そらの珊瑚さん

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河童

14/02/28 コンテスト(テーマ):第五十二回 時空モノガタリ文学賞【 勇気 】  コメント:21件 そらの珊瑚 閲覧数:2602

時空モノガタリからの選評

「何を言われても、えへらえへら」笑って「勇気ってものがない」と思われていた「あほきち」。「戦争の時代、「日本国民は一丸となって戦わなくてはいけない時に、そんなことでどうするんだ」と「あほきち」をばかにしていた僕。
死を恐れないことや、やりかえすことが勇気なのではなく、危険を顧みずに人を助け、涙と鼻水を同時に流す「あほきち」が、「ほんとうの勇気の持ち主」だと「僕」が気づく過程が、戦争とからめてうまく描かれていたと思いました。
父を戦争で亡くして泣く母に「泣くことなんかこれっぽちもないんだ」と強がる「僕」は、戦時中は普通の少年の姿だったかもしれません。そうした世間の常識から自由で、自在に水と陸とを行き来する「河童」という呼び名が「あほきち」にはとても似合っていますね。

時空モノガタリK

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 本当の名前は確か『かめきち』だった。
 でも彼のことを、みな『あほきち』って呼んだ。あほきちは僕よりだいぶ年は上だったけど、何を言われても、えへらえへら笑ってた。石をぶつけられても笑ってた。
 おれ、あほだから、って。
 
 あほきちの死んだばあちゃんが言ったらしい。『おまえのえがおは、日本一じゃ』って。

「一足す一は?」
「にー」
 あほきちがそう言って笑う。二足す二だって、三足す三だって、全ての答えは「にー」になってしまう。
「やっぱりあほやのう」
 僕らはそうからかって笑った。
 
 時折そんなあほきちの態度に僕はむしゃくしゃした。無性に腹が立った。日本国民は一丸となって戦わなくてはいけない時に、そんなことでどうするんだと。
「やりかえせよ。ほら、やりかえせ、男だろ」
「かんべんしてくれよう」
 河原で僕に頭を叩かれながら、あほきちはやっぱり笑っていた。
「おまえには勇気ってものがないのか」
 いいがかりだとわかっていた。
 僕は行き場のない気持ちをあほきちにぶつけて紛らわせていただけだった。
 
 ◇ 

『メイヨ ノ センシ ヲ トゲラレタリ』

 家に帰れば母ちゃんはまた泣いてるに違いない。
 父ちゃんはお国のために勇敢に戦ったんだろう。泣くことなんかこれぽちもないんだ。
 それなのに。それなのに。
 
 ◇
 
 夏の龍神川は、僕ら小学生の格好の遊び場だった。
 突き出た岩が二か所、下と上にあり、足場になっていた。
 上の足場から跳ぶことが出来れば勇者と認められるのだ。
 水面までゆうに十丈、いや二十丈はあるかもしれない。流れていく木の葉がまるで小さな点のように見える。そこに立つと正直足が震える。それでも毎回行くたびに一度はそこから跳ぶことを日課にしていた。あほきちが跳んだところは誰も見たことがなかったと思う。

 台風が行ってしまった翌日。
 いつも穏やかで澄んだ龍神川の水面は、茶色く濁り、荒々しくうねりにうねっていた。
 いつも僕に挑戦してくる一郎達も
「すげえなぁ」
 と言って見下ろしている。
「別にすごかないさ、あんなモン」
 僕がうそぶくと
「おまえに、ヤレんのか」
 と鼻息荒く、挑んできた。
 ――今日は川遊びは、無しだよ。
 朝の母ちゃんの言葉が心の中でよみがえったけれど、こうなったら引くに引けない。
「ああ、先にとんでやらあ」
 みながかたずを飲んで、今まさに飛び込もうとしている僕の背中を見ているのを感じる。
「やめれ、やめれ」
 あほきちの声がした。
 ――みとれ、あほきち。ほんとの勇気をみせちゃるわい。
 万が一流されても泳ぎには自信があった。
 臆病風をを打ち消すように、思い切り岩場をける。反射的に心の中で『父ちゃん』と叫んでいた。
 
 うわあぁぁぁ……。
 
 悲鳴とも形容できそうな甲高い歓声に包まれて僕は川へ真っ逆さまに落ちていった。
 
 ◇

 それからのことは覚えていない。気づけば遠い下流の河原で寝かされていた。
「つめてぇ」
 僕は目を開けた。
 あほきちの濡れた坊主頭から雫が僕の顔に落ちたのだろう。笑いながら僕を覗き込んでいた。
「よかたなあ。死なんで、よかたなあ」
 その雫の正体があほきちの涙と鼻水が混じったものであるのに、ふと気づく。
「汚ねぇなあ」
 笑いながら泣くなんて、なんて器用なやつなんだ。
 
 ◇

 あとで聞かされた話によると、濁流に飲み込まれて流されていく僕を見て、すかさずあほきちが飛び込んだらしい。それは見事だったという。
 あほきちは泳げないと思っていたみなが、止める間もないほどあっという間のことだったと。
 しかし彼は泳ぎの名手だった。
 ちくしょう、ほんとうの勇気の持ち主はあほきちだったのか。
 それからというもの、誰も彼のことをあほきちとは呼ばなくなった。
 
