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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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本当の死に方

14/02/17 コンテスト(テーマ): 第二十六回 【 自由投稿スペース 】  コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1257

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 采斉くんの正体は、ゾンビだった。つまり死人である。
 それをいいかえれば、死ぬことができない人間ということになる。すでに死んでいるのだから、なにをことさら死ぬことがあるだろう。
 だがこのことは、人が考えるほど、楽ではない。
 まあ食べることの心配はないにせよ、住むところは必要だし、衣服だっている。裸で世間をわたることなどできはしない。彼はゾンビではあっても、社会性まで放棄しているわけではない。一応は、世間体にも気を配り、地道な生活をまもっていた。
 ながいあいだそのような生活を維持していると、知り合いだってできる。
 そのつきあいの限度はまあ、3年ときめていた。
 采斉くんは生きていないのだから、年をとらない。
 ところが人は、年をとる。
 若い者は成長し、中年は年老いる。つまり、変化するわけだ。采斉君には、その変化がなかった。
 たった3年ぐらいと、あなたはいうかもしれない。だが、3年前にとった写真と現在の自分を見比べてみたまえ。そこには歴然とした違いが認められるにちがいない。
 その理由から采斉くんは、3年をめどに、知人たちとは別れることにしていた。
 3年もたてばそりゃ、気の置けない仲間もでき、ときにはいっしょに居酒屋ののれんをくぐることだってある。
 彼だって、形だけとはいえ酒もビールも飲むし、酒の肴だって口にした。
 気心の知れた仲間たちとたのしくすごすひとときほど、すばらしいものはない。
 とくに采斉くんは、いくら飲んでもけっして酔いつぶれることがないので、みんなは彼の介抱を期待して安心して飲むことができるのだった。
 みんなから慕われ、信頼されて、しかしそれも3年の間だけだった。
 みんなのように変化しない理由を説明するには、自身の正体をあかさなければならず、それをするともはや、これまでのような平穏な暮らしをつづけることは不可能におもえた。
 それで3年たつと、だれにも告げることなく彼は、気まぐれに吹く風のように、どこともしれないところに立ち去ることにしていた。
 と、そう書けば聞こえはいいが、立ち去る先はなにも、冥府でもなければまして、天国でもない。やっぱり、人間と人間がひしめきあうこの世の中で、采斉くんはそこでも、人の目を意識しながら生きて行くための、努力と工夫をしいられた。
 彼はいま、一戸建ての借家に、賃料を払って居住していた。
 壁ひとつむこうに隣人がすむような連棟、テラスハウスの類は避けなければならなかった。
 彼は、あまりに静かすぎた。
 生きている兆候が皆無な居住者というのは、隣人にとって、不安の材料になるものらしい。すこしぐらいは、生活音をたててくれないと、薄気味わるくってしょうがない。
 生きていない采斉くんに、それをもとめるのは酷な話だ。いくら意識して、トイレのドアを音をたてて開け閉めしたり、水道を流したり、ときには独り言をつぶやいたりしても、そんなことがいつまでも長続きするものではない。
 とくにひとりでいれば、ゾンビとしての本質が赤裸々にあらわれて、まるで死人のような静寂が室内にたれこめるのはどうしようもなかった。
 そんな理由から采斉くんは、住居は必ず一戸建ての借家をえらぶことにしていた。
 一戸だてともなれば、その賃料は、ばかにはならない。保証人などもそろえなければならず、いろいろ面倒がつきまとう。
 それを免れるためにも彼は、いつもいわくつきの貸家を探した。
 いわくつきとは、たとえばそこで殺人事件があったとか、一家全員首を吊ったとか、人里はなれた山野にあるとか、夜になると確実に幽霊が出現するとか、とにかくふつうの人ならぜったい借りそうにない物件のことだった。
 彼がいますんでいる家はまさに、そういう意味では、三拍子そろった物件だった。
 まず場所は、駅から遠くはなれた山中の、あたりには木と岩と沼しか見当たらない辺鄙このうえないところで、人間よりもタヌキか猪、シカ、剣呑このうえない親子連れの熊にでくわす機会のほうがはるかに多く、家はそれらの野生生物から逃れるかのように切り立った断崖絶壁の真上にたっていた。
 その家をよろこんで借りたいといった采斉くんを、仲介の不動産屋は、こいつ正気かといった顔でみかえした。
「ほんとにいいのですか。よく考えてくださいよ。これまでここにすんだ人で、夜のうちに消えた人や、ちかくの池で水死体でみつかった人なども、ひとりやふたりではないのですよ。命が惜しくはないのですか?」
