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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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我思う、ゆえにロボット

14/03/03 コンテスト(テーマ):第三回OC 【 廃 】  コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1350

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 賀太郎は、腕時計型ビデオカメラをオンにすると、女の背後に歩みよっていき、そっと腕を、女の足の下にのばした。
 数十秒のあいだ、撮影をつづけた賀太郎が、なにくわぬ顔で腕をあげようとしたそのとき、女がくるりとふりかえった。その目がキラリと冷たい光を放った。、
 女はロボットだった。道理で、平然としていたわけだ。男も女もオールマイティ、完全無欠のコンピューター頭のかれらを盗撮したところで、なにが面白いというのだ。発覚され、警察にしょっぴかれるリスクをおかしてこそ、盗撮の喜びがあるというものだ。
 さっさと彼は立ち去ろうとした。
「まちなさい」
 呼びとめられて、むしろ彼は当惑した。
「なにか?」
「あなた、いま私を、盗撮したでしょう」
「―――したけど、あんたロボットだろ」
「そうよ」
「だったら問題ないじゃないか」
「私はなにもあなたを、責めるつもりはないの」
 女はあらたまって、賀太郎とむかいあった。ロボットらしく、八頭身の、人間の女のどんなモデルも到底かなわないその美貌とプロポーションに、さすがの賀太郎もおもわず目をみはった。しかしこいつの頭には超小型のスーパーコンピュータが詰まっているのだ。
「私は、人類の生態を研究している学者なの。とくにあなたのような、下劣で下等な欲望に支配された人間こそが、研究対象なの」
「下劣で下等でわるかったな」
「失礼」
 女はあくまで寛大な態度をくずさなかった。
「あなたのような、こっそり女を盗撮する心理には、とても興味があるの。よかったら、盗撮するときのあなたの心理状態を教えてくれないかしら」
「心理状態といっても………相手がそれを隠すから、撮るんだとしかいいようがない」
「どうして女は隠すのかしら」
「それは、羞恥心だろう」
「羞恥心」
 女の目が一瞬くもった。高性能の頭脳がフル回転しているのにちがいない。なるほど考えてみれば、ロボットに羞恥の念など理解できっこないだろう。命ないものに、そんな感情があるはずもなく、また無用のしろものに相違なかった。
「下劣で下等な感情―――それこそが人間なんだと、あなたをみてよくわかったわ。ありがとう」
 ロボットの女はそれだけいうと、バイバイと手をふりながら、立ち去っていった。
 あとにひとりのこされた賀太郎は、腕にはめたビデオカメラの、いつのまにか映し出されていた盗撮ずみの画像に、目をやった。
 いったん機械だという認識をもったら最後、それがどんなに際どい映像であっても、さっぱり興はもよおさなかった。とくにいま相手から手ひどくうけた、覆しようのない屈辱感があればなおのこと………。


 その午後おそく賀太郎は、電車にのって、とある町にやってきた。
 駅から三十分ほど歩いたところにある、大きな建物の前で彼はたちどまった。そこは、過去に廃棄された多くのロボットが売買されている施設だった。
 彼の中にはまだ午前中の、ロボット女との出来事が生生しく尾をひいていて、こみあげてくる劣等感にいまにも押し潰されそうになっていた。ここに来たのも、それから立ち直りたい気持に駆り立てられたためかもしれない。
「いらっしゃい」
 男が入り口ででむかえた。
「ここには、平成初期に製造されたロボットが多く、集められているときいたんだけど」
「ここにくるお客さんはだいたい、その時期のロボットを求められますよ」
 一度は廃棄処分されたロボットなので、低価格で購入できることを賀太郎はまえもって調べていた。
「あれをみせてもらえるだろうか。ええと―――」
「未見のことですか」
「そうそう、そのミミ」
 二足歩行初期の女性ロボットで、当時のテレビでみた倒れることをこらえているような歩き方と、乏しい言葉ながら、相手とのコミュニケーションをなんとか保とうとしている姿が、賀太郎の頭にふいにあらわれたのは、きょうのロボット女との出来事があった後のことだった。
 男につれていかれた部屋には、数体のロボットが、ちょうど博物館に展示された恐竜の化石のように、うすぐらい照明の中にじっとたちつくしていた。
 それらはみな未見型ロボットだとわかると賀太郎は、とくにみおぼえのある、覚束なげな顔つきのロボットに近づいた。
 男から教えられた後頭部のスィッチをおすと、未見は目を開いた。
「こんにちは」
 彼がいうと、しばらくの間をおいて、、
「こんにちは」
「名前は」
「ミミです」
「ぼくは賀太郎だ」
「はじめまして」
 そのたどたどしいやりとりのなかに賀太郎は、なんともいえない暖かな温もりを感じていた。
「なかなかの美人だ」
 すると未見は、顔を左右に傾げるようにしながら、一言いった。
「恥ずかしいですわ」
 賀太郎は、感動のあまり、いまにも彼女に抱きつきそうになった。



 



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このストーリーに関するコメント

14/03/04 タック

W・アーム・スープレックスさん、ご投稿ありがとうございます。拝読いたしました。

ロボットに人間が研究され、見下され、下等だと烙印を押される。決して荒唐無稽な世界ともいえないところが恐ろしかったです。性欲を下劣とののしられた主人公が、その欲を同じロボットに求めるあたりに人間の悲哀といいますか、さがを感じました。ロボットはロボットとして、人間とある程度の距離を保って欲しいものですね。

14/03/04 W・アーム・スープレックス

タックさん、コメントありがとうございます。

この作品は、タイトルがさきに浮かんで、あとから内容がついてきました。テーマが『廃』なので、なんとか最後あたりに少しかすめたかなと思ったりしています。ロボット社会はもう目と鼻のさきまでちかづいているような気がします。そのとき人間はどうするのか、いまから考えておいたほうがいいのではないでしょうか。

14/03/12 かめかめ

未見って名前が未来を見つめた最先端だった時代なら、ロボットと人間は友好的だったんでしょうね〜
ロボットの傷はロボットで癒す。合理的。

14/03/14 W・アーム・スープレックス

ミミのモデルは現実に存在します。こういう点からもロボット物は、うかうかしてると現実のほうが先を行くという場合も大いにありえます。
コメントありがとうございました。

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