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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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いやな奴

14/01/27 コンテスト(テーマ):第五十回 【 三角関係 】 ターザン山本賞 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1737

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 ようやく二人は地獄峠の麓にたどりついた。
 一人は武家姿の青年、もう一人は、これはあきらかに町家の娘―――両人とも、ここまでの厳しい道のりを物語るかのようにめっきり窶れていた。
 三月前、とある茶屋でしりあった二人は、たちまち互いに心ひかれて、夫婦になることを誓い合うも、おきまりの身分の違いから両方の親たちに猛反発をくらって、やむをえず恋の逃避行にはしってここまできたのだった。
「しの、この峠をこえればそこはもう、他郷の地だ。我々をみしったものなど誰もいない。そこで二人、夫婦として、新たな暮らしをはじめることができる」
「雷之進さま、しのは嬉しゅうご、ございます」
 彼にあわせて、懸命に武家言葉を使うおうとするものの、つい舌をかんでしまった。
 彼女の胸は、いまでも騒いでいた。
 というのも朝方、宿をでて山裾の道にふみいった矢先、雲助らしいみるからに人相の悪い連中に取り囲まれた。雷之進が藪の中にかれらをつれていき、しばらくして一人で戻ってきたときは、彼が雲助たちを撃退したものとばかり思っていた。だが彼女が、歩きはじめてふりかえると、その雲助たちが笑いながらたちさっていくのがみえた。撃退したわりには陽気にすぎた。似たようなことが、これまでにも何度かあったことを彼女はおぼえていた。
「地獄峠とは、また凄い名前がついていますね」
「ふだんはだれもここを通らないらしい」
 二人をつれもどしに、両親たちがさしむけた追手をまくためにも、この難所を彼は選んだのだ。
「しのは怖うございます」
「拙者がついている」
 途中、小川のそばで握り飯をたべた時、しのがまた、
「………なんだか、不安だわ」
「二人でいれば、なにを恐れることがある」
 そういう彼こそが心配の種だということに、このときはまだ彼女自身気がついていなかった。
「あ、どこからか物音が………」
 なにやら重たげな音が、落ち葉を踏みしだきながら、しだいにこちらに近づいてくる。おそろしく巨大な人影が、かきわけた茂みからぬっと出現したのはそれからまもなくのことだった。
「あやしい奴―――」雷之進は刀に手をかけることなく、「金が目的なら、ほしいだけくれてやる」
 しかし相手は、なにもいうことなく、こちらをじっとながめている。
「むむ、人じゃない」
 雷之進の目に、全身剛毛に覆われた物の怪の姿がとびこんできた。身の丈三メートル以上、その体はまさに金剛力士さながら隆々と筋肉が盛り上がっている。
「まあ」
 しのの目が物の怪の下半身にむけられたとき、その頬がぽっと赤く染まったのは、紅葉した頭上の繁みの、照り返しのせいだったのだろうか。
 幸いにも、このキングコングもどきは、二人をどうこうしようというつもりはなさそうだった。ただ、やはり映画のキングコング同様、しのに対してひとかたならない興味を抱いた模様で、彼女の香りをあまさず吸い込まんものと、鼻の穴をいっぱいにひろげるのをみた雷之進は、不快そうに顔をしかめた。
 雷之進がしのの手をひっぱって、ふたたび峠を登りだしてからも、そいつは後をついてきた。それからは二人がどこに行こうとも必ず、ふりむくとそいつは後ろに立っていた。かれが男であり、またその関心がひとりしのにあるのはわかっていただけに、雷之進は心中穏やかでない。
 その雷之進が、岩場をぬけて、いまにも切れそうな危なっかしいつり橋の手前にきたとき、
「しめた。我々にここは渡れても、あいつにはとてもむりだ。しの、急いでここをとおりすぎよう」
 はやる彼が、しのの手を握ろうとするのを、いきなり彼女はふり離した。
「どうした? 拙者がみちびくゆえ、なんでつり橋などが恐いものか」
「いいえ、そうじゃないの」きゅうにしのの声は、町人のそれにもどって、「私はもう、あなたとこれ以上いくの、やめます」
「ここまできて、なにをいうんだ」
「あなたは意気地なしだわ。そうでないというなら、あの方と、戦って」
「あの方………」
「そうよ、私に愛おしげなまなざしを投げかける、あの逞しいお方よ。あの方なら、どんな雲助がきても、お金などで頼まずに、追っ払ってくれることでしょう」
 まさか、まさかと雷之進は動揺もはげしく、自分から離れてゆく彼女にむかって、
「どこへいく」
 と、呼びかけたときには、すでにしのは、物の怪のすぐそばまで歩みよっていた。
 物の怪は、目の前の彼女を自分の肩に、ひょいと抱えあげた。そしてようやく刀をぬいてこちらにやってきた雷之進にむかって、一声吼えた。
 それでなくとも屁っ放り腰の雷之進が、たちまち腰をぬかして倒れた拍子に懐から、小判がざくざくこぼれでた。地獄の沙汰でさえ使い道があるというのに、どうしてここでは役にたたないのかと彼が、いまさら歯がみしたところでどうなるものでもなかった。

 


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このストーリーに関するコメント

14/01/27 朔良

W・アーム・スープレックスさん、こんにちは。
拝読いたしました。

すごい三角関係!! 武士と茶屋の娘さんの恋路に割り込んできたのが、まさかのキングコング! この時点で笑ってしまいました。
お金が無くなったら何の生活能力もなさそうな雷之進と言葉も通じない物の怪…どっちと一緒にいても結局しのさんは苦労しちゃいそうですが…。
彼女の選択が正しかったことを祈ります。

14/01/27 W・アーム・スープレックス

朔良さん、こんぱんは。コメントありがとうございます。

私はどうもラブストーリが苦手で、まして三角関係ともなると、物の怪にでも登場してもらわないとモノガタリにならないので今回、このような運びになりました。
しのの行く末を案じてくださって、感謝します。

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