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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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火星の上で激情にもえる

14/01/27 コンテスト(テーマ):第五十回 【 三角関係 】 ターザン山本賞 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1726

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 はじめてモモミをみたとき、チェロはいやな予感がした。
 なにより彼女は、自分より美人だった。チェロはしかし、すぐにそれをもみけした。片道切符の火星の上で、死ぬまでともに暮らす仲間にたいして、そんな悪しき感情は抱くものではない。
 そのときモモミは、こちらをみて、にこりと笑った。
「よろしくね」
 同性に対してもこんなに魅力があるなら、男性にはいかほどのものか………チェロはしかし、もうそれ以上考えないことにした。
 そして三年後、チェロは他の八人の男女とともに、火星上に設置したユニット住居のひとつを住まいにして、すでに数か月の生活をすごしていた。
 最初はこの暮らしになれることに懸命だった。それはほかのみんなも同様だったにちがいない。二か月がすぎ三か月がすぎるじぶんになって、ようやくチェロは、横一列に並ぶユニットの居住者に、関心をむけるだけの余裕をもつようになった。住居以外にひとつ、娯楽設備のあるユニットが用意されていて、狭いながらスポーツ施設もあって、卓球やスカッシュもできて、テニスが得意なチェロはよく、ボールを壁にあてるこのゲームに汗をながすことがあった。
「うわあ」
 地球の半分以下の重力になれないクリヤキンは、ボールをうった拍子にバランスを大きくくずしてしまった。。
「ちょっと休憩しましょうか」
 チェロは、窓際の椅子に、彼とならんですわった。ちょっと見には、地球の風景とかわらない景観が窓の向こうにひろがっている。だがここは、地球から遠く七千八百万キロ離れた位置にあるのだ。
 こんな男性がグループにいただなんて………。うっとりとしたまなざしでチェロはクリヤキンをながめた。
 とそのとき、このユニットに移動用ポットが接続し、まもなくモモミが室内にはいってきた。彼女の、目にもまばゆい桃色のビキニ姿を一目みるなり、チェロの中にあのときの予感がよみがえった。
「まあ、お邪魔だったんじゃないかしら」
 白々しくそういいながら、壁にたてかけたラケットをモモミは、ことさら腰をひねってとりあげるのをみたチェロは、あきらかに彼女が彼の視線を意識しているのを感じた。
「それじゃ、わたし、これで………」
 ひきとめてもらうつもりでいったのに、彼がモモミの相手をするためにたちあがるのをみたチェロは、フンと顔をそむけて控室にでた。
 ――自分のユニットにもどったチェロは、ベッドにつっぷし、かためた拳をくやしそうにたたきつけた。火星で住むと決意したときに、男女の感情は斬り捨てたつもりでいた。
 火星移住のための費用は、土地付きの家を売却してつくった。もともと一人暮らしの身、火星で一生を終えるのに、ためらう理由は彼女にはなかった。だが、この乾燥した火星の上で、なんでふたたび、じめじめした恋の感情に身を焼かれなければならないのか。
 それにしてもあのモモミの挑発的なスタイルはなんだ。自分一人で、ここにいる男性すべての気をひきつけようとでもいうのだろうか。
 チェロは、鏡をまえに、久しいあいだやめていた、化粧をはじめた。それも、どぎついまでに濃厚な化粧を。着るものも、できるかぎり肌を露出するものを選んだ。クリヤキンの目を、モモミからこちらにひきつけるためなら、全裸さえ辞さないつもりだった。
「チェロさん、みごとなイメージチェンジですね」
 リーダー格のハーン教授が、目をみはった。チェロがふたたび娯楽ユニットに出むいたとき、二人は控室でばったり顔をあわせたのだった。
 チェロは、小手調べとばかり、露出過剰気味の胸を、彼にむかってつきだした。
「いちどゆっくり、お茶でものみません?」
「いつでも、お誘いにのりますよ」
 予想通りの相手の反応に気をよくしたチェロは、室内でまだなかよくスカッシュをつづけているモモミとクリヤキンを、扉の窓ごしにみやって、
「………ずいぶん仲のいいこと」
 そういう彼女の横顔を、ちらと教授はみやった。居住者たちの生態の研究こそ、彼がここで選んだライフワークだった。チェロは嫉妬にとらわれている。どこにいっても、男と女がいるかぎり、その感情からまぬがれることは不可能のようだった。
「わたし、もっとクリヤキンと、プレイをしたい!」
 もはや、自分の気持ちがおさえきれなくなったかのように、チェロは扉をあけて、スカッシュ中のふたりのあいだに、とびこんでいった。激情のあまりにその顔は、いまにも相手を殺さんばかりにいろめきたっていた。
「チェロが、50若かったら、わしも急いでとめにはいっただろうが………」
 火星移住者たちの平均年齢は85歳で、なかでもチェロとモモミは最高齢の九十で、いくら火星上では身軽になるとはいえ、命のやりとりをするにはさすがに歳をとりすぎていたので、教授は安心してその後の成り行きを、扉のこちら側からみまもることにした。 


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このストーリーに関するコメント

14/01/28 朔良

W・アーム・スープレックスさん、こんばんは。
拝読いたしました。

W・アーム・スープレックスさんの作品の、最後にくすりと笑わせていただける感じ、大好きです。
最後まで読んで、光景を想像しなおしながら読み返すと余計笑えてしまいます。
うんうん、いくつになってもやっぱり恋愛感情はありますよねぇ。
面白かったです!

14/01/28 W・アーム・スープレックス

朔良さん、こんばんは。コメントありがとうございます。

ラストにくすりと笑っていただいて、なによりです。ほとんどそれだけがいのちのようなわたしの作品ですから。本当に、いくつになっても恋愛感情は持ち続けたいものです。私などは飽きずに失恋を繰り返しましたが案外、長続きのそれが秘訣かもしれませんね。

14/01/30 クナリ

どういう風に終わるんだろう…と思いながらラストへ到達しましたが、完全にしてやられました…。
心地よく翻弄していただきました、面白かったです!

14/01/30 W・アーム・スープレックス

クナリさん、コメントありがとうございます。

こういういかさまのようなトリックがしかけられるのは、考えてみると小説ぐらいなものでしょうか。もっと皆様を翻弄できるよう、これからも精進したいと思います。

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