1. トップページ
  2. 缶コーヒー、錯綜

都然草さん

勢いで書き上げるので稚拙さが目立つかもしれませんが、お読みいただけると幸いです。

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

缶コーヒー、錯綜

14/02/02 コンテスト(テーマ): 第二十四回 【 自由投稿スペース 】  コメント:1件 都然草 閲覧数:1089

この作品を評価する

私は決まって一番下の段、左から数えて三番目の缶コーヒーを買う。
この自販機で買うようになってからもう暫しで一年経つが、未だにアタリが出たことはない。
数字は常に最後の一桁がずれるのだ。三桁の数字は揃っているのに。そのように仕組み込まれているのだろう。
冷たい風に顔を起こされ、私の横を通りすぎる学生を見やる。部活動へ向かう最中だろうか。
大きなスポーツバックは、まだ成長し切っていない男子生徒の身長の三分の二はあるかもしれない。
コーヒーを一口すする。
最近一人でいると、私の中でどうも回想癖が顔を出してきてならない。
一体今日は、私の中の私は、光る大きな塊の中から何を引っ張り出してくるだろうか。成る程、単純なまでに陸上部時代の記憶を蘇らせたな。
「何かあと一つのところで、いつもへたって、前のやつについていけなくなるんだ。」
「あと少しなんでしょう。それならもう意地の勝負よ。」
意地で克服できることも確かにあった。
それにしても今日の気持ちは意地でなんとかできる代物ではない。
全くもって目の前の問題に向き合えないのだ。悔しさと情けなさ。そんものを感じる日をいくつ過ごしただろうか。
まだ短い人生しか歩んでないが、これだけ刺激のない日々を送るのは初めてであり、そのせいか顔が若干やつれてきた。ややもすると、この缶コーヒーが私から生気を奪い取っているのではないか。私がコーヒーを飲み込むに随ってこの缶に私の生気が溜まっていっているのではないだろうか。
私はそれを、私の生気のたんまり入った缶を、躊躇なく捨てる。
そのまま歩き、振り返ることはない。こんなことを続けていたら、いつか抜け殻になる日が来るかもしれない。
しかし、こんな日常もあと少しすれば終わるのだ。
この一年をのちに思い返す時、それは光っているだろうか。

三人の少年が先の自販機の前にやって来た。
「俺、もうコーヒー飲めるんだぜ。」
一番背の高い少年が二人を見下ろして言う。
「苦くないの?」
「苦いさ。けど、それがいいんだよ。まだ君には早いかもね。」
「ふーん。それじゃあ、僕も飲んでみようかな。」
私はどれを買おうか迷った挙句、賢一に選んでもらうことにした。陽もそうした。
缶の蓋を開けると、忽ち独特の香りが私の顔を包んだ。とても良い匂いには感じられない。
恐る恐る飲み口に顔を近づけ、ちびちびと飲んでみる。味わったことのない新しい苦味と酸味の中に、飲み慣れたミルクの口当たりをかすかに感じた。
陽と私が苦闘しながらも飲んでいる中、賢一はまだ缶を開けていない。
「俺はこれを砂場に埋めて一瞬間後に飲むんだ。」
冬場の砂は冷え切っていて、うまい具合に冷蔵庫の役割を果たし、一瞬間後、彼は微糖と書かれた缶のコーヒーを嬉しそうに飲んでいた…。

三人の少年はもうそこにはいない。私の散歩はまだ終わる気配がない。
マフラーを巻いてきてよかった。この時期の風の冷たさは嫌いではないが、風邪を引いてはいけない。眼鏡をかけていないから視界はぼやけるが、今私の見えている範囲にもマスクをしている人は多い。大半は風邪予防であろうが、ファッションの一種としてマスクを着用するという話も聞いたことがあるので、一概には言えないだろう。
ちなみにいうと、私はマスクが嫌いである。花粉症なので春先は止むを得ないけども、風邪予防のためにつけることはまずない。ましてやおしゃれの一環でするなど、考えたこともない。
好んで着用する人の気がわかりそうにない。
「お前黒色のマスクがあるの知ってるか。ネットにこないだ売ってるのを見たんだよ。そうしたらさ、その次の日実際に着けてる人がいたんだ。何ていうか、言っては悪いかもしれないけど、どうしようもなく不恰好だったな。見慣れてないせいもあるとは思うけど。」

小さな公園を見つけてブランコの横のベンチに腰掛けた。
暇な時間ができると、携帯に保存されている写真を見返すことが多くなった。
これまで、今が一番楽しい、という生活を送っていただけに、こんな私の状態に私が一番違和感を感じている。
ふと、携帯から目を離すと野良犬がいた。私は野良犬を初めて見た。首輪をつけていないかどうか、確認したところ、ない。珍しいものだな。誰かが首輪を外して捨てたのかもしれない。
そう考えると、怒りがふつふつと湧いてきて、そして同時に彼女を思いだした。
「将来は犬に囲まれて生活したい。何匹も飼いたいの。犬が好きでしょうがないの。」
「そんなに好きだったんだ、犬。うちも犬飼ってるんだよ、ボーダーコリー、ほら。」
「わあ、可愛い。でも一番可愛いのはうちのトイプードルだから。」
「リッキー、戻っておいで。」
声に気づいた犬は急いで老人のもとに駆け寄る。どうやら首輪を外して公園で遊ばせていたらしい。少し危険な気もするけど、あの犬と老人には余程の信頼関係があるのだろう。
信頼関係。
私が一方的に大事に思っているだけかもしれない、と一度考えると不安になる。その不安を解消するのは難しい。
私の横に一人の男性が座った。
「俺は大学で何をするんだろう。」
「建築に興味あったんじゃないのか。」
「受験勉強してるうちに、志向が変わったんだよ。というか、シンプルに何をしていいかわからなくなったんだ。」
「贅沢な悩みだと思うが、気持ちはわかる。そして、そういう悩みはいいものだとも思う。大半の大学生は、本気で先を心配したりせず、青春を謳歌するけど、そんな中、将来を定めようとするのは大事なことだ。それにお前は才能がある。どんな才能かはわからないけど、お前ならなんでもできそうな気がする。」
「お前も才能があると思うぞ。俺はそう思ってた、ずっと。」
男は彼女と待ち合わせしていたらしく、しばらくして女性がやってくると公園を出て行った。

私もそろそろ戻らなくては。重い腰を上げて、公園を出ようとすると、一人の少年が駆け寄ってきた。
「あのう、財布落としましたよ。」
いけない。もっと用心しなければ。財布を落とすなんて、どこまで私は放心していたんだ。
「ありがとう。」
「どういたしまして。それよりコーヒーって全然美味しくないんだね。」
「そんなことないさ。君もあと数年後には好きになっているよ。」
「そうは思わないけどな。」
「自分でも気づかぬうちに様々なことが変わっていくんだ。時には変わったことにすら気づかない。でもそれでいいんだと思う。ふとした時に思い出して懐かしむくらいがちょうどいいんだ。」
「なんだか僕には良くわからないや。」
そう言って少年は公園に向かってゆっくり歩き出した。しかし、思い出したかのように振り返り、
「財布拾ってあげたから120円頂戴よ。」
「120円?」
「うん、缶コーヒーを買って砂場に埋めるんだ。大人になった僕が掘り返して、それを飲むんだ。」
「なんだよそれ。まぁいいか、ほら。」
私から少年に歩み寄って120円を渡す。受け取った少年は公園の砂場で待つ2人のもとへ駆け出す。
私はあの日埋めた缶コーヒーを掘り返しに、あの公園へと足を向けた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン