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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
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ルリボシヤンマの奇跡

14/02/27 コンテスト(テーマ):第五十一回 時空モノガタリ文学賞【 奇跡 】 コメント:6件 鮎風 遊 閲覧数:2400

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 生あるものはその生涯に一度だけ神から奇跡を授かる。もちろんそれは人間だけではない、すべての生きものに対してだ。
 たとえば昆虫のルリボシヤンマ(瑠璃星蜻蜒)。体長90mmのスラリとしたボディに瑠璃色の斑紋がある。ちょっと鯔背(いなせ)なイケメントンボだ。

 その一生は卵が水草に産み落とされた時から始まる。そして1ヶ月後にヤゴへと孵化し、静まりかえった沼の底で、5年間大好物のミジンコを食べて過ごす。
 水底での呑気なグルメ生活、だから幸せかというと、そうでもない。10回の脱皮をしなければならないのだ。
 それをやっとこなし、星々が煌めく夏の夜に、暗い水底暮らしはもう飽き飽きだと、水中から突き出た枯れ枝をよじ登る。そして二度と戻りたくないと、爪を立てぶら下がる。
 やがて沼に朝日が差し込み、水面が黄金色に染まる。それを待って、ヤゴはバリッと背の皮を破り、最後の脱皮をする。それから眩し過ぎる太陽光を全身に浴び、時間を掛けて羽化し、やっと成虫となる。
 この一連の変態、とにかく大仕事だ。そのご褒美にと、神は瑠璃星の輝きを紋として与え、実に麗しい姿へと変身する。
 されども、トンボに変身後、残された寿命はたったの4ヶ月。秋には死が待ってる。のんびりやって行こうなんて、そんな気楽なものではない。
 とにかく死は間近。だが、腹はやっぱり減る。そのため水辺を何回も行き来し、ガやアブを狩らねばならない。まことに忙しい日々なのだ。
 夏が終わる頃にはさらに多忙となる。5年数か月の生涯の終わりに、種の存続ため結婚しなければならない。

「あ〜あ、最近の飛行は秒速2m以下。これでは獲物が獲れないよ。プロポーズしたルリにはそっぽ向かれるし、このまま独身で終わるのかなあ」
 初秋となり、自慢の斑紋も色褪せてきた通称ボシヤン、沼に張り出した枝の上で落ち込み気味。そこへメストンボのルリがひゅーと飛んできた。
「ねえ、ボシヤン、私、お腹空いたわ。また求愛のチャンスを上げるから、狩りに連れてって」
 こんなおねだりをしてきたルリ、寄る年波には勝てず、ちょっとお肌が黄色っぽい。その上に瑠璃色斑点が微妙に黒光り。えっ、まるで豹柄じゃん、と一瞬思ったボシヤン、だが惚れた弱みか、「結婚してくれるなら、何でもOK」とひょいと飛び立った。そして一番カッコイイと自画自賛する零戦スタイルで飛翔。待ってと追い掛けてくるルリを、今度はオスプレーなみのホバリングで空中待機。
 合流後は2機の編隊飛行。まず水面ギリギリに、前後のトレイル。そこから斜め形のエシュロンに持って行き、まとめは横に並ぶアブレストへ。その間に、ボシヤンは上下左右にトリプルアクセル風な3回転飛行を披露する。
 こんな高難度技に、ルリはちょっとは俺のこと好きになってくれたかなと油断した時だった、木陰から素早く網が伸びてきた。
「ルリ、ヤバイぞ!」
「ボシヤン、助けて、キャー!」
 こう叫ぶ二匹のトンボ、これでお陀仏か。その瞬間だった、一陣の風が水面をザァーと渡り来る。この神風はすぐさま上昇気流となり、今にも網の中へと飛び込みそうだったボシヤンとルリを空中高くへと舞い上げた。危機一髪の命拾いだ。

