1. トップページ
  2. 自殻自壊のマズルカ

クナリさん

小説が出版されることになりました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より、平成28年5月20日発売です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211

性別
将来の夢 絵本作家
座右の銘 明日の自分がきっとがんばる。

投稿済みの作品

11

自殻自壊のマズルカ

14/01/30 コンテスト(テーマ):第五十回 【 三角関係 】 ターザン山本賞 コメント:18件 クナリ 閲覧数:2200

この作品を評価する

刀子が、変な名前だと小学校でからかわれているのを、僕と克己がかばったのがきっかけで、僕らの交友は始まった。
いつも三人で遊び、三人で学んだ。
中学の時に刀子が担任の木島先生に恋煩いをしているという吐露を受けて、男二人は自分達の気持ちに気付き、やがて彼女の初恋があっさりと冷めたと聞いて、共に安堵した。

僕らは同じ高校に進学した。
僕には何人か女友達も出来て、その内の一人には突然キスされたりもした。奔放な子で、交際と肉体関係を殆ど同時にほのめかして来たので、それなりに欲望は湧いた。
しかし、刀子が僕にとって一等特別な存在なのは変わらなかったので、その子との関係は未遂に終わった。惜しいことをしたが、好意を抱いていない相手との性交渉など、出来の悪い排泄と変わらないと思った。
刀子の制服のスカートやブラウスの袖が揺れる度に目が言ってしまい、一日に何度も彼女の小柄な体を抱きしめたい衝動に駆られた。

合唱部に入った刀子は、天文部の僕と二人で帰ることが多くなっていたけれど、男としての魅力は、僕は克己に及ばなかった。
バスケット部で鍛えられた克己の体はよく締まっており、性格は勇敢で、他人の為に傷つくことを恐れない。バレンタインの成果は目を見張るものがあったが、克己は特定の恋人は作らないでいた。
男として成長していく克己を見る刀子の瞳が、日々熱を帯びて行くのを、僕は横で見ていた。時折耳障りな音がすると思ったら、大抵自分の歯軋りだった。
勝算がないからと怖気づいて、二度と来ない彼女との今この時間を無駄に過ごすのは、もう限界だった。
抜け駆けのような真似をする気はなかった。何なら、刀子よりも先に克己に決意を打ち明けようか。
そうして僕が告白を決めた翌日、朝一番で一大ゴシップが学校中を駆け巡った。猿のような同級生が、克己が古典の冬森先生と昨夜ホテルから出て来るのを見たと、ご丁寧に携帯で撮った画像と共に騒いでいた。

早退した克己に、僕と刀子はその夜に直接会って、昔よく遊んだ近所の公園で事情を聞いた。
「どうして先生と?」
初夏の湿った空気の中、刀子の声が震えていた。
「去年、授業に全然生徒が集中しないせいで悩んで、校舎裏で泣いてる先生を見たんだ。それから、放っておけなくなった」
僕もショックを受けていた。僕らは今も二人とも刀子に惚れていると思っていて、それは苦しかったけど、その三角関係が三人の絆のように感じていた。僕が刀子へ告白することでそれが失われてしまうことを覚悟はしたが、とうの昔に克己が僕らとは違う世界を、内緒で――そう、内緒で持っていたというのは衝撃だった。
「刀子。俺は、ずっとお前が好きだった。それに、三人でずっといたかった。でも、もうだめだ。俺とお前らは、特別な三人じゃなくて、ただの友達になろう」
そう言い終えると、克己は公園を出て行った。

刀子と二人で、夜の短い帰路を歩いていると、彼女が呟いた。
「克己、私達が怖かったのかな」
「怖い?」
「前、私と克己が付き合ったらどんな感じかなって、訊いたことあるの。あいつ、あなたが独りになるな、って暗い顔して言ってたよ」
思わず、足が止まった。刀子は泣いていた。
「私も怖い。ごめんね、必死で気付いてない振りしてた。絶対に変えてしまいたくないものが、私にもあるよ。木島先生の時だって、二人がいなかったら、私……」
刀子がこんな泣き方をするのは珍しい。未知のことに、僕に打てる手はなかった。
今まで、僕らはいつも三人だった。
三人でなくなった僕らは、ただの、一人の寄せ集めに過ぎなかった。

