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勇気を出した答え

14/03/02 コンテスト(テーマ):第五十二回 時空モノガタリ文学賞【 勇気 】  コメント:1件 FB 閲覧数:1114

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 不気味な灰色の雨雲から降りそそぐその湿った雪は、あの夏の日から既に半年が経過したことを伝えていた。
大空に散る何輪もの花火とともに彼らの青春が始まったあの夏の日。
 
半年前、まだ多くの積乱雲が低空を舞い、灼熱の太陽が地面を焼き、蝉の声が地上を満たしていた頃の話である。

 大学受験を来春に控えた瀬戸が放課後の教室での自習を終え、帰宅しようとして下駄箱を出たとき、後ろから不意に声がした。
「あ、瀬戸先輩じゃないですか。こんにちは」
 高校に入学してまもなく二年半の中海が久々に会った瀬戸は、どこか生気の無いように感じられたが、いつもは溌剌としている彼女のその姿は、明らかに受験勉強によるものではないと直感させた。
「ああ、中海君。ここで何してるの?」
 思いがけない人間に声をかけられた瀬戸は、ややその反応を遅らせた。
「今部活が終わったところです。先輩も勉強頑張ってください」
 瀬戸の元気のない要因を聞こうとしていたが、何と聞けば良いかわからなかった中海が出した返事だった。
「・・・うん」
 明らかに何かを抱えている瀬戸の返事は、数秒の沈黙を生んだ。
「・・・先輩、なんか元気ないですけど、何かありました?」
 中海はここでようやく肝心の部分に触れることができた。
「・・・うん、勉強が大変」
 中海が何を聞きたがっているのかは、瀬戸にも分かっていたが、しかしそれをいきなり 切り出すことはできなかった。
「いや、悩んでいることがあったら聞きますよ。なんで遠慮しないでください」
 思い切った中海の言葉は、だが、確実に瀬戸の中にあるタグを外した。
「・・・ふられたの。彼氏に。・・・それだけ」
 ある程度予想のできていた回答であっただけに、中海の答えは決まっていた。
「そうですか・・・でも、落ち込んでいても何も始まらないっすよ。じゃー、なんなら今度一緒に花火大会でも行きますか?」
「・・・ありがとう。中海君」
 下駄箱で会った時から瀬戸はこの結末を直感していた。そして、これから起ころうとしていることも、さらにそれから起ころうとしていることも。

 瀬戸と中海はともに地元の同じ中学出身で、同じ部活動をしていたため、先輩後輩としての付き合いは長かった。
 高校に入ってからは、多くの見知らぬ人に囲まれ、たくさんの分からないことに直面し、苦難に立たされた時にはお互いに助け合い、分かち合える関係になった。
しかし、それぞれが別の男女と付き合っていたために、お互いが恋愛対象となることは長らくなかった。
 だが、数ヶ月前に中海が別れ、瀬戸も同様になった今、花火大会に行った二人をどのような未来が待つかは、殆ど自明であった。

花火大会の帰り、二人が向かった先は人気のない静かな公園だった。
空気が澄んでいて、夜空は絶景であることで地元では有名な場所だ。
その無限の天空を覆い尽くす煌く夜空の下で、中海は告白した。瀬戸も受け入れた。
二人とも、それまでずっとしてきた我慢が、ようやくはらされたようだった。


 灰色の空に幻想的に舞う雪の下で、中海は半年ぶりに、あの時と同じ瀬戸の元気のない顔を見た。
 いつもなら、「ああ、雪だよ!」などとはしゃぐはずの瀬戸であるが、何の反応も見せないここ最近の彼女は、再び何らかの悩みの種を持っていると見えた。
「何か悩んでいるんですか?」
 中海は聞いたが、返答は早かった。
「いや大丈夫。迷惑かけないようにするから」
 それきり、その日は会話がなかった。

 それから中海は悩んだ。
 半年前は、彼女の悩みの相談に乗ってあげられたのに、どうしてそれができないのだと、中海は自分を責めた。
 そして、彼女の悩みを払拭するには何をすべきか、毎日それだけを考えるようになっていた。

 数日たって
「先輩、勇気を出して僕に相談してください」
 いつものように、瀬戸にそう言うと、その日だけ返事は違っていた。
「ううん。もういいの。悩みは解決できたから」
 二つの意味で衝撃だった。
 中海には最後まで相談に乗れなかったことへの悲しみと同時に、瀬戸が悩みを解決できたことへの嬉しさも沸き起こってきた。
「あ、じゃあ明日駅に来て」
 その日、中海にそう言い残して別れた瀬戸の目からは、悲しみに満ちた涙が溢れていた。


 翌日、約束の時間に駅に行った中海は、ついに瀬戸が勇気を出して、全てを打ち明けてくれると信じていた。
 そして、もう隠し事はお互いにしないように約束しようと考えていた。

 予定の時間に少し遅れて着いた瀬戸は、中海の告白された時と同じように、まっすぐ目を見てこう言った。

「別れよ」

 中学からの付き合いで、もはや恋愛対象として中海を見られなくなっていた瀬戸が、勇気を振り絞って放った、わずか半年の青春を終わらせた一言だった。


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このストーリーに関するコメント

14/03/10 かめかめ

なんで瀬戸さんが別れようと思ったのかわかりません。

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