1. トップページ
  2. メリーゴーランド

黒糖ロールさん

よろしくお願いします。 お読みいただいた方にはいつも感謝しております。

性別 男性
将来の夢
座右の銘 ケセラセラ。

投稿済みの作品

6

メリーゴーランド

14/01/30 コンテスト(テーマ):第二回OC【 馬 】  コメント:7件 黒糖ロール 閲覧数:1697

この作品を評価する

 あてもなく車を走らせているうちに夕暮れを迎え、気がつけば遊園地に着いていた。車を降り、ワインレッドに薄墨を溶かしたような色の空をミチルとともに、呆けたように見つめた。
 遊び疲れ、帰宅する人々を駐車場で見送った。楽しかったね、また来ようね、といった会話が、ざわざわと空耳の蝶になって、まわりを飛び回っている。
 駐車場を取り囲む外灯たちがいっせいに点灯した頃になって、ミチルが口を開いた。
「行こうよ」
「行こうか」
 僕はミチルの細い手をにぎった。ふわふわするね、とミチルがないしょ話をするようにささやく。僕は大股で歩いた。地面を踏みしめているはずなのに、足の下に毛布が敷いているのかと思うほど柔い感覚がするからだった。はやいよ、とミチルが困ったような声で呟いた。
 歩調をゆるめながら、少し寒いなと言って、ミチルの肩を抱いて体を引き寄せた。
 ミチルが薄く、薄く笑うのがわかった。彼女の薄い笑いは、心の隙間にちょうど入ってきて、僕の心にうっすらと切り傷を残していく。思えばこうやって、切り傷をつけあって生きてきたのかもしれない。今も、僕の薄く優しい言葉や態度が、ミチルを小さく切っているのかもしれなかった。
 まだ遊園地は営業しているらしい。大人二枚、と窓口で声をかけた。なぜかお金は取られずに、チケットが二枚差し出された。
 中に入ると、僕たち以外、遊園地には誰もいないようだった。
「みて。あれに乗ろう」
 ミチルが指差すほうに視線を合わせると、巨大な観覧車がひどくのっぺりと動いていた。
「なあミチル。僕たち、どうしてこんなところにいるんだっけ」
「どうしてだっけ」
 ミチルはきょとんとしている。まあいいではないですか、と手をとられ、あれよあれよとしているうちに、乗り物の前に立っていた。
 国内最大級という謳い文句が書かれた看板が立っている。いつの間にか係員が側にいて、説明をしはじめる。
「ようこそメリーゴーランドへ」
 第一声に納得しそうになった自分を戒める。
 見上げるほどに高い。最高地点は、はるか上空である。
 隣のミチルの表情を窺うと、なぜか彼女の目は輝いていた。文字通り乗り気な様子である。
「ちょっと待ってください。何がメリーゴーランドですか。縦に回しちゃったら危険でしょ。落ちたらどうするの」
 これでは、ただの危険な観覧車だ。
「もしかしてお客様、回転木馬という別名をご存じない?」
 存じ上げておりますとも。方向性、いや方向の問題について、僕は議論したいのです。
「乗ろうよ、せっかくだし」
 僕の疑問や訴えは、ミチルの一声によってあっけなく流された。
 ささこちらへと係員に誘われ、ミチルが馬にまたがってしまい、気がつけば僕も馬に乗っていた。がたごとと次第に高度が上がって、眼下の景色が変わっていく。僕はたまらず馬の首に腕を巻きつけて、目をつむった。
 しばらくすると無風なのに、馬から体が引き離されそうになってきた。あらんかぎり股に力を入れ、馬にへばりつく。さらに強く目をつむった。
「すごいすごい」
 ミチルのはしゃぐ声がやけに近い。ずいぶん楽しそうである。
「そうでしょう。メリーゴーランドのメリーは、メリークリスマスのメリーと同じで、楽しいという意味が込められているのですよ」
 後ろから係員の声がする。猛烈に腹が立ってきた。係員なのに一緒に乗っていることがおかしいし、何より当てつけとしか思えない豆知識が癪にさわる。
「下に見えますのが地球でございます」
 係員が妙なことを言ったところで、肩を叩かれた。驚いて目を開けると、隣でミチルが浮いていて、下には大きな地球があった。
 やっぱり地球って青かったんだね、ガガーリン。
 もう何が何やらわからない。
「私、このままどこかにいこうかな」
 ミチルの言葉に僕は我に返った。
「馬鹿。戻るんだよ」
 怒鳴りつけた。あわてて馬にまたがり直す。僕は馬にしがみつく格好のままミチルの手をつかむと、強く引っぱった。
 なぜこんなに僕は必死なのだろう。わからないまま手に力を込める。
 ミチルは薄く薄く笑うと、ゆっくり僕の後ろに周りこみ同じ馬に乗った。僕の腰に腕を回して、ミチルが呟くのがわかった。
「帰ろっか」
 僕は黙ったまま、鼈甲のような光沢を放つ馬の表面を撫でた。
 これでよかったんだ。やっぱり、戻るべきだったんだ。
 急に意識が遠のいていく。
「このままお戻りになるということでよろしいですね」
 曖昧に聞こえる係員の声に、ゆめうつつのまま首を縦に振った。
 ……まったく人騒がせな。いまだに二人で死のうなんてカップルがいたとはね。挙句に死にきれてないし……。
 何やら係員が言っているが、眠くてよくわからない。
 体を包みこむ茫々と広がる宇宙の闇が、ただただ心地よかった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

