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タックさん

何を書いても平凡なのが悲しい。

性別 男性
将来の夢
座右の銘 明日の自分に期待は持たない。

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拝啓、娘様。

14/02/08 コンテスト(テーマ):第四十九回 時空モノガタリ文学賞【 絶望 】 コメント:5件 タック 閲覧数:1361

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一通目

――ひさしぶり、加奈ちゃん。ごめんなさいね。いろいろあって、しばらくおてがみをだすことができなかったの。さびしかったかな? そんなことないかな? 加奈ちゃんが、むこうでもげんきにやっているのなら、お母さんはそれがいちばんのしあわせです。加奈ちゃんのこと、だいすきだからね。これからはずっと、いっしょにいようね。
 いまから、加奈ちゃんのところにしゅっぱつします。加奈ちゃんにあえるのがとってもたのしみです。おようふくもたくさんかったよ。おかあさんとおてがみ、どっちがはやいかな? お母さんのかお、わすれてないかな? ちょっとこわいです。おじいちゃんとおばあちゃんによろしく。加奈ちゃんとおなじでんしゃでいきます。きっと、すぐついちゃうわ。
 追伸 お父さんもいっしょです。かぞくいっしょ。たのしみね。

二通目

――加奈ちゃん、げんきですか? こっちはゆきもふりはじめて、ポストにいくのがたいへんです。みちもこおってすべりやすくなっているけど、はやく加奈ちゃんにとどけたいとおもい、がんばってポストまであるいています。お母さんは、いやなことがあって、きぶんがあまりよくありません。ごめんなさいね、こんなことかいて。でも、加奈ちゃんしかお母さんのみかたはいないから、すこし、つきあってください。いやだったら、よまなくてもいいからね。
 さいきん、お父さんのイライラがひどくなってて、お母さんはまるでずっとみられているようにかんじています。とてもこわいめでしかりつけてくるの。加奈ちゃんへのおてがみにもケチがついて、いつまでやってるんだ、とかいってきます。むすめなんだから、いいとおもわない? たぶん、お母さんと加奈ちゃんがなかよしなのがきにいらないのだとおもいます。こんどね、お母さん、こっそりそっちにいこうとおもってるの。お父さんにいうとおこられちゃうから、もちろんないしょよ。お父さん、びっくりするかな? たのしみにしていてください。じゃあね。だいじなだいじな加奈ちゃんへ。お母さんより。

三通目  

――加奈ちゃん、ちょうしどう? こっちはゆきこそふっていないけど、とてもさむくなっています。けさは、にわのみずたまりがこおっていました。もう、ふゆですね。さむいとペンをうごかすのもたいへんです。お母さんも、そっちにいきたいわ。さむいふゆは、きらいです。
 お母さんね、おとなりの、たなかのおばさんもきらいなのよ。お母さんを、にらんでくるの。だからコノヤロウ、とおもってニコっとしてあげるとにげちゃうのよ。おかしいね。へんな人が、ここにはおおいです。そっちはちがうのでしょうね。お母さんも、そっちがいいな。あたたかそうでいいですね。では、また。だいじな加奈ちゃんへ。お母さんより。
 
四通目 

――加奈ちゃんへ。げんき? こっちはおやまがまっかになって、とてもきれいです。加奈ちゃんにも、みせてあげたいな。ほんとうに、きれいなのよ。
 あのね、お父さん、おかしいの。へんなことをいうから、お母さんがわらうと、きゅうにおこりだすのよ。おい、おい、っていってお母さんのからだをつかんで、それがとてもつよくて、おかげでお母さん、からだがいたくなっちゃった。お父さん、加奈ちゃんがりょこうにいってから、イライラしていることがおおくなったようにおもいます。たいへんよ、お母さん。つかれるつかれる。あら、おもしろくないことかいちゃった。つぎは、ふつうのことかきます。では、さようなら。お母さんより。

五通目 

――加奈ちゃん。げんきでしょう? ね? ね? やっぱり。お父さんは、だめですね。お母さんはだいじょうぶよ。ごはんはたべていないけど、なんとか、あるいたりはしていますよ。ポストまではいけるから、へいきよ。がんばるね。いっぱい、おてがみかくからね。お父さんにみつからないよう、そっとです。りょこう、ながいけどたのしんで。さようなら。 

六通目 

――加奈ちゃん、お母さん、かんがえました。こうすれば、とおくにいてもはなせるね。ゆうびんやさんは、どこでもいけるものね。お父さんと、けんかしました。加奈ちゃんのことではないから、あんしんしてね。お母さんは、加奈ちゃんをわすれたりしないね。ずっと、わすれないね。お父さんとはちがうよ。じゃあね。 

七通目 

 判読不能。かろうじて「加奈ちゃん」という文字が読み取れる。

八通目

 判読不能。

九通目――と思われる破れた紙

――ごめんなさい。ごめんなさい。加奈ちゃん。ごめんなさい。ごめんなさい。加奈ちゃん。加奈ちゃん。もう、一人で歩かせたりしないから。車に、近づけないから。だから加奈ちゃん、戻ってきて。ごめんなさい。ごめんなさい。――以下、判読不能。


――手紙には、九通目を除いて宛先不明の判が押されていた。


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このストーリーに関するコメント

14/02/09 gokui

 読ませて頂きました。
 絶望に押しつぶされて狂気を発症しちゃいましたね。なんだか泣けてきました。お母さんには現実に戻ってきてもらわないといけませんね。そんなのは供養じゃありません。加奈ちゃんがかわいそうです。
 目頭が熱くなってきましたのでこの辺で……

14/02/09 朔良

タックさん、こんばんは。
拝読いたしました。

子ども宛にひらがなでつづられた手紙の中に、絶望と狂気がだんだんと浮かび上がってきて、ぞくりとしました。
構成も淡々とした中にところどころ狂気の隠れた母親の手紙の文章もお見事ですね。
最後の一文もピタリとはまっていると思いました。

14/02/14 タック

gokuiさん、コメントありがとうございます。

絶望感が伝わったのなら幸いです。また、機会がありましたらご一読ください。ありがとうございました。

14/02/14 タック

gokuiさん、コメントありがとうございます。

絶望感が伝わったのなら幸いです。また、機会がありましたらご一読ください。ありがとうございました。

14/02/14 タック

朔良さん、コメントありがとうございます。

お褒めの言葉をいただき、大変光栄です。構成は少し気を使った部分だったので、楽しんでいただけたなら幸いです。また、機会がありましたらご一読ください。ありがとうございました。

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