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クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

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将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

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赤いドレスの森の夢

14/03/03 コンテスト(テーマ):第三回OC 【 廃 】  コメント:11件 クナリ 閲覧数:1487

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かつてその敷地は、ある“需要のある廃棄物”の置き場所だったが、一つの事故をきっかけに今は廃れ、一面灰に覆われていた。
その灰の上を風が撫で、か細い緑が少しずつ芽吹く。
意味があろうと、無かろうと。



廃棄生である僕は、『棄てられた森』の最奥にあるこの学校の敷地から出たことがない。
全校生徒が廃棄生だが、ここでの生活は普通の全寮制の高校と変わらないらしい。らしい、と聞いただけだけど。
僕達廃棄生の用途は、生きた燃料だった。僕達の体は酷く燃え易く、燃焼効率も良くて、火力発電の材料に最適だった。
そんな僕達が何の為に学ぶのかは分からないが、新入生は毎年入って来る。
人権という概念を習ったけど、それが僕達には存在しないことも知っている。嘆き方は知らない。
教師達も、元は廃棄生だ。卒業生が、唯一延命出来る進路。特別有難くもないけど。

科学部の部室には、昔バーナを扱い損ねて焼死した人達の形をした焦げ跡が、幾つか残っている。
黄昏時、僕はツグサと二人で器具の手入れをしていた。ツグサは男子の中でも体が細く、この時間は夕陽色に染まった白衣が映える。
「アガナ。逃げよう、今夜。見張りが寝呆助のヌマ一人だ」
僕達は、脱走を目論む仲だった。
「いいね」
脱走罪は、焼却炉に直行の一級禁忌。
表情にも鼓動にも変化はないけど、お互いの高揚は伝わった。
廃棄生は、感情が乏しい。逃避反射すら衰えている。僕やツグサの様に、何らかの衝動を持つ生徒は稀だった。
仮面の様な無表情の裏で、僕達は森の外の、未知の世界に憧れていた。そんな感覚が共有出来るのは、ツグサだけだった。

深夜、学校の裏門を静かに開ける。
夜の森から響く幾種類もの不気味な音も、僕達には、新たな幕開けを告げるファンファレだった。感情に不慣れな僕達の舌に、好奇心は酷く甘い。
「アガナは、森を出たら何をしたい?」
「この制服以外の服が欲しい」
「ならドレスでも着て、一人称も性別通りに直せよ」
廃棄生にとって性別は無意味だったけど、これからは重要になるのだろうか。
その時、ツグサの首を、背後から太い腕が捕まえた。
「二人、焼却炉行きだ」
僕達の後ろに、キグシネ教師が立っていた。
ツグサを助けようと、僕は教師に組み付いた。しかしすぐに他の教師らが応援に駆けつけ、引き剥がされる。
「逃げろ、アガナ。ドレスを着ろよ」
淡々と言い、ツグサはポケットから小瓶を取り出して、中の薬品を飲んだ。
「三秒後、俺は瞬間的に燃焼する」
ツグサも、やはり廃棄生だった。自分の命の見積が軽すぎる。初めから、僕の為にこうなることを覚悟していたのだろうか。
ツグサが光と音と熱に変わって弾けた。
教師らはその寸前、ツグサの体を森の方へ蹴り出したので、全員無事だった。
「燃料が、無駄に燃えやがって」と無感動な声。
爆煙に紛れれば、逃げ切れたかもしれない。けれど、教師のその言葉が僕の優先順位を変えた。
森の外への興味など、消え失せた。
胸を内側から殴られる様な痛み。頭が熱く痺れ、血が沸く感覚。
僕は、その急激さへの免疫を持ち合わせていなかった。そのせいで、考え得る中で最も非生産的で、非建設的で、反社会的な行動を選択した。
自分のポケットから小瓶を取り出し、中の液体をこっそり飲み下す。ツグサのそれとは、似て非なる薬品。
僕を捕まえようと、キグシネ教師が向かって来たが、僕の顔を見てその足がぴたりと止まる。
僕は、どんな表情をしていたのだろう。感情に乏しい筈の教師の顔が引きつっていた。
僕の体は、ゆっくりと全身から炎を生じた。キグシネ教師の手首を掴むと、炎は容易に彼に燃え移る。元々廃棄生の体の彼が焼死から逃れる方法は、もう無い。
教師らは逃げ出したが、生命への危機感すら希薄な彼らに追い付くのは容易で、僕は次々と標的達に着火した。
僕も万一の時に備え、ツグサと同じことを考えて薬品を用意していた。彼は爆発で、僕は緩やかな燃焼で、互いに唯一の資産である自分の体を捧げて、もう一人を何とか逃がしたかった。
ならばこの結末は、最悪だ。なのに、止められない。
この学校へ棄てられた僕達。
僕は、禁忌を咎められて逆上した虐殺魔。世界を傷付けるだけの癌細胞。
でも、棄てた物は消えた物だと考えていた連中だって、酷い。
ツグサは死んだ。ゼロは死ねない。ほら、僕達はゼロじゃない。
せめて、僕の悪意一つで、世界へ消えない傷を刻め。
僕は教師らへの火付けが終わると、『棄てられた森』の木々へ触れて火を放った。

