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草愛やし美さん

時空文学コンテスト開催100回、おめでとうございます。思えば、初めて私が、こちらに投稿したのは2012年5月のこと、もう4年近く経ったのですね。時空モノガタリさまが、創作の場を与えてくださったお陰で楽しい時間を過ごすことができました。感謝の気持ちでいっぱいです。 また、拙い私の作品を読んでくださった方々に感謝しております。 やし美というのは本名です、母がつけてくれた名前、生まれた時にラジオから流れていた、島崎藤村作詞の「椰子の実」にちなんで……大好きな名前です。ツイッター:草藍やし美、https://twitter.com/cocosouai 

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将来の夢 いっぱい食べて飲んでも痩せているっての、いいだろうなあ〜〜
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絶望の二乗

14/02/05 コンテスト(テーマ):第四十九回 時空モノガタリ文学賞【 絶望 】 コメント:12件 草愛やし美 閲覧数:1657

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 我が子が、亡くなった、保育所で……。事故!? 嘘よ、殺されたのだ。

 保育所から、その一報が入ったのは、私が職場で忙しく働いている時だった。オートメーションの食品の検品作業、無理に頼みこみ、長い産休を貰っていたがようやく戻ってきたばかりだった。
「お子さんの様子がおかしいので、今、救急車で病院へ運びました」
「どこ? どこの病院!?」

 慌てて駆けつけた病院の処置室で、我が子はすでに冷たくなっていた。今朝、家を出る時、あんなに元気だったのに。まだ回らない舌で、「ママア、あにょね、たーくんね、トラク、トラク、いっぱいっぱみたよ。ゴミクーマのおくまるのおえかきちゅるんだ」
 トラクはトラックのこと、ゴミクーマはゴミ車、清掃車のこと、車のことは、おくるまになる。秘密の符号のような言葉でも、私には容易く伝わる。いただきますは、イタマー。ご馳走様は、ゴチン。二歳に満たない我が子はあっけなく冷たい躯になっていた。
「ねえ、たーくんどうして、こんなところで眠っているのよ、起きなさい、起きるのよ、もう夕方なんだよ。いつまで寝ているの起きなさいって、お家に帰ってご飯食べようよ、ね……」
 どんなに呼ぼうと、泣き叫んでも、揺り動かしても我が子は、何も答えない。動かない手や足を懸命に擦ってみると、温かみを取り戻せそうな気がする。
「先生、心臓マッサージして下さい、まだうちの子、生きています。だって、たーくんは今朝、あんなに元気に手を振って……、だのに、おかしいでしょ、どうなったというの──」
 医者は、救急搬送されてきた時、すでに心肺停止で冷たくなっていたが、救命処置は施したと言う。どういうこと! じゃ、我が子はあの保育所ですでに死んでいたっていうの? 殺されたってこと?
「何があったの? 保育所で何かされたのだ」
 警察に訴えたがSIDS乳幼児突然死症候群という病死と片付けられた。いくら保育所のミスや責任を訴えても、聞き届けられない。保母の数の少なさはどうして問われないのだ? 保育所側は、気づいた時にはすでに息をしていなかったと釈明した。怒鳴り込んでいった私に、あの園長がこの場限りの苦悩を滲ませた表情を見せて対応する。もっとちゃんと見ていてくれさえすれば早く病院へ搬送できたはずではないか。ここを選んだのは、私だったが、そこしか赤ちゃんを預かってくれる保育所がなかった。認可保育所は入所不承認となっても働かないといけない状況だった。無認可だったが、環境は良さそうに思えた。所長と名乗った女は、笑顔だった。保母さん達の数の少なさに危惧感をもっと持つべきだったのだろうか。
 
 何日も放心状態のままだった。二度と使われることがないというのに部屋には、持ち主のいなくなった玩具や服などがまだ息づいたまま残っている。家にいると気が狂いそうになる。そのうえ、時間は容赦ない。一度閉じれば社会の門戸を開くのは簡単なことでない。会社の歯車はいくらでも代りがいるからだ。生活していくために職場を失いたくなく、仕事に復帰するしかなかった。外に出れば少しでも気が紛れると、夫に言われて何とか立ち直ろうと必死だった。だが、絶望の深淵が口をあけて待ち構えていた。

