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お食事パンケーキさん

性別 女性
将来の夢
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いつかの雨だれ

14/02/09 コンテスト(テーマ):第四十九回 時空モノガタリ文学賞【 絶望 】 コメント:1件 お食事パンケーキ 閲覧数:1155

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薄暗い教室。遠い意識の中、コツコツコツとハイヒールの歩く音が響きわたる。その音はどんどん近づいてきて、僕の席を過ぎたあたりで止まった。「起きなさい」。僕は重い瞼をゆっくりと開け、そっと顔をあげた。先生は朗読の最中のようで、片手には教科書が握られていた。僕が自分の教科書に目を移すと、先生は納得したように席を離れていった。

最近、夢を見る。何度も何度も、同じ夢を見る。真っ白な広い部屋の隅に、赤い風船を持った素足の女の子がポツンと立っている。女の子は、何かを言いたそうに僕を見つめているのだ。でも僕が何も出来ずに、ただ呆然と立ち尽くしていると、女の子がものすごい勢いで近づいてきて僕に抱きつく夢。びっくりして離れようとした瞬間、いつも目が覚めるのだ。起き上がると、髪も肌着も汗でべたついていて、目から涙が流れていることも頻繁だった。

あの日は雨だった。いつものように学校が終わり、バス停までの畑道をゆっくりと歩いていた。その日はなんだか胸騒ぎがしていて、落ち着かなかった。バス停に着くと6人ほど並んでいて、僕はその最後尾に並んだ。最近は夢のことが頭から離れなくて、ずっと考えていた。バスが来る間に、小雨がどんどん強くなっていって本降りへと変わっていった。風が強く吹いていて、僕の制服は既にずぶ濡れだ。まもなくバスがやってきて、傘を丁寧に折りたたみ、バスへ乗り込む。いつものように一番後ろの端の席へ座った。途端に睡魔に襲われて、うたた寝をしながらバスに揺られた。

気が付くと10分ほどたっていて、バスは僕一人になっていた。ふと目をやると、前の座席の隙間にメモ紙のようなものが挟まっている。僕はそれをそっと手にとり、開いてみる。そこにはクレヨンで何かが書かれており、よく見ると宝の地図のようだった。小さな子が書いたのだろうか、全てひらがなで、字も大きかったり小さかったりバランスが悪く、解読するのがやっとだった。『あさひみなみやまびょういん』。旭南山病院が宝のありからしい。その横には数字が書かれいた。『A107』。部屋の番号だろうか。

今日はバイトが休みだったこともあり、夜まで時間があった。子どものいたずらや遊びかもしれないとは思ったが、どうしてもその紙が気になる理由があった。

その病院は、このバス通り沿いにある。2つ先の旭南山病院前というバス停で降りてみることにした。小銭と券を投入口にいれ、バスを降りる。そっと傘をさすと、大きな振動と共に雨を感じた。

旭南山病院には一度だけ入院したことがあった。小学校5年生のとき、サッカーの試合で転倒して、左足を骨折したのだ。だから病院のつくりは、なんとなく覚えていた。『A107』は小児病棟だった気がする。

懐かしい匂いがした。病院食の匂いだ。今日は焼き魚かもしれないと、階段を駆け上がりながら思った。A107号室に着くと、その部屋の子どもたちが一つのテレビをみんなで見ていた。

僕はこの光景に見覚えがあった。もしかしたらと思い、部屋に必ず一つある洗面台を下から覗き込んでみた。するとやはり小さくイニシャルが書いてあった。YH…。顔をあげた瞬間、鏡に女の子が写った気がした。

思い出した。小学5年生で入院したとき、僕は一人ではなかった。六人部屋だった。この『A107』で。そのとき、とても仲良くなった由美ちゃんという女の子がいた。僕よりも1つ年下で、何かの病気で入院しているようだった。由美ちゃんとは、一緒にテレビを観たり、漫画を読んだり、絵を書いて遊んだ。ときには病室でシャボン玉をして、看護師さんに怒られたこともあった。でも僕が退院する日、些細なことで喧嘩をしてしまって、それ以来会っていなかったのだ。

忘れてなどいなかった。僕はずっと謝りたかった。あの日、喧嘩別れをしてしまって、ずっと後悔していた。

すぐにナースステーションへ走った。由美ちゃんのその後と、住所を聞こうと思ったからだ。看護師長の田中さんが僕のことを覚えていてくださって、由美ちゃんのことを教えてくれた。

由美ちゃんは、僕が退院してからすぐに容態が急変して、2ヶ月後に亡くなったそうだ。小児がんだったらしい。僕は全然そんなこと知らなかった。あの時はすごく楽しくて、病気だったことすら忘れていた。あの日、すぐに謝っていればよかったなんて、後悔してももう遅い。

でもここまで導いてくれたのも、夢に出てきた女の子も、もしかしたら由美ちゃんだったのかもしれない。

由美ちゃんは、もう許してくれていたのかな。


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このストーリーに関するコメント

14/02/09 gokui

 読ませて頂きました。
 由美ちゃんは自分の居場所を知らせたかったのですね。そして、一緒に遊びたかった。……って事は由美ちゃんは主人公を連れて行きたいのか……いや、やめましょう。違いますよね。きっともう許してあげるという印です。

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