僕は間もなく焼死する。
その前に出来るだけ沢山の炎を。
この世界に出来るだけ大きな傷を。
でも、どうして?

僕も、誰も、気付かなかった。
僕はずっと、僕達を棄てた世界に怒っていたんだ。

森に立つ火柱が、人間には消せない大きさでそびえた頃、僕は焼け落ちた。


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このストーリーに関するコメント

14/03/04 タック

クナリさん、ご投稿ありがとうございます。拝読いたしました。

「廃棄生」というネーミング、設定にまず感嘆しました。導入からの流れに無理がなく、世界にすっと入っていける自然さがあったと思います。
「廃棄生」である彼らの脱走に意味はあったのか。「廃棄生」である彼らの生活に尊厳はあったのか。そして、「廃棄生」である彼が残した傷跡は、世界にどんな影響をもたらしたのか。世界に打ち捨てられた悲しみと怒りが非常によく伝わりましたが、世界に傷を残したい、と考えた彼は、ひょっとしたら世界に対し、まだ捨てきれぬ希望を持っていたのかもしれません。

14/03/04 クナリ

タックさん>
ありがとうございます!
当たり前のように、ありえない話が、説明も最小限のままに展開していきましたが、問題なく読んでいただけましたでしょうか(^^;)。
怒っているということは、自分か世界か、あるいは両方に希望を持っているということですね。
少なくとも、今よりももっとすばらしい何かがあるはずだ、と潜在的には思っていたのかも知れません。

オーナーズコンテスト、応援しております!

14/03/05 草愛やし美

クナリ様、拝読しました。

なんという悲しいお話なのでしょう。つい先日、報じられた「万能細胞」や、ノーベル賞に輝いた「IPS細胞」のことを思い出しました。でも、彼らは建設的なものでなく、捨て去られるべきと決められたものだったのですね。
読み終えて、タイトルを見て、更に切なくなりました。人が人に課す仕業がこの世で最も残酷で酷いと誰かが言ったことを思い出しました。廃棄生、こういうものが、近い将来現れる可能性もあるかもしれませんね。人間は、決して神になどなれないというのに……。
物語の設定など、大変面白かったです、ありがとうございました。

PS: 雪置場、シカゴでも見かけました。アメリカですので、大地が広い、駐車場のあちこちに点在していましたが、ここまでの聳える雪山は見かけませんでした。しかし、凄いもんですね。どんだけ〜〜降ったのかと、口あんぐりの私です。

14/03/06 クナリ

OHIMEさん>
なにやら救いようのない世界観ですが、掌編としてはうまく話を閉じられたでしょうか?
なんかこう、今の会社の少し偉い人とかが、「ものを大切にしろ。俺たちはそう教わってきたんだ」「俺たちが子供のころは、食べ物を大切にしろと教わってきたんだがな(お前らはそうじゃないな、という文脈で)」とかいいつつ使い捨て文化を全力で満喫して、食べ物も消耗品も粗末にしまくっていることに対するやるせなさみたいなものが自分の根底にあって、「偉い人め、捨てるということを、あんまり甘く見るなよ〜」という観念が根底にあるのかも知れませぬ。
暗いわー。
自分暗いわー。
雪が大量に積もると、空き地に積む(というか「捨てる」)か、川に投げ込むか、ですね(^^;)。
置くとこないのですよッ…。