 それにしても大空からの眺望、今まで見たことがない景色。木々が生い茂る中に、沼がキラキラと輝く。そこから深緑の森の先へと目を移すと、青い山脈が連なる。トンボ二匹はこの美しさに感激する。
 だが、それも束の間、ルリが表情を曇らせ、「高度1000メートルくらいかしら、もう沼に降りられないわ」と。ボシヤンが振り返ると、ルリの魅惑的な複眼から涙が。「えっ、トンボでも泣くことあるんだ」とトンボのくせして、ボシヤンは余計素っ頓狂な顔で驚く。この反応にムカッときたのか、「トンボが糸の切れた凧になってしまったのよ。どうするつもりなのよ!」とルリが反撃。
 言われてみれば、確かに非常事態だ。
 さてさて、沼へと生還する方法は?
 仲間内で極楽トンボと呼ばれるボシヤンでも、ここは真剣に考える。
 そして出した答えは──身体をひょいと浮かせ、ルリの上に乗っかって、抱き締める。
「アンタ、何すんのよ!」
 こう叫ぶルリに、「俺たちが助かるためには、結婚するしかないんだよ」とボシヤンは甘く囁き、ギュッと力を込める。
 身を絡め合い一体となった二匹のトンボ、自由が利かず失速し、あれよあれよと沼へと墜落して行く。
 ルリとって、こんなスリリングなことは初体験。ボシヤンの脈打つ鼓動に熱い想いを感じ、「いつまでも愛して欲しいの」と胸の内を明かしてしまう。もちろんボシヤンは「永遠に愛を誓うよ」と強く抱擁する。

 ガシャ。
 二匹のルリボシヤンマは、生涯に一度だけ神から授かる奇跡、神風のお陰で、
 愛し合いながら──水辺の草むらに無事帰還となったのだった。


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このストーリーに関するコメント

14/03/01 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

トンボたちの一生がとても感動的で魅力的に描いていますね。
彼らの子孫は今も沼の周りを飛んでいるのでしょうか。

昆虫好きには堪えられないお話だと思いました。

14/03/01 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

コメントありがとうございます。

私の故郷ではこのトンボのことをミズヤンマと呼んでました。
子供にとっては、もちろんオニヤンマより値打ちもので、
よく沼や堀端へ獲りに行きました。
だけど、当時、50年前でもめったに見掛けることがなくなりました。

今はレッドリスト(絶滅危惧種)で、
なんとか種は守られ、あの美しい瑠璃色の斑紋のトンボをもう一度見たいものです。

美しい日本の沼地や清流の自然が壊れないよう願ってます。

14/03/01 朔良

鮎風 遊さん、こんばんは^^
拝読いたしました。

鮎風さん、昆虫にもお詳しいのですね!
短い時間を濃密に生きる昆虫の生態がわかりやすく魅力的に描かれていて、興味深く読ませていただきました。

瑠璃星蜻蜒、レッドリストに載っているのですか…。
表紙に使われている画像の瑠璃星蜻蜒が綺麗なので、実物が見てみたいなと思ったのですが、難しそうですね^^;
瑠璃星蜻蜒が生息できる環境が維持できることを願います。

14/03/02 鮎風 遊

朔良さん

コメントありがとうございます。

瑠璃星蜻蜒、憧れてます。
少年だった頃のトンボ、今でも忘れられなくって、
文章にしてみました。

きっと今もどこかで飛んでくれていたら良いのですが。

14/03/07 そらの珊瑚

鮎風さん、拝読しました。

かつて日本の里山に田んぼがあり、あたりまえのようにトンボが舞っていた風景は開発が進み、だんだんと失われてしまいました。

広島の宮島にしかいないといわれているミヤジマトンボも絶滅危惧種とか。

14/03/07 鮎風 遊

そらの珊瑚さん

コメントありがとうございます。

かって日本には多くの美しいトンボが飛んでました。
いつも素っ頓狂な顔をした可笑しな昆虫、ぜひ戻ってきて欲しいものです。

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