔良

CPUさん、こんばんは。
拝読いたしました。

試合終了ブザーの前後に入るシュートは、Buzzer Beaterというのですね。初めて知りました。
バスケットの試合の緊迫感と彼女への想いが伝わってきて、引き込まれるように読み進めました。
叶った願いと起こらなかった奇跡…。切ないです。
そのまま青春ドラマとして映像を見たくなるような素敵な作品でした。
面白かったです。

14/03/24 しーぷ

gokuiさんへ

コメントありがとうございます
2000字だと全部を書くことは難しいので
読んでくださったかたに想像させるような終わりかたをよくします(*´∀`)
ありがとうございました〜

朔良さんへ
コメントありがとうございます
頭の中で、ドラマのように映像はできていたのですが
それをうまく表現できるか心配でした
そう言ってもらえると嬉しいです(*´∀`)



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