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坂井Kさん

今年(2014年)は思い付きと勢いだけで書いてきましたが、来年(2015年)は、状況設定をもう少し固めてから書こうかな、と思っています。スティーヴン・キングによると、「状況設定をシッカリとすれば、プロットは無用の長物」らしいですから。

性別 男性
将来の夢 夢というより目標として、来年(2015年)こそ長編小説を書き上げたい。
座右の銘 明日はきっと、いい日になる。

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死を望む我ら

14/02/04 コンテスト(テーマ):第四十九回 時空モノガタリ文学賞【 絶望 】 コメント:2件 坂井K 閲覧数:1153

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「親父なんか死ねば良い」俺はずっとそう思って来た。俺がやつを嫌いになったのはいつからだろう? 以前から馬が合わなかったのは確かだが、殺したいほど嫌いになったのは……、そう、高校三年のときだった。酔っぱらって帰って来たやつが、俺に難癖をつけ、俺がキレて掴み合いになったときからだ。

「息子なんて死ねば良い」いつからか私はそう思うようになった。いつからそう思うようになったのだろう? 私だって、あいつが小さいときは可愛がっていた。――いや、あの頃は仕事が忙しくて、あまり相手をしてやれていなかったか……。それが、あいつが私にあまり懐かなかった理由なのだろう。

 親父は俺に「当たり前のことをしろ!」と言う。同世代の奴らがやっていて、俺がやっていない「当たり前のこと」を。働いて収入を得、結婚して子供を持ち、ローンを組んで家を買う。そんな「当たり前」のことを。――そんなこと、やれたらとっくにやっている。やれないから毎日悩んでいるのだ。

 息子は私に「説教をするなら酒を飲まずにしろ!」と言う。分かっているさ。俺は臆病者だ。怖いのだ。あいつに反撃されるのが。だから、飲まずにはあいつと向き合えない。私は必ず仕事帰りに二、三杯ひっかけてから帰る。そうしないと、あいつの顔をまともに見られない。つい目を逸らしてしまうのだ。

 俺は最近、親父の顔を見ると想像せずにはいられない。やつのブヨブヨした腹にナイフを突き刺す自分の姿を。やつをナイフで刺してやったら、どんな顔をするだろう? 想像すると、ついほくそ笑んでしまう。「真剣な話のときに、何ニヤニヤしている!」やつが怒鳴る。真剣? 酔っぱらっているくせに。

 私は近ごろ、息子に殺意を覚えるようになった。こちらが真剣な話をしているのに、あいつはニヤニヤしているからだ。もっとも、その衝動は瞬間的なもので、一瞬カッとなった後は落ち着くのだが。ただ、カッとなっているときにあいつが余計なひと言でも漏らせば、「掴みかかる」ぐらいはするだろう。

 昨夜、親父が俺の漏らしたひと言にキレた。やつは俺に掴みかかり、取っ組み合いの喧嘩となった。瞬発力は俺の方が上だ。俺はやつの足を引っ掛け、転ばせた。が、やつも諦めない。俺の足を引っ張って同じように転ばせると、俺の上に乗り体重を掛けた。胸に激痛が走る。肋骨にヒビが入ったようだ。

 昨晩、珍しく反論した息子のひと言が、私の怒りを増幅させた。私はソファから立ち上がり、腕を伸ばしてあいつの襟元を掴んだ。が、私が投げ飛ばそうとするより先に、あいつに転ばされてしまった。しかし、酔っていたおかげで痛みを感じなかった私は、あいつの足を引っ張って転ばせ、馬乗りになった。

「止めておきなさい! そのへんで!」と良く通る母の声。俺と親父の動きが止まる。親父の腹で姿は見えない。俺は身体を捩って母の姿を確認した。母は親父の一升瓶を振り翳している。その鬼のような形相は、今まで見たことのない悲壮感に満ちていた。「あなたたちね……」母の目に涙が輝いている。

「止めておきなさい! そのへんで!」と良く通る妻の声。私は動きを止め、彼女の方を向いた。私が飲み干した一升瓶が頭上高く振り上げられている。怒りも悲しみも情けなさも全て入り交じった複雑な表情。「あなたたちね……」妻の目から涙がこぼれ始めた。私は恥ずかしくなって、息子から離れた。

 俺には、母に掛ける言葉など見つからなかった。俺は無言で自分の部屋に戻ると、ベッドに仰向けに寝転がる。肋骨が痛え。あの野郎! 親父への殺意が蘇った。が、すぐに打ち消す。親父が死に、俺が刑務所に入ったら、お袋は……。親父を殺すのは止めておこう。少なくとも、お袋が生きている間は。

 私には、妻を安心させてやれるほどの言語能力はない。彼女の手の一升瓶を掴んで、出来得る限りの穏やかな声で、「渡しなさい、大丈夫だから」と言うことしか出来なかった。一升瓶を足下に置き、肩をギュッと抱きしめる。妻の表情は徐々に平常時のものへと戻って行ったが、涙はまだ止まっていない。

 母が死んだ。心の底から愛してくれていた唯一の存在であった母が。昨夜、親父と喧嘩して疲れていた俺はすぐに眠ってしまい、朝まで目覚めなかった。そして今朝、俺は目にした。台所で冷たくなっている母の姿を。母は包丁を胸に刺して死んでいた。お袋、なぜ死んだんだ。俺も親父も生きているのに。

 妻が死んだ。心の底から愛した唯一の存在であった妻が。昨晩、眠れそうもないという妻に、私は酒を勧めた。酒を飲むとすぐに眠くなる妻は、程なく寝息を立て始めた。私は安心して眠りに就いた。それなのに……。遺書はない。衝動的なものなのだろう。なぜ死んだんだ。私と息子は生きているのに。


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このストーリーに関するコメント

14/02/08 gokui

 読ませていただきました。
 一人称だがコロコロと語り部が変わる。面白い試みですねえ。しかもこの作品に合っています。
 父と息子は、母の毎日の絶望が見えなかったんでしょうかね。『なぜ』って、二人とも自分しか見えていないからなのにね。

14/02/09 坂井K

コメントありがとうございます。励みになります。
私が今までに書いた小説は、全て語り手が途中で変わるものばかりでした。
むしろ、同じ語り手で最初から最後まで行くことの方が難しいと感じます。
短編なら出来そうですので、今度チャレンジしてみます。

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