その夜、もう何も喋らずに、僕の部屋で、僕と刀子は寝た。
僕にすれば至上の幸福のはずなのに、それはまるでぬるま湯の中に取り残された、負け犬同士の交尾だった。
刀子は、初めてではなかった。
それは、彼女の初恋が急に冷めたこととどうやら関係があった。
そして、克己が急に別の女に入れ込んだことともどうやら関係があった。
二人が付き会ったらどうなるかなんて話、刀子達がどんな時間にどんな場所でしたのかも、肌に触れていると段々に推量出来た。
僕はいくら必死に律動しても、刀子の胸の奥まで到達することは出来なかった。
空しくて、涙が出て来た。
それでもその夜、刀子の温もりに触れていなかったら、きっと僕はすっかりだめになっていた。
これから先、誰と寝ても、きっと僕はこの夜のことを思い出す。
そして、今日を越える夜には、きっと一生巡り会えない。
負け犬が相手を使って自慰するような、こんな夜なのに、だ。

深夜、ベッドの中で、二人で窓の外を見た。
「天文部なら、あの辺の星が全部分かるの」
分かるつもりになれるだけだよ、と正直に言った。
少しおかしくて、二人で笑った。
そこには、三人という鎖じみた包帯の取れた、無色の僕らがいた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

14/01/30 クナリ

自分の作品は、なぜか最後に天体を見上げることが多い……。

14/01/30 yoshiki

読ませていただきました。

いや、身につまされるような切ないお話でした。読者に様々な過去を述懐させる作用でもあるかのような物語の運びでした。この温度はクナリさん独自のものでうらやましく思います。良かったです(*^_^*)

14/01/30 平塚ライジングバード

クナリ様

拝読しました。
三角関係というテーマに真正面から立ち向かい、かつ
クナリさんの個性が光る良作でした。
静的な描写の積み重ねではありますが、言葉一つ一つが
非常に巧みで、読者の心を大きく動かす作品だったと
思います。
所々、関係性や過去に謎を残す描き方は、物語全体を
絶妙なバランスに仕上げており、長編の1シーンを
切り取ったようなストーリーではありますが、この物語は
この話のみで完結していると感じさせる説得力がありました。
(読者がいかようにでも想像できる「余地」の残し方が
絶妙でした。)

この筆力、正直羨ましいです。
素晴らしい作品をありがとうございました。

14/01/31 草愛やし美

クナリさん、拝読しました。

女はわからず、男もわからず、人は自分の真意を隠すものですから。こういう関係だとそれが助長される。でも、もっと大人というか、ずるくなっていれば、また違った結果だったかもしれません。この年代、純であった彼らだからこそ、なってしまったように思いました。
複雑なものですね、人って……、うまくいかないのが人生の常だと諦めてしまうことが大人になるということなのかもしれません。そんなこと読み終わって深い溜息と共に考えました。

14/01/31 泡沫恋歌

クナリさま、拝読しました。

こういう甘酸っぱい青春の匂いが無くなった、固形燃料みたいな
おばさんが読んでもジーンときました。

こういう男女の心理の描き方が上手いね!

「青春の吟遊詩人」という称号をクナリさんに捧げたい。

14/02/01 朔良

クナリさん、こんばんは。
拝読いたしました。

青春って苦いものだよなーと、なんだか懐かしく思い出しました。
三角関係というお題で、三角関係が壊れる瞬間を切り取って魅せてくれるのがクナリさんらしいですね。
素晴らしい作品ありがとうございました^^

14/02/01 クナリ


yoshikiさん>
当時はハンマーで頭をぶっとばされたような衝撃も、後から思い返せばどうということがなく、当時は時間がたてば忘れるさ、と思ったことが今でも心に引っ掛かり…などということがよくあります。読んで下さった方々が過去を想起するきっかけになんてなれたら嬉しいですね。
この主人公は淡々としながら情緒不安定気味に思えますが、こやつがその温度を作っているのでせうか。
お読みいただき、ありがとうございました!

