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タックさん

何を書いても平凡なのが悲しい。

性別 男性
将来の夢
座右の銘 明日の自分に期待は持たない。

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三角人形

14/02/21 コンテスト(テーマ):第五十回 【 三角関係 】 ターザン山本賞 コメント:4件 タック 閲覧数:1489

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「♪ さんかく さんかく さんかくかんけい ジャックとロック ジャックとロック どっちがわたしとけっこんするの わたしをわたしをすきなのどっち♪」

――日光の箱。リノリウムの床に作られる影。影は落ち着きなく左右に動き、大きなリボンが、その頭部で揺れている。その傍で、タキシードの男は礼を繰り返していた。窓を透過する陽光が、そのプラスチックの瞳を照らしていた。
「ミオリさま、ミオリさま。私、ミオリさまをあいしているのです。どうか、このジャックのつまとなってください。ミオリさまのためなら、なにをさしだしてもくいはありません」
 変じた、つたない低音による求婚。固定されたビニールの腕が、愛を無機質に表現する。演技の静寂。意味のない間。その間隙を縫うように、一人の男が浮き上がる。
「おまちください、ミオリさま。私、ロックも、ほかの何にもかえがたいあいをミオリさまにいだいているのです。さあ、私のてをおとりください。ロックは、しょうがいをあなたとともにすごしたくおもいます」 
 五指も判然としない手を差し出し、特売の微笑を向けるロック。自らにない長所に、ジャックと呼ばれる男は焦りをみせた。
「おい、よこからでてくるな。ミオリさまは私とけっこんするのだ。ひっこめ。おまえのでるまくはない」
「なんだと。きさまこそだれにくちをきいている。私はロック家のちょうなんだぞ。おまえなど、あしもとにもおよばん。ぶれいものは、とっととされ」
 ロックの挑発に、ジャックは憤然と襲いかかる。腕を振り回し、素材を同じくする胴にこぶしを浴びせかけた。ロックも負けじと、端然とした笑みを浮かべ真っ向から対峙する。互いの打撃音が、白壁に情けなく反響した。その矮小な争いを止めたのは、貴婦人然とした声音だった。
「ジャック、ロック、おやめなさい。わたくし、あいする二人のケンカなどみたくはありません。二人のきもちは、しっかりととどいておりますわ。どちらのあいも、くらべようのないほどおおきいもの。わたくしミオリ、ひとりをえらぶなんてとてもできませんの」
 ジャックが床に置かれ、空いた手が、悲しみを表すように両の瞳を覆う。過剰な嗚咽が漏れ、その間、二人の男は停止したまま虚空を眺め続けている。
 嗚咽が止んだと同時にジャックが持ち上げられ、出所を等しく低音を発する。
「ああ、ミオリさま。私こそが、ミオリさまをもっともあいしているのです。どうか、私をおえらびください。きっと、しあわせにしてみせます」
 ロックが続く。声音が若干高くなる。
「いえ、ミオリさま。きぞくである私、ロックこそが、ミオリさまにふさわしいおとこであるのです。どうか私の、ロックのとなりをえらぶと、そのくちからおきかせください」
「ああ、ミオリ、うれしいですわ。すてきなおふたりが、わたくしのことをおもってくださるのだもの。かんげきで、ひとみがかわくひまもありません。ジャック、ロック、あなたたちのおもいはえいえん? わたくしをずっと、あいしてくださる?」
 上下に揺れるジャック。宙を舞うロック。同意の念が、体全体で表現される。
「もちろんですとも。あなたいがいのじょせいがめにうつることはありません」
「私のいのちをかけて、あなたをおまもりするとちかいます」
「ああ、ああ、わたくしはなんてしあわせもの。いっしょう、あいにいきることができるのだわ。しあわせ……。しあわせよ……」
 感嘆の声。呼応するように、鳥の囀りが室内に響く。胸に抱かれた二人の男は呼吸もなく圧迫され、前面を隠し続ける。その上には、瞑目した幸福の表情があった。

――装飾に乏しい引き戸が開かれ、年若い女性が姿を現す。手に持たれたトレイには色彩の薄い食事が乗せられていた。
「あら、美織さん。お人形遊び? 楽しそうね。でも、もうご飯の時間ですよ。いったん、片付けましょうね」
 職業的な微笑みを向け、女性が両手から男たちを引きはがそうとした、その瞬間、切り裂くような絶叫が室内にこだました。
「いや、いや! 二人を離さないで! ジャック、ロック! 私の大事な二人! 私を、愛してくれてるの!」
 剥き出しの腕に、赤く細い引っ掻き傷が作られる。それを片手で押さえながら、女性は恐怖を浮かべ部屋を退出していった。落下した食事が、床を無残な茶色に染めている。悲鳴を聞き付けた壮年の女性によって金切り声は止み、その光景を、顔をゆがめた最前の女性が見つめていた。
 本物の涙が、白く清潔なパジャマを濡らしていく。骨張った手には、強力にきしむ二人の男が握られている。そこに感情の発露はない。愛も、言葉も、生まれることはなかった。

――長い黒髪を乱し、人形を抱きながら、再び愛を歌い始める女性。人形を手にしてから六年。彼女は今年、二十九歳を迎えた。


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このストーリーに関するコメント

14/02/22 クナリ

面白かったのですが、欲を言いますと、この作品は「設定の公開」の段階でとどまっている気がしましたので、何らかの「展開」が欲しかったと思いました。
主人公の状態がオチとして使われる構成はそのまま生かすとしても、もっと内容を深化できたのではないかと思うのです。
つまり、「ここで閉じてしまっては、ちょっともったいない」ということなのですが。
勝手ながら、正直な感想でありまする。

自分の中で、タックさんに求めるハードルが高くなっているのかもしれません(^^;)。

14/02/22 タック

クナリさん、コメントありがとうございます。

おっしゃる通りだと思います。ただの説明、状況を並べただけになっていますね。小説になってません。年齢を重ねた女性が、普遍的な日常のように人形遊びをしている、そういった恐怖を出したかったのですが、ぜんぜん、出来てませんね。まだまだ力量不足です。
ご意見をいただき、ありがとうございました。成長するための糧としたいと思います。

14/02/23 gokui

 読ませていただきました。
 ちょっと深読みしすぎました。なにか三点セットの品物を擬人化して書いているのかと思い予想を巡らせましたが、人形遊びをする(本人は遊んでいるつもりじゃないようですが)女性でしたか。オチが笑えない内容なのがちょっと問題ですね。

14/03/01 タック

gokuiさん、コメントありがとうございます。

結構な失敗作ですね。単純に面白くないです。もっと面白い作品を書けるよう、精進します。
また、よろしければご一読ください。ありがとうございました。

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