14/01/30 白虎

拝読しました。
縦回転のメリーゴーランドという発想が面白かったです。
ただ、メリーゴーランドの描写がもう少しあればイメージしやすかったかと思いました。
辛口評価で申し訳ありません。

14/01/30 そらの珊瑚

黒糖ロールさん、拝読しました。投稿、ありがとうございました。

何かワケアリだと思っていたら、そういうことでしたか。オドロキです。
日本では子どもの乗り物という優しいイメージのメリーゴーランドが
シュールに描かれていて、とても面白かったです!
そうすると冒頭の客らはどこへ帰っていったんでしょうか?(ふとした疑問です)
薄笑いが心に擦り傷を作るといったくだりの描写が巧いなあと感心しました。

14/01/30 石蕗亮

拝読しました。
死後、というか幽体離脱した先が宇宙というのが新鮮で面白かったです。
帰りもメリーゴーランドの馬に乗って帰れるということは、この馬はお盆に祖霊が乗ってくる茄子や胡瓜の牛や馬と同じ意味をもっているのでしょうね。
霊と馬の繋がりが面白く描かれていると思いました。

14/01/31 黒糖ロール

白虎さん

お読みいただき感謝いたします。
たしかに通常のメリーゴーランドでない分、描写したほうがよかったのかもしれません。
貴重なご意見ありがとうございました。
今後の参考にさせていただきます。


そらの珊瑚さん

少しでも楽しんでいただけたようでよかったです。
描写については、一文ぐらいは、
自分なりに気に入ったものを入れたいなと考えてまして、
その一文に目をとめていただけたようで嬉しいです。


石蕗亮

私の作品をお読みいただき感謝いたします。
メルヘンチックなものを書きたかったので地球になったのだと思います。
申し訳ありませんが、基本的に深く考えて書いておりません(笑)

14/01/31 黒糖ロール

コピペしてしまい、
石蕗亮さんの「さん」が抜けてしまいました。
石蕗亮さん、申し訳ありません!


コメント訂正できたらいいんですけど、
できなさそうですね(汗)

14/02/02 石蕗亮

黒糖ロールさん
敬称略気にしないですよ。
下手すると私は年齢的に皆さんよりも下の可能性高いので…。
それに私の名前、普通に変換で出てくれないので(苦笑)
訂正コメント見るまで気付いていませんでしたよ。
気にせずこれからもよろしくお願いしますね。

14/02/03 黒糖ロール

石蕗亮さん

そういっていただけると心が軽くなります。
そうなんです。どうしたら出てくるのかわからなくてコピペをしてしまったのです。
以後気をつけますので、よろしくお願い致します。

ログイン