さたけのさん

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奇跡

14/02/24 コンテスト(テーマ):第五十一回 時空モノガタリ文学賞【 奇跡 】 コメント:0件 さたけの 閲覧数:1131

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 この点の軌跡を求めなさい―
まぶたの向こう側で、谷町の言葉は、まどろみに沈みつつある私の耳に辛うじて届いた。奇跡を…求める…
 頭に軽い衝撃を受け、ウガッと声が出た。眠気が残る頭を持ち上げると、いつの間にか谷町が目の前に立っていた。教壇と私の机の間に器用に入り込んで、腕を組み、手には丸めた教科書が握られている。
「浅井、おまえ一番前の席で寝るなよ」
「ん… あー、すみません。でもこの席は私が願ったからじゃなく、クジのせいですよ。最後に残ったクジがこの場所なんて」
「そういうことを言ってるんじゃない。じゃあ、この軌跡求めてみなさい」
「奇跡…奇跡ってもんは、簡単に求めるとか言っちゃだめですよ… 求めるだけじゃダメです。私、奇跡は自分の力で起こすものだと思います。」
「お前なにか勘違いしてるぞ…」先生すごい苦笑い。後ろからクスクス聞こえてくる。なにかおかしい事言ったかなと思ってふと黒板を見ると「軌跡」の文字が。軌跡…キセキ…あーもしかして今数学の時間!?そこまで気づいて一気に目が覚めた。頬と耳が熱い。
「先生!間違えました!!キセキはキセキでも、軌跡です!!」
教室はドッという笑いに包まれた。恥ずかしさで、さらに熱が帯びる。
「もういい…あとで職員室に来なさい」
 先生が再び教壇に立って、授業を再開した。先生、軌跡って言葉もう使わないでくださいつ。その言葉が出るたびに、吹き出してる子がいますっ!!そう願っても、先生の口からは30分ほど軌跡が流れつづけた。

「もー、ユカのせいで、こっちまで恥ずかしかったよ」
お昼ごはんの時間、ミチコが笑いながら言った。「あれは動画投稿したいくらいだったね」隣のエリも頷く。「今年一番のハプニング大賞だね、あれは」
「しっかしさすが文学少女!寝ぼけてもその才能を遺憾なく発揮するとは!」
「やめてよー。ほんとに恥ずかしかったんだから」思い出すだけで顔から火が出そうだ。盛り上がる二人を置いといて、私はお弁当を食べ続ける。
「そういや、谷町に呼ばれてたじゃん。なにか言われたの?」
「ん、特に何も。ただ、最近寝過ぎだって。生活習慣見なおしたらって言われた」
「生活習慣なんてそう簡単に変えられないよね。部活も勉強も精一杯でやってますよ、私達は!」ミチコが握りこぶしを作って掲げる。
「谷町、説明は分かりやすいんだけど、めちゃくちゃ眠い。」
「私もそう思う!ふんふん、って聞いてるのに、気を抜くと寝ちゃうよね。ユカが寝ちゃうのもしょうがない。部活も最近忙しいんでしょ?でも、奇跡は無いわ」
「もう勘弁して下さい」私は、二人のいじりを受け止めながら、お昼を過ごした。
放課後、私は掃除が終わった教室で一人残っていた。次の大会出場メンバーを決めなければならない。みんなの事を一番見ていたのは私だ。部長として、メンバーの取捨選択をする。そのために、一人でいられる教室を選んだのだ。弱小と呼ばれた我が部活を、大きく成長させた私達。前大会では準決勝まで勝ち進み、奇跡とまで言われた。今度は優勝する。妥協は許されない。
 ふと、コツコツと廊下を歩く音が聞こえた。窓から差し込む夕焼けも薄暗くなったこの時間に、誰だろう。そう思っていると、足音は教室あたりで止まった。扉がガラガラと開く。
「おっ、浅井じゃん。なにやってんの」
サッカー部の練習着を着た宮本くんだった。宮本くんは女子の間で人気が高い。勉強もできてサッカー部のエースでイケメン。競争率高いよー。牽制しあってだれも告ってないみたいだけど、私達が告って成功するとしたらまさに奇跡だね、とはミチコの言葉だ。
「あ、これ?今度の大会の資料だよ」
 私の話を聞いているのかいないのか、宮本くんは自分の席に何か取りに来たらしく、机をあさっている。「お、あったあった」取り出したのは一枚のプリント。どうやら、目的の物を発見できたようだ。
「それを取りに来たの?」
「うん、部活で使うプリント」
彼は一息ついて、「そういや今日の奇跡はよかったよ」私の忌まわしき記憶を掘り起こした。
「もう二度と思い出したくないよ。恥ずかしすぎる…」また顔が熱くなる。今日何度目か分からない。
「みんな爆笑だったもんね。でも、結構いい事言ってたと思うよ。奇跡は自分の力で起こすって。あれ、ちょっと感動しちゃった。」
宮本くんは私のそばに歩み寄って、
「俺、今まで勇気が出なくて、諦めようかと思ってた事があるんだ。けど、今日勇気が出た。浅井のおかげだよ。自分の力で、奇跡を起こしたい。」
「私のおかげ…」あの出来事が、まさか人の後押しになるなんて。
宮本くんがプリントを机に置いた。それはただの小テスト。
「それじゃ、奇跡が起きますように。浅井、俺、お前のこと…」
 私の顔が、また熱くなった。
軌跡が、奇跡を生むか。それはまた別のお話。


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