「河野さん、お力落しのことですね。でも、あなた、まだお若いですもの。すぐにまたお子様に恵まれますわ、頑張ってくださいね」
「お気の毒に、何て言ったらいいか、でもね、もっと大きくなってからだともっとお辛かったと思うの……、小学生や中学なんかだと思い出多すぎるものねえ」
 かけられた言葉に傷つき、震える拳を握りしめた。

 葬儀の後、社会の正義の味方を装った装ったマスコミが、事故を餌食にし、やがて、私のもとに、容赦のない噂話が巡り巡って辿りつく。
「でもね、事故でしょ、まだ、ましじゃない。ほら、こないだニュースであったでしょ、苛めにあって自殺って、ああいうのだったらもっと辛いんじゃない」
「あんな小さいうちから子供預けて働くって……河野さんも、もう少し働くのを待てばよかったのにねえ」
「無認可でしょ、あんな小規模な保育園駄目ってわからなかったのかしら」
「そうよね、母親なのに、子供が大事じゃないんじゃない」
「母親の選択ミスよ、人手がないのは、見ればわかるはずよ」


 天罰だとでも言いたいのだろうか。一体私が何をしたというのだろう。絶望に追い打ちをかける人々がいる。陰に隠れ、噂だけなら許されるのだろうか。言葉がどれほど人を傷つけているのか思い知った。開いた傷口に塩を擦りつけてくる族(やから)の口から様々な汚辱が放たれている。保育所への待機児童がいったい何人いるのか彼女や彼らは、知っているのだろうか。そして、何もしてくれないこの国が、絶望を二乗、三乗していく。


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このストーリーに関するコメント

14/02/05 草愛やし美

左のイラストは、無料素材のイラストACさんのサイトより、KOUMI_MAHOROさんの可愛いイラストをお借りしています。イラストACさんのURLは、http://www.ac-illust.com/ です。 右イラストは、楽天市場よりお借りしました。

お断り: この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

14/02/05 笹峰霧子

この作品を読んで、現代社会に於いてニュースで流れる幼児や学童の事故を重ねてしまいました。
こういうことがある度に、後になって改善策を考えるという国や責任者の言葉にもいら立ちを感じます。

絶望している者にとって、慰めのつもりで安易に発せられる周りの人の言葉は、猶更心の傷みに追い討ちをかけてきますね。

14/02/05 そらの珊瑚

草藍さん、拝読しました。

私事ですが、以前私立保育所に勤めておりましたので、なんだか冷や汗が出るようなお話でした。
大切な命を預かっているわけですから、大多数の保母はこういうことがないよう、一生懸命やられているのでしょうけど、悲しいかな無認可で労働条件も劣悪といった話も聞きます。
待機児童の問題もありますし、もっと安心して子育てをしやすい環境になってほしいです。

14/02/05 泡沫恋歌

草藍さん、拝読しました。

私も2歳半から、子どもを預けて働いてました。
待機児童だったので、空きができるまで約1年間無認可の私立保育所に
子どもを預けていましたが、人手不足で環境が悪いし、食事も粗末で
本当に子どもには辛い思いをさせました。

とにかく、働いて就業証明書を出さないと公営の保育園に入れられないので
最初はどうしても、無認可の保育園になってしまいます。

行政で何んとかして欲しい問題ですね。

14/02/05 メラ

拝読しました。救いようのない話ですね。私事ですが、6歳の子供がいます。そのせいか読んでいて本当に胸が痛かったです。
このような方はたくさんいます。いったい何がいけないのでしょう。無認可保育でしょうか、制度でしょうか。日頃の健康管理でしょうか。多くの問題があります。しかし、母親としてこの絶望はあまりに絶望的。

14/02/05 朔良

草藍さん、こんばんは。
拝読いたしました。

母親が子どもをなくす…。しかもまだ幼いわが子を、原因もよくわからぬままに。
子どもを亡くした苦しみだけでなく、それをぶつける先もはっきりしない、そのうえ、周囲からは心無い言葉を投げられる…。
何という絶望でしょう。なんか言葉がありません。

