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朔良さん

のんびりまったり。 読むのは綺麗で残酷な話が好きです。 こちらで掌編・短編小説の勉強をさせていただいています。 遡って皆様の作品を読ませていただいてます。 古い作品に突然コメントすることがありますが、失礼があった時は申し訳ありません。 マイペースですが、頑張ります^^

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誘蛾灯

14/02/24 コンテスト(テーマ):第五十回 【 三角関係 】 ターザン山本賞 コメント:17件 朔良 閲覧数:2823

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 網膜に焼き付く青白い光。
 ジジジ…と低い唸りを漏らす誘蛾灯の無慈悲な輝きに魅せられて、ぱちんと命が爆ぜる。



 ガラス張りのカフェに冬の光が差し込む。スマホから着信音が響いて十分。そわそわと視線を泳がせる奈緒子さんを見て潮時を悟る。意地悪はこのくらいでやめておこう。
「先輩、どうしたんです? 何か心配事でも?」
「う、うんん、そんなんじゃないの」
「もしかして、彼から連絡来ました?」
 水を向けると奈緒子さんは安堵とバツの悪さが入り混じった表情を浮かべた。
「…いや、あの…」
「よかったじゃないですか。いいですよ、行ってください」
 途端に顔がぱっと輝く。奈緒子さんは正直でかわいい。
「ごめん。埋め合わせはするからね」
「僕のことはお構いなく」
「ありがと、幸樹くん」
 言うが早いかコートとバッグを掴んで足早に店から出て行く。僕は人ごみに飲まれていく背中をガラス越しに見送った。…嫉妬してもしかたない。バイトの後輩でしかない僕に奈緒子さんを引き止める権利はないのだ。会いに行くのが恋人ではなく彼女を騙しているとしか思えない最低なヤツだとしても。

 だめんずとか言う言葉が流行ったのはもう一昔も前になるだろうか。時代が変わっても冷静に見たら屑としか思えない男に嵌る女はやはりいる。彼女たちは走光性を持つ生き物のように、自分を不幸にする相手を目指して一直線に飛んでいく。
 奈緒子さんもその一人だ。不毛な恋に落ちて数年、女友達から男の話題はNGと見捨てられた奈緒子さんの愚痴のはけ口になることで、僕は彼女と今の関係を築いた。バイト帰りに飯やお茶して、休日に遊んで、でもヤらない。中途半端なバイトの先輩と後輩。たまに嫉妬に駆られるけど、僕は今の関係に満足している。
 強がりじゃない。僕は不幸な女性が好きなのだ。昔、兄貴に嗜好を打ち明けたら変人呼ばわりされた(あいつだって褒められた人間じゃないのに余計なお世話だ)から、一般的な趣味じゃないのは重々承知している。でも、幸薄い女性には喪服の未亡人と同じだけの魅力があると思う。…異論は認める。
 だから、奈緒子さんの葛藤を間近で観察できるこの関係は、僕にとって絶好のポジションでもあった。
 例えば、男に貢ぐためにバイトをいくつも掛け持ちし、洗剤と水で荒れたカサカサの指先に、僕は口づけしたくなるような愛しさを感じる。
 珍しく忠告を口にした僕に「優司は私がいないと駄目なの。確かに利用されてるのかもしれないけど…。少なくとも都合のいい女にはなれるわけでしょ。必要とされないよりいいよ」と達観した笑顔を向けられたときは、ほとんど奈緒子さんを崇拝してしまいそうだった。なんて捩じれたポジティブシンキング! 自己憐憫も迷いもない、蟻地獄に頭からダイブするような奈緒子さんの乾いた不幸は、目眩がするほど眩しかった。
 ……そういうわけなので、お茶の途中で取り残されても自業自得なのだ。

 適当に時間をつぶして家に戻った僕は、玄関で兄貴と鉢合わせし、眉をひそめた。
「よ、遅かったな、幸樹。なんだぁ? 相変わらずしけたツラして」
「こんな時間に家にいるなんて珍しいね」
「シャワー浴びに戻っただけだ。今から出かけっから」
「ふぅん、今日は誰?」
「朋美ちゃん。うふ、優司の欲しがってた時計届いたよ。とか言われたら行かないわけにはいかねーだろ? 小銭も巻き…あるし、たまには遊びにつれてってやるかな。でもなー、甘やかしたらすぐつけあがんだよなー、女ってさ」
 顔とスタイルだけはいいけど、こいつの性格は最悪だ。
「…月夜ばかりだと思うなよ、兄貴」
「あ? 月がなんだって?」
「闇に紛れて刺されないように気をつけなってこと」
「ハッ、ほっとけっての。お前も同じ穴のムジナだろ。人の不幸が好きとかイカレてるって」
 お綺麗な顔に浮かんだニヤニヤ笑いを斜めに見る。
「んだよ、その目つき」
「…なんでもないよ、いってらっしゃい」
 兄貴に背を向け僕は部屋に戻った。

