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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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奇跡は訪れる

14/03/09 コンテスト(テーマ):第五十一回 時空モノガタリ文学賞【 奇跡 】 コメント:13件 光石七 閲覧数:1882

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 ルクが朝食をとっているとラミナがやってきた。
「お、おはよう。今日は早いね」
ラミナが来るようになってひと月になるが、ルクはまだ慣れない。
「今日の最初の患者さん、8時半に来るでしょ? それまでに片付けと掃除やっとかないと」
村はずれの小さな家は、居住スペースがそのまま診療所になる。ルクは使った物をそのままにしてしまう癖がある。来客対応も不得手なので、ラミナが手伝いを申し出たのだ。
「さっさと食べちゃって。それから、寝癖ついてる。鏡見て直したら?」
「う、うん……」
しっかり者のラミナに、ルクはいつも押され気味になる。
 朝食を終えたルクは鏡の前に立った。赤い瞳で寝癖を確認する。
(ホントだ、はねてる)
紫の髪に手をやる。この独特のコントラストは生まれつきだ。
(鏡なんて大嫌いだったのに……)
自分の姿をちゃんと見ている自分が、ルクには信じられなかった。

 ルクはその容姿から悪魔の申し子、忌み子などと言われてきた。父親がわからないことも村人の蔑みを増長させた。村でよくないことが起こるとルクのせいにされる。大人も子供もルクを忌み嫌う。ルクと親しくなろうとする者は誰もいなかった。
「あなたは私の天使。神様が授けてくださった奇跡の子よ」
母だけはそう言って抱きしめてくれたが、ルクの悲しみは癒えなかった。
(こんな姿じゃなかったら……)
何度そう思ったことだろう。外出するときはいつもフードを被った。鏡を見るとつらい気持ちになる。だから見ないようにしていた。母が亡くなってからは、ルクの孤独は更に増した。
 そんな日々が変わったのは半年前だ。転寝をしていたルクは不思議な声を聞いた。
「汝の苦しみは終わる。奇跡を見よ」
その翌日、道ですれ違った村長が急に胸を押さえて呻きだした。他に人はいない。ルクは駆け寄った。屈んでいる村長を抱き起こそうとすると、ルクの右手が光り始めた。光はどんどん強くなり、村長の胸に吸い込まれて消えた。
「何を……した?」
痛みが去った村長は面食らっている。ルクも何が起こったのかわからなかった。後日、村長は長年の心臓の病がすっかり良くなっていることを知った。
 この話を聞いて、ある村人がルクに傷の治療を頼んでみた。やはりルクの右手が光り、光を吸い込んだ傷口は一瞬でふさがった。
「ルクの奴、どんな病気も怪我も治しちまうんだよ」
「右手で触るだけだろ? すげえよな」
噂は村中に広まり、ルクに対する皆の態度は変わった。にこやかに話しかけてくるようになり、他の村や町からも病人がルクの元を訪れるようになった。ルクに来てほしいと手紙をよこす者も現れた。
「いっそのこと、診療所をやったらどうだ?」
村長のアドバイスにルクは従った。人に認められる喜びをルクは初めて味わっていた。
(奇跡ってこういうことだったのか)
いじめられることも無視されることもない。人が自分を必要としてくれる。自分が人の役に立って喜ばれる。ラミナのように自分を助けてくれる者まで出てきて、こんなに幸せでいいのかとルクは戸惑っていた。

 ところが、ルクの奇跡は突然終わりを告げた。隣町で病人を癒して帰る途中、暴漢に右腕を切り落とされてしまったのだ。患者を盗られたとルクを妬む医者や薬屋の仕業だった。激痛と熱に苦しむルクをラミナは懸命に看護した。だが、他の者たちは再びルクに蔑みの目を向け始めた。
「自分の腕は治せないのかよ」
「所詮ルクさ。やっぱり不幸を招くんだな」
「あの治療も、悪魔の力だったんじゃねえの?」
熱が下がり少し落ち着いたルクだったが、人々が自分から離れていくのを黙って見ているしかなかった。
(束の間の奇跡、か……)
嫌われるのは慣れている。昔に戻っただけだ。しかし、ルクは以前よりも深い悲しみと痛みを覚えた。
「ラミナ……いつもありがとう。もう大丈夫だから。僕なんかのところに来なくてもいいよ」
ある日、ルクは意を決してラミナに告げた。ラミナは毎日のようにやってきては傷の消毒や部屋の掃除、料理などをしてくれる。
「私が来たいのよ」
ラミナは笑って答える。
「いつまでも悪魔の家なんかに出入りしないほうがいいよ。君まで白い目で見られる」
ルクはあえて自分の蔑称を口にした。
「私は平気よ。ルクは悪魔なんかじゃないし。……好きな人のお世話をしちゃいけない?」
言いながらラミナは少し顔を赤らめた。
「確かに昔はルクと関わっちゃいけないって思ってた。災いが寄ってくるんじゃないかって。だけど、一緒にいても何も起こらないし、ルクがとても優しい人だってわかった。不器用だけど一生懸命で、心がきれいで……。私、そばにいたいって思うの」
ラミナがルクの頬に口づける。5秒後、ルクの顔が真っ赤になった。ルクの人生に消えない明かりが灯った瞬間だった。