 なんども仲介業者がおもいとどまるよううながすのをふりきって采斉くんは、ここにすむことを決めた。
 どんなにいわくつきの物件であっても、やっぱり賃料はとられる。それを稼ぐためにも彼は、なんらかの仕事につく必要があった。
 理由は、ほかにもある。
 彼はよく、やっぱり無関心ではいられないとみえ、ゾンビもののビデオを借りてみることがあった。
 そんなビデオに登場するゾンビたちの、まあなんと愚かで悲惨なことか。
 存在理由はひとえに、滅ぼされるためだけといっても過言ではなかった。そんな連中をみていると、彼はいつも当惑にとらわれた。
 なぜ、じぶんの正体をそこまで露骨に示すのか。
 かれらはあまりに死体である自分を誇示しすぎていた。
 それよりも、人間としての残存機能をもっと大切にすべきではないだろうか。そのためにも、ゾンビはもっと、人間社会にとけこみ、かれらとともに、労働に汗を流すことが重要とはいえないか。
 だが、それはいうほど、簡単なことではない。
 彼は、根がゾンビだけに、見た目に血色が悪かった。
 建設現場の募集におもむくにも、その外見だけで、採用されない場合が多かった。雇う側にとっても、仕事ちゅうに倒れられたりしたら元も子もなくなる。
「もっとうまいものをたくさんとって、元気な姿でやってきなさい」
 采斉くんの耳に、どこでも繰り返された雇用担当者の言葉が、うるさいハエのように鳴り響いた。
 彼がいつしか、町はずれにある神社にやってきたのもそんな、おちつかない気持ちをしずめるためだったのかもしれない。
 と、そこでは、刀をふりまわす人がいて、その刀にばったばったと斬り殺される大勢の人間たちがいた。
 時代劇のロケだということくらいは采斉くんにもすぐわかった。
 彼は興味をおぼえて、撮影カメラの前でなおもつぎつぎ斬り殺される浪人姿の役者たちをながめた。
 ………ああ、まちがっている。斬られて死ぬというのは、あんなんじゃない。
 さすがに、もともと死んでいる采斉くんだけに、その方面のことには厳しかった。
 ただひとり、なかにこれは本物といわれるほど、見事な死にざまをみせる役者がいた。
「あのひとよ、これまで何万回も斬り殺された俳優さんは」
 見物人たちのささやく声が、采斉君の耳にはいった。
 するとあれが有名な、斬られ役専門の俳優か。
 采斉くんも、その役者の名前は知っていた。
 その役者が斬られて倒れて、用がすんでおきあがってきたところに、采斉くんはちかよった。
「あのう、すいません」
「なに?」
 テレビでもなじみのある朴訥な調子で、役者はこたえた。
「ぼく、斬られ役になりたいのですが………」
「経験はあるのですか?」 
「死ぬことには、なれています」
「いま斬られ役はめっきり減っていてね、低賃金でもやる気があるなら、大歓迎だけどな」
「ぜひお願いしますよ」
「あとで関係者に紹介してあげるよ」
「あのう、よかったら一度、斬ってもらえませんか」
「実地テストというやつか」
 面白半分からかあるいは彼のやる気をためすためか、役者のほうもその気になったもようで、一本ざしの刀をスラリとぬいた。
 とはいえ相手は素人、もちろん加減しながらふりおろした刀に、采斉くんはおもいきりぶちあたってきた。
「あぶない」
 斬れないとはいえ、まともにからだで当たられて彼は、おどろいて刀をひいた。
 采斉くんは、悲鳴をあげることもなく倒れた。
 じっさいに、死ぬほどの傷をおった者は、声をあげるひまもなく倒れることを彼は経験上しっていた。
「ああ、だめだ、そんな死に方では。まるで現実味がない。きみ、もっと勉強したまえ。死ぬというのはだね―――」
 斬られ役専門の役者は、采斉くんにむかって、本当に斬られて死ぬとはどういうことかを、熱心に語って聞かせた。


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このストーリーに関するコメント

14/02/21 朔良

W・アーム・スープレックスさん、こんばんは。
拝読いたしました。

実際の死者に死に方を指導する役者…采斉くんも腑に落ちないことでしょう。いくら、舞台(映画)映えするようにとはいえ、死んだこともない人に言われても素直にうなずけませんよね。
現代社会にゾンビがいて普通の人と同じように生活していくとしたら、いろいろ苦労がありますよね、やっぱり。そこらへんの細かい描写もなるほどと思えて面白かったです。

14/02/21 W・アーム・スープレックス

朔良さん、おはようございます。

ゾンビの気持ちを理解していただき、ありがとうございます。
ゾンビ、吸血鬼、狼男、蛇・雪女等々が現代社会に生きて行くには、昔のように、悪魔的能力を発揮していては身がいくつあっても足りず、それよりも日々、地道にコツコツ生きて行くほうが利口なやり方だと、気がついた采斉くんの悲喜劇です。タイトルが少々、おどろおどろしかったかもしれません。
コメントありがとうございました。

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