 新しい呼び名は、河童。
 どちらにしても本名では呼ばれない運命の勇者であった。
 


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このストーリーに関するコメント

14/02/28 そらの珊瑚

画像は「ソザイニング」様よりお借りしました。

一丈約3.03メートルのこと。

14/02/28 草愛やし美

そらの珊瑚様、拝読しました。

なるほど、一番の勇者は彼だったのですね。川で流されるシーンでドキドキしながら、最後のオチ、本名で呼ばれない勇者まで一気に読みました。

タイトルから、まだ行ったことはないのですが、遠野を思いながら読みました。面白かったです、ありがとうございました。

14/03/01 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

本当の勇気というのは、ただ強がって見せていることではなくて
大事な時に、その実力を見せてやれることなんだと分かりました。

なるほど、かめきち君こそが本物の勇者ですね。

美しい描写で龍神川の情景が浮かぶようでした。

14/03/01 鮎風 遊

童話のようで、ほのぼのと。

河童君、いいやつですね。
いつも笑って、淡々と。

友達になりたいです。

14/03/01 朔良

そらの珊瑚さん、こんばんは。
拝読いたしました。

勇気というものは本人が持っていればいいもので、他に対して自分は勇気があると誇示するものではないのだとしみじみ思いました。
本当に強かったり勇気があったりする人って、普段は物静かな方が多いような気がするのです。
あほと言われても笑ってやり過ごし、いざというときにお仕着せではなく勇気を発揮できるかめきちくん、とてもいい子ですね!
面白かったです!

14/03/06 かめかめ

僕は父ちゃんのためになくことができるようになったでしょうか

14/03/08 そらの珊瑚

草藍さん、ありがとうございます。

そういえば遠野には河童伝説がありますね。
遠野ではないのですが、あるお寺で河童の手と言われているものを
見たことがあります。

14/03/08 そらの珊瑚

OHIMEさん、ありがとうございます。

勇気と無謀、なるほど似て非なるものですね。
お父さんのエピソードはあまりふくらませずに書きましたが
そこに気づいていただけて嬉しかったです。

14/03/08 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございます。

あほきちが川に飛び込んだのは、たぶんとっさのことで、頭のなかで
考えてた行動ではなかったでしょう。
勇気というのはここ一番のときに発揮されると重みがあるのでは
と思います。

14/03/08 そらの珊瑚

鮎風さん、ありがとうございます。

はい、是非お友達になってやってください!

14/03/08 そらの珊瑚

朔良さん、ありがとうございます。

そんな風に深く読み取っていただき、感謝します。
普段強がっているひとほど…ということは往々にしてありそうですね。
自分のためでなく、誰かのための勇気は尊いのでは、と思ったことが
このお話を書くきっかけでした。

14/03/08 そらの珊瑚

かめかめさん、ありがとうございます。

さすが鋭い視線ですね。
その答えは読者の方におまかせしたいと思います。

14/03/11 ドーナツ

拝読しました。


あほきちくんは、すごく純粋な少年なんでしょうね。河童の神様が見守ってくれてるのかなと思います。
飛び込んだときは、自分のことは二の次だったと思います。こういう純粋な気持ちが河童様に通じたのかな?、、なんて思います。
河童は泳ぎの達人、いい名前もらってよかったね、あほきちくん。

訃報の電文
人の死に名誉の死なんてないのにね、本当にひどい時代でした。

14/03/11 ドーナツ

拝読しました。


あほきちくんは、すごく純粋な少年なんでしょうね。河童の神様が見守ってくれてるのかなと思います。
飛び込んだときは、自分のことは二の次だったと思います。こういう純粋な気持ちが河童様に通じたのかな?、、なんて思います。
河童は泳ぎの達人、いい名前もらってよかったね、あほきちくん。

訃報の電文
人の死に名誉の死なんてないのにね、本当にひどい時代でした。

14/03/11 ドーナツ

エラーでコメントかさなってしまいました。ごめんなさい。

14/03/15 そらの珊瑚

ドーナツさん、ありがとうございます。

きっと彼は助けなきゃという一心だったのでしょう。
もしかしたら河童の生まれ変わりだったのかも。
名誉の戦死、どんなに無念だったことだと思います。戦争は嫌ですね。

14/03/21 gokui

 読ませていただきました。
 うまい! ちゃんとした物語があり、テーマがあり、その裏にあるサブテーマまで。これを2000文字に収めるというのはもうプロですね。
 主人公と河童くんはいい友達になれたようでよかったです。

14/03/22 そらの珊瑚

gokuiさん、ありがとうございます。

身に余るようなお言葉をいただき、恐縮しておりますが
励みといたしまして、読んでいただいた方の心へ届くことのできるような
物語を書いていきたいと思います。

14/03/23 光石七

拝読しました。
OHIMEさんもコメントしていらっしゃいましたが、勇気と無謀の差を感じました。
自分のことなど考えずに助けに飛び込んだかめきちくん、まさに真の勇者です。
素敵なお話をありがとうございました。

14/03/26 そらの珊瑚

光石七さん、ありがとうございます。

かめきちはああみえて自分の泳ぎだけには自信があったの
だと思います。河童の子孫だったのかも。

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