1. トップページ
  2. 短冊に願いを

るうねさん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

短冊に願いを

14/02/16 コンテスト(テーマ):第五十一回 時空モノガタリ文学賞【 奇跡 】 コメント:2件 るうね 閲覧数:1183

この作品を評価する

 料理している理穂を、浩一はぼんやりと見つめていた。
「もう少し待っててね」
「うん」
 うなずく。
 部屋には、ほどよく冷房がきいていた。普段は気温など気にならないが、今日は冷風が心地よい。本格的な夏はまだ先なのに、今夜はひどく蒸す。
「はい、できたよー」
 理穂が料理を運んでくる。チゲ鍋。
「……あのさ」
「ん、なに?」
「今は七月だよ。なんで、この時期に鍋なのさ。しかもチゲ」
「こうちゃん、好きだったでしょ?」
「そりゃ、好きだけどさ」
「なら、いいじゃない」
 そう言って笑いながら、理穂はもう一品、台所から運んでくる。
「なんで、七面鳥の丸焼きなのさ!」
「こうちゃん、好きだったでしょ?」
「そりゃ、好きだけどさ……」
「季節外れだとは思うよ。でも、クリスマスには一緒にいられないんだし」
 ちょっと寂しそうな顔で、理穂は言う。そんな顔でそんなことを言われては、浩一としては言葉がない。
 でも。
 これではいけない。
 浩一は、ズボンのポケットの中に手を入れ、中に入っているものの感触を確かめた。


「ねえ、理穂」
 食後。後片付けを終え、テーブルを挟んで向かいに座った理穂に、浩一はそう切り出した。
「なぁに、こうちゃん」
「もう、こんなことは終わりにしようよ」
「こんなこと? 料理おいしくなかった?」
「違う」
 浩一は語気を強める。
「こうやって会って、食事をしたり、話をしたり……そういうことを全部やめよう、って言ってるんだ」
「なに、言ってるの」
 浩一が本気で言っていることが分かったのだろう。理穂の表情が歪む。
「こんなのは不自然だ。僕たちは、もう会うべきじゃない」
「いやよ!」
 立ち上がって、理穂が叫んだ。
「絶対にいや! なんで、なんでそんなこと言うの、こうちゃん」
「理穂」
「わたし、なにか悪いことした? そうなら言って、直すから!」
「違う、違うんだ、理穂」
 浩一は、理穂を見つめる。二十代後半の女性の姿が、そこにある。窓に視線を移した。そこに自分の姿が映っていた。小学校低学年ぐらいの男の子。二十年前から成長していない自分の姿が。


 浩一が死んだのは、七夕の夜だった。小学校で開かれた七夕パーティーに行く途中で、酔っ払い運転の車に撥ねられたのだ。
 悲しいけれど、よくある話。それで終わるはずだった物語。
 だが、一人の少女が短冊に書いた願いが、奇跡を起こした。起こしてしまった。
『一年に一回でもいいので、こうちゃんに会いたいです』
 理穂の願い。純粋すぎる、願い。
 それ以来、浩一は霊となった。そして、一年に一回、七夕の夜にだけ、授肉して理穂と会えるようになったのだ。


「でも、やっぱりこんなのは不自然だ」
 浩一は、静かな声音で言う。
「理穂。君は、もう大人の女性だ。社会に出て、一人暮らしをして。それに比べて、僕はどうだ。精神的にはともかく、肉体的には僕の年齢は小学生で止まっている。そして、会えるのは七夕の夜だけ。こんな関係を続けていても、君のためにならない」
「いやよ!」
 理穂が叫ぶ。その目に涙が浮かんでいる。
「わたしは、こうちゃんが好き。こうちゃんさえいれば、他には何にもいらない。それなのに、どうしてそんなひどいこと言うの?」
「理穂……」
「こうちゃんは、わたしのことが嫌いになったのね?」
「そんなわけあるか!」
 思わず、浩一は大声を出していた。理穂が驚いた表情で、口をつぐむ。浩一自身、自分が大声を出したことに戸惑っていた。だが、止まらない。
「そんなわけないだろ! 僕だって理穂と一緒にいたいよ! でも、だめなんだよ、それじゃ!」
 浩一は、ズボンの中に手を突っ込み、中のものをつかみ出して、テーブルの上に置いた。それは一枚の紙。二十年前に、彼が願いを書けなかった短冊。
 今、そこにはこう書いてある。
『理穂ちゃんが、僕のことを忘れて幸せになりますように』
「こうちゃん……」
「理穂、僕は君が好きだ。世界中の誰よりも愛してる。だから」
 浩一は、目に強い意志の光を宿して、理穂を見つめた。
「だから、さよならだ」
 テーブルの上の短冊が、宙に溶けるように消えていった。
 浩一の視界が歪む。
 存在が消えていくからなのか、それとも涙のせいなのか。
「こうちゃん!」
 声を上げる理穂に向かって、浩一は笑ってみせた。笑うことができた。
 光が、全てを包んだ。


 理穂は目を覚ました。
 どうやら、うたた寝をしていたらしい。時計を見る。そろそろ、お風呂に入って、寝る準備をした方が良さそうだ。明日の仕事に差し支える。
 と、窓の外から歌が聞こえてきた。

五色の短冊
私が書いた
お星様きらきら
空から見てる

 しばらく、理穂は目を閉じ、歌を聴いていた。
 その目から、一粒だけ、涙がこぼれ落ちた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

14/02/16 てんとう虫

単なる別れ話だと読みましたが深いですね。家族や好きな人を亡くすと一生引きずる人がいます。理穂はもう大丈夫ですね

14/02/16 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

好きな人の死に引きずられて前に進めない人のことを、一番心配に思うのは、やっぱり死んだ人だと思うんですよ。完全に忘れることなんてできないけど、それを乗り越えて幸せになってほしい、と。理穂も完全に忘れたわけではないようですが、それでも前に進んでいける力をもらったと思います。

ログイン