草藍さん>
なんかもう設定からして救いがないというか、登場人物が自分たちの価値に執着がないというのがそもそも良くないネ! と書き終わってから思うってものです(おい)。
タイトルは今回結構悩みまして、廃棄生である主人公が最後に来てようやくまとえたドレスは、自分も学校も燃やし尽くす炎だった、という、まあちょっと、「廃棄」というものに対する嫌味みたいなものが入っているのかもしれませぬ。
この世界では、廃棄生は人権もなく、マジョリティである通常の人類の燃料扱いですが、強いものとか偉い人たちが当たり前のようにもたらすことの中にあるむごさみたいなものが、われわれの世界にもあると思います。
上司が部下に「お菓子でも食べようかな。あれ、このお菓子、賞味期限が一日過ぎてるな。おいお前たち、これを食べてしまえ。食い物を粗末にするなよ」といいながら自分はそれに見向きもしないで別の新しいパッケージを開ける、なんて光景を見ていると、「ああ、この人にとっては賞味期限を過ぎたお菓子はゴミで、部下はゴミ箱なのかな。食べ物を粗末にするなが聞いてあきれる」と思ってしまう自分も病んでいるなと思いまするー。
こないだの大雪のときは、国道すら雪で埋まって歩道もみっちり雪が乗ってしまい、平泳ぎをするように雪を掻き分けて進みましたッ。
まだ道に雪残ってます(^^;)。

14/03/11 朔良

クナリさん、おはようございます。
拝読いたしました。

2000字でこれだけの世界観を描き切るクナリさんの素晴らしい筆力に圧倒されました。
燃料になる廃棄生という発想がすごいですね。とても思いつけません。
お互いがせめて相手だけは逃がしたいと願っていたのに、こんな結末になってしまうなんて…。
感情に乏しく淡々と生きてきた僕に最後に芽生えた強い怒りが、胸に焼き付きました。

14/03/11 クナリ

朔良さん>
世界観については登場人物たちに直接関係のあることに絞って書き、それにまつわる説明とかをほとんどしないので、不親切な文章かなあと自分では思っています(^^;)。
感情というのは本当にくせもので、自分や他人の運命をそれひとつで簡単に構成できてしまったりもしますよね。
瞬発的な感情が引き起こすことは、たいてい悲劇的なことのような気がしますが…。
コメント、ありがとうございました!

14/03/12 かめかめ

「胸を内側から殴られる様な痛み。頭が熱く痺れ、血が沸く感覚。」
あ〜。よく知ってる感覚です。しょっちゅうです。廃棄生は知らない方が幸せだったでしょうか。知ってしまって何かを得られたようにも思いますが。

つらら、すごいですね。冷たいはずなのに南洋の植物みたい。

14/03/13 クナリ

かめかめさん>
このような感覚が、しょっちゅうでございますか!
なんかもう、「ああ今まで『人間として○○』みたいな話を散々聞かされてきたしそれが大事なのはわかるんだけど、今この場合はそういうのもうどうでもいいかなー」ってなる時がありますよね〜。
人生、意味があったのか無意味だったのかという問いは、死という絶対的なこの断絶がある限り空しいもの…と言えてしまうのは仕方ないのですが、それでも無駄ではなかったのだと思いたいですね。

14/03/31 光石七

人が廃棄される世界、フィクションだけど形を変えて現実にもあるような気もします。
押しつけがましい説教ではなく、心に訴えかけてくるお話でした。

14/03/31 クナリ

光石さん>
あまり、現世に対して皮肉っぽくなったりはしないように気をつけました。
あくまで異世界、あくまで彼ら、という感じで。
その方が身につまされることもあるわけで、それを狙った部分もあります。
うーんあざとい(^^;)。
コメント、ありがとうございました!

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