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綾瀬和也さん

北海道の競走馬生産・育成牧場で働く綾瀬和也です。地元は栃木です。宜しくお願いします。

性別 男性
将来の夢 ダービー馬生産
座右の銘 目標がその日その日を支配する

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横川駅 新しいレール

14/03/07 コンテスト(テーマ):第三回OC 【 廃 】  コメント:8件 綾瀬和也 閲覧数:1345

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「信越本線って何で途中で途切れてるの?」
軽井沢へ向かう車の中で彼氏、秋本孝徳の運転する助手席で、伊藤芙美子が聞く。何気なく見ていた軽井沢の情報誌の中で、信越本線が群馬県の横川駅で途切れて、長野県からまた続いているのに気が付いた。信越本線は、群馬県の高崎駅を起点に、新潟駅まで続く路線。それが、途切れていることに疑問を感じた。

「いい質問だね」
笑顔で言う孝徳。孝徳は鉄道オタク。本人はそう言われることを嫌う。
「あの人たちと比べたら俺は足元にも及ばん」
が、理由らしい。孝徳が言うには、長野新幹線の開業に伴い、横川駅から長野県の軽井沢駅の区間が廃線となり、信越本線は二つに分断されたとのこと。

「ふーん。そうなんだ」
芙美子が呟くように言うと、孝徳が再び笑顔で、
「その横川駅から軽井沢駅までの間は、JRの列車で最も急勾配を走る列車だったんだ。普通の電車じゃ無理だから、横川駅で補助の電気機関車を連結してたんだ。その連結に時間がかかるので、乗客は横川駅で弁当を買う。それが有名な峠の釜めし」

峠の釜めしは芙美子も知っている。群馬に親戚がいるのでたまにお土産で貰っていた。
「そんな話してたら久しぶりに食べたくなってきたな」
孝徳がボソッと言う。車は関越道から上信越道に入ったばかりのところ。車は軽井沢へ向かう途中の富岡ICで降りて、国道18号線を走る。

「小さい頃は軽井沢に別荘があって、この道もそうだけど、列車でよく行ってたんだ」
孝徳が言う。孝徳の父親は会社の社長。別荘を持っていたが、近年の不景気で他人の手に渡っていた。孝徳が続ける。
「横川駅で必ず峠の釜めしを買ってよく食べてたもんだよ」
ちょっと遠い眼をしながら言う孝徳。
「別荘持ってたって凄いよね」
芙美子が言うと、
「昔の話だよ」
そう言う孝徳の眼は少し悲しそうだった。

 横川駅の隣にあるドライブインに到着。二人は峠の釜めしを二つ買う。店内で食べてるので二人は、テーブルに座り食べることにした。
「久しぶりに食べるけど美味いなぁ」
笑顔で言う孝徳。
「確かに美味しいね」
芙美子も笑顔で言う。ふいに孝徳が箸を止めて、
「最後に行ったのは小6だったかな。それが最後だって聞かされた。家族は車で行ったんだけど、俺は列車で行った」
と、窓から見える横川駅を見つめながら言う。そんな孝徳を見て芙美子が、
「食べ終わったら駅見に行く?」
と、聞く。少し考えた孝徳だが、
「そうだな。久しぶりに見に行くか」
と、微笑を浮かべながら言った。

「あー、この先はもう撤去されちゃったんだな」
駅から軽井沢方面を見つめながら言う孝徳。軽井沢方面の線路は撤去され、道路や駐車場に変っていた。芙美子も少し切なくなり、
「思い出が無くなるってちょっと嫌だね」
と、しんみり言う。すると孝徳が、
「実は軽井沢に来るのはその小6以来なんだ」
と、言う。それを聞き少し後悔した芙美子。今回軽井沢に行きたいと言ったのは芙美子。某推理作家の書く探偵(本職はルポライター)が好きでゆかりの地を訪ねたかったからだ。
「え?そっか…何かゴメンね」
俯きながら言う芙美子。
「誤るなよ。俺は嬉しいよ。二度と来ないと思ってからさ。芙美子と一緒だから来れた」
軽井沢方面を見つめながら言う孝徳。芙美子が孝徳を見つめる。視線に気がついた孝徳が、
と、笑顔で言う。芙美子もつられて笑顔になり、
「うん。そうだね。でも俺達でいいの?」
と、言う。
「どういう意味だよ」
「私でいいの?」
微笑を浮かべながら言う芙美子に、孝徳は少し照れながら、
「芙美子じゃなきゃだめなんだよ」
と、頬を指で掻きながら言い、右手を差しだした。それをしっかりと左手で握る芙美子。二人は車に戻る。