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このストーリーに関するコメント

14/03/09 草愛やし美

光石七様、拝読しました。

嗚呼、とても素敵なお話。こういうお話大好きなんです。
本当の奇跡は、最後の瞬間にあったのですね。愛する人と出会えるということは、ある意味、奇跡かもしれません。

私が信じる奇跡、それは、どんな人にも必ず訪れるこういう瞬間じゃないかと思います。(一度でもきっとあると信じています。なかったという人は、きっとその瞬間を見逃してしまったのではないかと思います、人の出会いの不思議を感じ、私はそうずっと信じています。ええ、誰が文句を言おうとそう信じています、苦笑)それを見せていただき感動しました。ありがとうございました。お二人に幸せをと祈ります。

14/03/09 泡沫恋歌

光石七様、拝読しました。

異型の者ゆえに差別されてきたルクが奇跡の右手でみんなの治療をして脚光を浴び、
右腕を切り落とされて、再び、村人たちに蔑みの目を向けられるのは本当に理不尽ですね。
ルクは何も悪いことをしていないのに、身勝手な村人たちに怒りを覚えますが、
どんな時にも、ルクを見捨てなかったラミナの真実の愛を掴んだのだから、
きっと末長く幸せになると思います。

素敵な奇跡の話をありがとう!

14/03/09 gokui

 読ませていただきました。
 人は人の外観しか見ない、っていうところから始まり、一つの奇跡でルクの内面を見てくれるたった一人の人物に巡り会う物語。壮大な物語です。それをこの文字数で仕上げてしまうのは職人技ですね。構成力の高い方と見ました。今後とも頑張って下さい。

14/03/09 そらの珊瑚

光石さん、拝読いたしました。

最初の奇跡はキリスト教などにあるいわゆる奇蹟の類だと思いますが
人は自分にとって有益であれば、あがめたてまつり、そうでなくなれば
おとしめる、誠に身勝手な生き物でもあるなあと思います。
そんななかでもルクがラミナと出会ったことは真実の奇跡であったのでしょう。
ステキなお話でした!

14/03/09 光石七

>草藍さん
コメントありがとうございます。
“君に出会えたことが一番の奇跡”、このラストのためだけにルクを辛い目に遭わせた作者です(苦笑)
おっしゃる通り、誰にでも奇跡が訪れる瞬間があると思います。気付くか気付かないかの違いだけで。

>OHIMEさん
「素敵」と二度もおっしゃってくださり、ありがとうございます。
奇跡って常識では起こらないと考えられることという意味ですが、ファンタジーの世界は魔法とかも常識ですからね。
ちなみに、二人の名前は「ミラクル」から思いつきました(笑)
ちーちゃんの写真へのコメントもありがとうございます。

>朱音さん
コメントありがとうございます。
ラストの口づけは書いてて少しこそばゆかったです(苦笑)
二人ならきっと大丈夫でしょう。
幸せの奇跡、いい言葉ですね。

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
村人の態度とかルクやラミナの心情とかあまり細かく書けませんでしたが、汲み取ってくださりうれしいです。
本当に自分を理解し愛してくれる人に出会えたなら、最高の奇跡ではないでしょうか。
二人は幸せになりますよ、きっと。

>gokuiさん
もったいない励ましのお言葉、ありがとうございます。
出来上がるまで時間がかかった割には、いろいろ足りないような……
難しいテーマが多くて毎回苦戦しますが、できる限り書き続けたいと思います。

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
村人たちの反応は極端ですが、同じような身勝手さは自分にもあると自戒すべきですね。
この出会いこそ真実の奇跡、描こうとしたのは正にそれです。
皆さん、拙い文章から読み取ってくださって……
素敵なお話とおっしゃってくださり、うれしいです。

14/03/10 メラ

光石七さん、拝読しました。
何気ない文章の合間に、景色とか、色んな人々の表情が思い浮かびました。不思議です。そういう表現は少なかったのに。でもそれはストーリー全体がもつ雰囲気なのでしょうね。読むものに想像、創造を与えてくれる。
ハッピーエンドでしたが、やはりちょっと可哀想。

14/03/10 光石七

>メラさん
コメントありがとうございます。
情景や表情が浮かぶのはメラさんの感性が素晴らしいからでしょう。
端折った結果、読んでくださる方に任せる部分が大きくなってしまった気がします。
ルクに限らず、登場人物に対してはサドだと自分で思っています(苦笑)

14/03/11 朔良

光石七さん、こんばんは。
拝読いたしました。

ほんのり心が温かくなるような、素敵なお話ですね。
せっかくの奇跡を失ってしまっても、残されたものがある。
ラミナの存在がルクにとっては一番の奇跡なのかも!
優しい気持ちになれるようなお話でほっとできました。ありがとうございます。

14/03/12 光石七

>朔良さん
コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、ラミナの存在がルクの一番の奇跡です。
朔良さんの心に残せるものがあったようで、うれしいです。

14/03/21 幸田 玲

「奇跡は訪れる」拝読致しました。
淡々とした物語でしたが、構成がきれいに纏まっていますね。感心しました。

14/03/21 光石七

>幸田さん
コメントありがとうございます。
インパクトには欠けますが、話の筋だけはなんとか詰め込めたでしょうか。
お褒めの言葉、恐縮です。

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