 久しぶりに会っても金だけむしり取られてポイか。今頃、奈緒子さんは部屋で泣いているだろうか。このくらい慣れてるか。じゃあ自分が渡した金で兄貴が他の女と遊びに行くって知ったら? いやそれでもまだ……。
 多分、奈緒子さんには全部わかってる。わかっていてもあんな最低な奴が好きなのだ。どうしようもなく不幸なことに。そしてそれは僕の走光性を刺激する。

 僕は、不幸な女性が好きだ。
 僕は、奈緒子さんの不幸が好きだ。
 僕は、奈緒子さんが…。

 兄貴に献身を踏みにじられ、僕に不幸を搾取され、不毛な循環の中で奈緒子さんの不幸は研ぎ澄まされ、ますます綺麗になる。
 僕は奈緒子さんを救わないし救えない。その輝きに引き寄せられるだけだ。青白い無垢な光にぱちんと爆ぜるその日まで。


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このストーリーに関するコメント

14/02/24 朔良

OHIMEさん、こんばんは^^
読んでいただきありがとうございます。

あはは^^; 本当になんという兄弟でしょうねぇ。二人とも性格悪すぎますよね。どこか破綻しているキャラクターをうまく書けるようになりたいと思いつつ、なかなか精進できません。
誘蛾灯…何故か魅入ってしまいます。虫は苦手なんですけど、妙に魅かれるのですよ。

もっとかわいらしい三角関係を書きたかったのですが、アイディアがまとまらず、こんな三角関係になってしまいました。
OHIMEさんに味があると言ってもらえて、ほっとしました。ありがとうございます。
コメントいただき、嬉しいです。いつもOHIMEさんに励まされています。

14/02/24 光石七

拝読しました。
とんでもない兄弟に馬鹿な女、でも何故か魅力的で世界に引き込まれてしまう。
このお話は誘蛾灯よりも飛び込みたくなる力があると思います。
とても面白かったです。

14/02/25 朔良

光石七さん、こんばんは。
読んで頂きありがとうございます。

ホント、とんでもない兄弟で…^^; なのに魅力を感じたなんてお褒めの言葉をいただき、感激です。
締め切りに間に合わないかとひやひやしながら書いたのですが、光石七さんに面白かったと言っていただけただけでも、最後まで粘ったかいがありました。
コメントありがとうございます。とっても嬉しいです^^

14/02/25 朔良

メイ王星さん、こんばんは。
読んでいただき、ありがとうございます。

最初はもっとかわいらしい三角関係を書くつもりが、いつの間にかこんなことに…^^;
誘蛾灯の使い方は気をつかった部分なので、そこに注目していただけてうれしいです。
話に引き寄せられた、なんて嬉しいお言葉までいただけて感激しています。
コメントいただき、本当にありがとうございます。励みになります^^

14/02/25 泡沫恋歌

朔良様、拝読しました!

これは面白い! ちょっと捻じれた愛情物語が「誘蛾灯」というタイトルと相まって、
凄く興味をそそりました。

ジゴロ気取りの悪い男というのは、どうしようもない魅力があるのでしょう。
案外、ハマってる女もそれに満足して幸せなのだから、それも愛の形だと思う。

それよりもその女の不幸を見ているのが好きだと言う主人公の方がよっぽど罪深いが・・・異論は認める。
そこは異論は認めない! と言いきって欲しい(笑)

興味をそそるお話ありがとうございますO┓ペコリ

14/02/25 そらの珊瑚

朔良さん、拝読しました。

「誘蛾灯」の仕組みでこの物語の三角関係を比喩しているところ、素晴らしいと思いました。
人の幸せとは一筋縄でいかないものですねえ。何に幸せを感じるかはまったくもって自由ですし。
普通に考えればそんな男と付き合うなんておばかさんと思うのに、
得とか損とかそういう次元では考えない奈緒子さんはある意味純愛なのかも。
その姿が美しいと思ってしまうのかもしれませんね、僕は。
蛾に破滅するから「誘蛾灯」には近寄るなといってもそれに抗えないように
人は業というものに逆らえないのもなのかもしれません。

14/02/28 草愛やし美

朔良様、拝読しました。

上手いなあ、やはり朔良さん上手いです。三角関係、それもこういうのありですよね。

「幸薄い女性には喪服の未亡人と同じだけの魅力があると思う」な〜るほど、しきりに頷く私です。男の方はどうして不幸な女性が好きなのか、わかっていても的確さに欠けていましたが、これが正解でしたか、ここだけでもやられた感があります。