平塚ライジングバードさん>
お疲れ様です。ご無事でしょうかー。
三角関係というテーマを見た瞬間、絶対に高校生の男女を主人公にしようと思いました。
まさに、自分なりに真正面から向き合う為です。そうしたらなんだか変な登場人物になりましたが、これがクナリの宿命なのでしょウ!(胸張)
掌編は、掌編として完結させることを毎回目標にしています。が、登場人物それぞれには過去や未来や生きる場所がありますので、人物中心の話を書く際は彼らの人生の前後を入れられる時は入れようとしていますであります。
というより、彼らの過去の積み重ねこそが掌編として切り取られた舞台の面白さを生む、という手法を好んでいるからかもしれません。
限られた文字数で、彼らの人生の前後への広がりを伝えられたらいいなあと思うのですが。
羨望はむしろこちらこそ毎回抱いているのですが!
ありがとうございました!

猫春雨さん>
ありがとうございます。
気が付いたら、永遠になんとなく続くと思っていた関係が思わぬ形に変質しているというのはありますよね。
頑張らないと、価値がある時間はどんどん昔の方へ流れていって、今の自分には手の中に何もないがな! ってなりかねないですよもう。
もう戻れないと分かっているからこそ美しいというのは分かるんですが、あああの時間よもう一度だけ訪れて下さい! って思う頻度が増えている気がします。
精神年齢は中学生で止まったままだというのに…。


草藍さん>
勝手に信じて、勝手に裏切られ(た気になっ)て、そんなことで騒いでどうすんのもう、と言いたくなる時間のなんと楽しいことか!(そうか…?)
いえ、その時はたまったものではないのですが後から考えると。ええ。
大切な物の優先順位も、その守り方もめちゃくちゃで、純粋というのはむしろ混乱の別の名前じゃないかと思います。
大人になるというのは、諦め方が上手になるということでもあると思います。
「なんでそんなことするの?」という問いに答えられないようなことは最初からしない、ということでもあるような気がします。
おうおうにして若人は間違いを犯しますが、その時の自分が相対した“複雑さ”と対決するための決意と共にそうしたのであれば、いずれいい思い出になる…のかな。
三人というのは便利なんですけどね。二人の時には考えられないような絡まり方をするのですよね。

泡沫恋歌さん>
固形燃料ということは、半永久的に点火待ちスタンバイOKということですね!(おい)
せ、青春の吟遊詩人でありますか。
なんかこう、さわやかさとは壊滅的に無縁なこの自分めに、意外過ぎる称号でございますッ。
あれなんですよね 、野原をさわやかーに吹きゆく風の足元、小さな小石の陰でわだかまっているチリに目が行くたちなんですよね。
だいたい、嫌な目に会ってる人に注目してしまうと言いますか。
「弱者の視点を持っている」などというものではなく、ただの愚者なのですが。
そういう意味では、どろりとしたものを醸し出しやすい『三角関係』というのは自分向きのお題だったのかもー。
嬉しいお言葉、ありがとうございました!


朔良さん>
青春は常に苦いですねえ。
最中にいるときも、通り過ぎた後も。
三角関係ってほかしておいて何がよくなることもないわけですが、でもその三人の関係性しだいでは「もう少しこのままでもいいかなー」と思えるときがあるかと思います。
自分たちの意志でそれを壊したとき、自分の価値観も正しさも、新しいものが見えるのかもしれません。
などと知ったようなことを言ってもみるッ。たまにはッ。
コメント、ありがとうございました!

14/02/06 クナリ

OHIMEさん>
ダウト。<非モテ
三角関係は難しいですよね。三角になる以上、三人がお互いに三角関係であることを知らなければならないわけで(そんなことはないのだろーか)、特殊な人間関係での三角関係(一人の少女を取り合う父と子とか…それは『ラーメン』でやったのですが)よりはごく普通の高校生くらいの話のほうが難しそうで面白いかなとかよくわからなくなりながら書きました。
ばかさではクナリの右に出る方はおられませぬゆえ。
いまだに自分の乗ってる車の排気量もよくわかっておりませぬゆえ(←問題)。
苦しくても、真剣に悩んだんだったら失うことばかりじゃないんだよ、という感じになっていればいいのですが。
三角関係というドラマチックさ満点のお題なのに地味かなあと思っていたので、そういっていただけて大変うれしいです。ありがとうございます。