「さて、んじゃ思い出作りに行きますか」
孝徳がシートベルトをしながら言う。
「うん。一杯作ろう」
芙美子が笑顔で言う。車が走り出す。横川駅を通過して、車は碓氷峠に入って行く。
「さて…閉ざされたレールを取り戻しますか」
おどけた感じで言う孝徳を見て、芙美子が笑う。
「何カッコつけてるのよ」
「いいじゃん。思い出造成鉄道だよ」
「訳わからない」
また笑う芙美子。孝徳も笑う。
「確かに訳わからんな。ただ、ついて来てくれよ芙美子。」
その言葉に笑顔でうなずいた芙美子。孝徳がそれを見ながら
「よし、待ってろ軽井沢!」
と、叫んだ。過去を振り切る孝徳。そんな孝徳を見ながら、
『この人と新しいレール、もっと作りたいな…』
と、心の中で思う芙美子。


夫婦になる一年前のお話でした。


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このストーリーに関するコメント

14/03/08 草愛やし美

一条圭吾様、拝読しました。

長野新幹線が開通した折、横川駅がなくなるのではと心配されたニュースを思い出しました。横川駅といえば、「峠の釜めし」。駅がなくなれば、自動的に人気の駅弁もなくなると考えられてのことでしたね。横川駅は残り、駅弁も残りましたが、廃線になっているのですね。まだ行ったことのないところですが、一条圭吾さんのこの作品は描写がきっちり書けていて、情景を浮かべるのが容易かったです。
大阪では毎年、デパートで駅弁大会なる催しがあります。毎年、どのデパートも人気でよく売れているようです。もちろん、「峠の釜めし」は毎年、大人気の駅弁だそうです。一度、お姑さんが買ってきてくれ食べましたが、美味しかったです。ウズラ卵が入っていたのをよく記憶しています。廃線なっても、駅弁屋さんにとって死活問題ですので、駅が残ってよかったと思います。
最後の新しいルールを云々の文が生きていますね。いい思い出がある二人、きっと幸せになられると思いました、ほのぼのとしました、鉄道知識も知ることができました、ありがとうございました。

14/03/08 泡沫恋歌

一条圭吾様、拝読しました。

私が軽井沢に行ったのはもう20年くらい前になると思います。
「峠の釜めし」美味しいですよね。
読んでて食べたくなっちゃいました。
とっても素直なお話で読んでてほのぼのしました。

とっても面白かったです。
ありがとうございますO┓ペコリ

14/03/08 綾瀬和也

草藍様

コメントありがとうございます。お褒めいただきまして大変光栄です。ちなみに廃線になってしまった区間を走っていた連結の機関車は、ちょっと先の博物館に展示されています。

駅弁大会等で相変わらずの人気のようですね。あの釜は自分の地元、栃木県の益子焼なんです。実家にはその釜を文道具入れに使っていた事を書いてて思い出しました。

子供のころ一回、大人になってから二回行きましたが、ドライブインは大盛況です。駅前にも専門店があってそちらもお客さんが一杯入っていたのを記憶しています。

二人にはこれからも幸せに暮らしてほしいと思います。

また読んでいただけたら嬉しいです

14/03/08 綾瀬和也

泡沫恋歌様

コメントありがとうございます。自分、実家は栃木県なのですが、一般道で行くと約3時間ぐらいかかります。高速使えばもう少し早いです。

今は北海道に住んでいるので、食べる機会が無いのですが、孝徳くん同様に食べたくなりました。

二人とも大変素直な子みたいなので、これからの困難も一緒に乗り越えていけるでしょう。

お誉めいただきまして大変光栄です

また読んでもらえたら嬉しいです

14/03/08 タック

一条圭吾さん、ご投稿ありがとうございます。拝読いたしました。

ほのぼのとした二人の関係が微笑ましく、日常感に溢れていると感じました。リアリティをリアリティのまま描く、というのは非常に難しいと思うのですが、それを自然にやっていらっしゃるあたりに巧さがあったと思います。

14/03/10 綾瀬和也

タック様

コメントありがとうございます。お誉めいただきまして大変光栄です。

つたない文章ですが、そういうのを感じていただけたのであれば嬉しいです。

確かにリアリティや日常を書くのは難しいですよね(苦笑)

またコメントいただけると嬉しいです

14/03/12 かめかめ

電車の話なのに、車のCMにそのまま使えそうだな〜と思うです。

14/03/12 綾瀬和也

かめかめ様

コメントありがとうございます。

車のCMですか。そこまで言ってもらえると嬉しいです(笑)

廃線をテーマにして書いたのですが、ちょっと違う感じになってしまいましたが、いいのが書けたと勝手に思っています

また読んでいただけると嬉しいです

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