実を言いますと、我が相方もその傾向が非常に大でして、昔、焦ったり苦しんだりした記憶があちこちに綻んでます。しかし、この兄弟、いやはや、恐れ入谷の鬼子母神ですわ。タイトルが、凄いことで、これまた上手すぎまして、おもしろうございました。

14/03/01 鮎風 遊

じとっとした湿り、だけど居心地が良い。
奈緒子さんは不幸でますます綺麗になるでしょうね。

「僕」はじっとそれだけを見守ってる。
そんな気持ち、わかりますね。

良い作品ですね。


14/03/01 朔良

泡沫恋歌さん、こんにちは^^
読んでいただき、ありがとうございます。

皆様の作品を拝読させいていただくと、正統派の三角関係と意外なものとの三角関係では素晴らしい作品がたくさんあったので、ちょっとねじれた関係にしてみました。
恋歌さんの興味をそそることができてよかったです。

そうそう、リアルでもやっぱり、悪い男に嵌っちゃう女の人っていますよね^^;
ホストとかもそうだけど…。やっぱり魅力があるのでしょうかねぇ。そして案外しあわせそうです。
確かに! このお話の僕は、かなり性格悪いと思います。それを自覚してるのがまたタチが悪い^^;

コメントいただき、ありがとうございます。
いつも励まされています!

14/03/01 朔良

そらの珊瑚さん、こんにちは^^
読んでいただき、ありがとうございます。

誘蛾灯は、いつか何かの作品に使おうと思っていて、不幸な女とそれを見守る男…という三角関係を思いついた時に、誘蛾灯のことが思い浮かびました。そこからできたお話なので、その点に注目していただけてうれしいです。

そうなんですよねぇ。他の人から見たら不幸としか思えないのに、本人は意外と幸せそうだったり。
奈緒子さんの気持ちは、いつか、相応しいお題があったら書いてみたいなーと思っています。
駄目だと思っていても、悪いと思っていても、やめられないことってありますよね。それもやっぱり人間の業なのでしょうか。

コメント、ありがとうございました。すごくうれしいです。励みになってます!

14/03/01 朔良


草藍さん、こんにちは^^
読んでいただき、ありがとうございます。

わ、草藍さんからお褒めの言葉をいただくなんて、とっても嬉しいです。
かなりねじれた三角関係ですが、一応三角のカタチにはなったかなと…。
喪服の女性って妙に魅力的に見えるみたいですよね、不幸な相手に同情したり魅かれたりするのも、似たような感覚なのかなと思いました。僕は、少々タチが悪いですが^^;

あらら、草藍さんの相方さまも…。お優しくて、辛い思いをしている人をほうっておけないのでしょうね。
それに振り回される方はいろいろ大変ですが…^^;

誘蛾灯を思い浮かべなかったら、最後まで書けなかったかもしれないので、タイトルを褒めていただけてうれしいです。ありがとうございます。

コメントいただき、感謝しています。いつも励まされています!

14/03/01 朔良


鮎風 遊さん、こんにちは〜。
読んでいただいて、ありがとうございます。

どちらかというと、日本的な陰の気がある話だと思います。
不幸で綺麗になるって不思議ですが、そういう美しさってありますよね…。
僕に共感していただけるとは思いませんでしたので、鮎風さんのお言葉すごくうれしいです。

コメントいただき、ありがとうございます。すごく励みになりました^^

14/03/06 かめかめ

うへえ、こわあ。
私、こういう人が狂っていく、たががはずれそうな話、好きです。
朔良さんのページに来ると、いつも上の↑にゃんこ人間に癒されます。

14/03/12 朔良

かめかめさん、よんでいただいてありがとうございます。
コメントのお返しが遅くなり申し訳ないです。

三角関係と言ってもかなり危ういバランスのはなしですよね^^; いつぱちんといってしまうかどうかわからない^^;
かめかめさんに気にいっていただけてうれしいです^^

このイラスト、以前友人が描いてくれたものを使わせてもらってて、自分でも気に入っています。癒されるなんて言っていただけて、友人もきっと喜ぶと思います。ありがとうございます。

14/04/27 朔良

凪沙薫さん
読んでいただき、ありがとうございます。

こちらのコメントに気付かず、お返事遅くなって申し訳ありません^^;
そうそう、駄目な男に嵌る女っているのですよ。やっぱり。
でも、悪い女に嵌っちゃう男の人も結構いるような?
不二子ちゃんとか(^m^)

コメントありがとうございます。うれしいです^^

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