この待機児童の問題は、政策としてもっと取り組んでもらいたいですよね…。

14/02/08 鮎風 遊

これは殺されたのか、事故だったのか、それとも運命だったのか。
いずれにしても辛いですね。

しかし、前作品の運命の扉のように、起こってしまうんですね。
ただ起こらないように願うしかない。

子供を亡くす、この世で一番不幸なことかと思います。

14/02/08 kotonoha

拝読しました。
この怒りをどこへ持っていけばいいのでしょう。

私の子育てのときは4歳からしかあずけられませんでしたが
こんな制度があればわが子も被害にあっていたかも知れません。

悲しみに追い打ちをかけるような誹謗中傷は許されませんね。

14/02/08 gokui

 読ませていただきました。
 最初、保育所で死んだから殺されたっていうのは乱暴な発想だなあ、とか思っていましたが、最後まで読み終えると、自分の子供が亡くなった理由も分からない母親の気持ちを共感していました。
 難しい社会問題を題材にうまく問題定義されたよい作品だと思います。

14/02/09 光石七

拝読しました。
見事な問題提起にして心をえぐるお話でした。
「また子供はできる」、「小さいうちならまだいい」、慰めのつもりでしょうが、その子の代わりはいないんです。
できるなら誰だって認可されている環境のいい所へわが子を預けたいはずです。
……なんだか腹が立ってきました(苦笑)

14/03/29 草愛やし美

>笹峰霧子様、コメントいつもありがとうございます。
社会は結構残酷な場合あります。良かれと思ってかけた言葉が、人を傷つけていることもあるかもしれません。私自身、気をつけたいと思い、この話を書きました。

>OHIME様、お読みくださりありがとうございます。
年を経た場合でも、子に先立たれることはとても辛いことです。順番が違うのよと神様に抗議しても駄目なことわかっていますが、親戚のおばさんが息子さんを癌で亡くされ、葬儀に行った日にそう思いました。「お年寄りを苛めないでと……」項垂れたおばさん、どう声をかけてよいかわかりませんでした。
それにしても、現代社会において、日本はまだまだ福祉面が充実していません。子供を育てる環境をもっと整えて欲しいと思います。コメントありがとうございました。

>そらの珊瑚様、そうです、保育される方々も懸命になさっています。子供好きな方がそういうお仕事につかれているはずですから、決しておろそかにはなさっていないはずです。時間的にも人数的にも、足らない現状もあります。社会全体でこういう問題に取り組まないといけないと切に願います。
コメントありがとうございました。

>泡沫恋歌様、コメント感謝、ありがとうございます。
小さな子供を預けて働かないといけないお母さんがいることは事実です。ですのに、公的保育園というところは、まずは働いていないと、申し込むこともできないのです。どうしても、無認可のものに頼らざるをえないのが現状。悲しいことです、もっと違った方策をとるべきだと思います。

>メラ様、お子様が6歳なんですね、ちょうど、幼稚園や保育園へ行かれている年齢ですね。私も子供を連れて毎朝通ったこと記憶しています。
先日、ニュースでネットでベビーシッターということを知り、驚きました。早く何とかしなければと強く思いました。コメントありがとうございました。

>朔良様、待機児童問題はいつも話題になっているはずですのに、なかなか改善されていないようです。日本は文明国のはずなのにと……悲しくなります。コメントありがとうございました。

>鮎風遊様、コメントありがとうございます。
問題はなかなか解決しません。運が悪いだけでは、簡単に解決しない問題があるように思います。

>kotonoha shizuku様、お立ち寄りいつも嬉しいです。コメントをありがとうございます。
私の時は、保育園は1歳児あるいは場所によっては0歳児でも預かってくれたようです。でも、働いている事実がないと申し込みもできませんでした。あれから、何十年も経っているというのに、その制度のままだと知りました。叫ばれてきたはずなのに、本当に悲しくなりますね。

>gokui様、お読みくださって感謝しています。コメント嬉しいです、ありがとうございます。
いろいろな問題があります。つい先日のベビーシッターに子供を預けていてお子さんが亡くなられたニュースは衝撃でした。今時はネットでそういう無認可どころか闇のような子守りも使われているのだと……。悲しいことや辛いことを背負うのは、母親ばかりでは、何とも不公平なことだと思います。

>光石七様、母親経験のある方なら、一度はこういう問題に接していることだと思います。ニュースなど見聞きして、他人ごとでないなと思うことしばしばあります。早く福祉面が充実して、お母さん方が、安心して子育てできる社会をと願っています。コメントをありがとうございました。

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