メイ王星さん>
すぱっと小気味いい終わり方ではなく、もやもやーと何かが残る感じになっておりますのですが、それなりに前向きなものも手に入れての終幕ですので、ほっこり要素はその辺であったなら大変うれしいであります。
登場人物の人間関係は三人称ですべて語れば説明できるのですが、主人公の一人称の不安定で不透明な感じで、彼のわかる範囲のことのみ著しましたので、想像していただけるのは非常にありがたいです。
この話を奥深くしてくださったのは、ほかでもない、読んでくださった方の想像力です。
こちらこそありがとうございました!

14/02/08 そらの珊瑚

クナリさん、拝読しました。

マズルカって三拍子でしたでしょうか?
タイトルがそれを意識したものなのかなあと想像すれば、
内容もそうですがタイトルをつけるセンス、お見事としかいいようがありません。
切ないですね。
刀子(とうこでしょうか? さすがに、かたなこ、ではないですよね?)
とめぐる男の子ふたりの三角関係、それは最後の一文が表わすように
包帯的なものだったのかも、としみじみ思いました。
まだ自我というものが定まっていないような10代に、自らそれを壊さなくては前に進めないという恋愛を経て、大人になっていくんだなあと。
素敵な物語をありがとうございます!

14/02/09 クナリ

そらの珊瑚さん>
名前をつけるセンスというものにまったく縁というものがありませんので、そういっていただけるとうれしいです。
マズルカは4分の3拍子だそうですが、音楽の知識ないのであんましよくわかりません(まあ、こんなもんですクナリなんぞ(^^;))。
刀子はトウコのつもりでしたが、言われてみてカタナコの方が変でいいかなあ…なんぞと思いました。
読み方についてはこういうことがあるので、現代日本が舞台の話は悩ましいですね。
包帯巻いてひとまず現状維持のつもり、癒して守ってるつもり、でも傷は膿んじゃうんっすよ、みたいな感じですかね(ヤだな)。
自分現状維持が大好きなので(超ビビリ)、作品内で現状打破する人たちを見ているとああがんばってるなと思います。
こちらこそ、コメントありがとうございます!

14/02/10 かめかめ

だれも幸せになれない三角関係……。
テーマ「絶望」でもいける作品でしたね。奥が深い

14/02/10 クナリ

かめかめさん>
まあおそらくこれから幸せになるんじゃないかとおそらくたぶんそうだといいな…(おい)。
自分の書く話は暗いものばかりなので、テーマをずばり「絶望」と定められたほうが書きにくかったりします(^^;)。
奥が深いとはうれしいお言葉です、ありがとうございます!

14/02/20 gokui

 読ませていただきました。
 うまいですね。手を抜くことなく一文一文仕上げている。そんな感じです。最後の『鎖じみた包帯の取れた、無色の僕らがいた』なんてのは唸ってしまいました。

14/02/22 クナリ

gokuiさん>
ありがとうございます!
字数制限の中で、最も効果的に書き表すにはどうしたらいいかな…などと考えながらあーでもないこーでもないと文章をいじくりまわしているおかげで、少なくとも手抜き感みたいなのは回避できているということでせうかッ。よしよし。
毎回、最初と最後の一文は一番時間をかけて考えている部分なので、言及していただけてうれしいです!



14/02/23 クナリ

流しのコメンターさん>
ファンタジなども書いている中、貴重な、現代が舞台の「普通の高校生」たちでしたが、現実感を出せていたでしょうか?
後ろ向きな状況の表現になると、自分はけっこう滑らかに出てくるようです。
逆に、前向きな精神状態というのは難しくて、ですね…。特異かもしれませんが、才能なんぞと呼べるほどありがたいものではないですきっとッ。
三角関係って、「ああ、そういう三角関係というのもアリかー」的な発想勝負になったとき、自分にはいいひらめきが成される気がしなかったので、フツーの高校生を主人公にしたっていうのもあるんですよね。
コメント、ありがとうございました!

ログイン