1. トップページ
  2. 明日、世界が

朔良さん

のんびりまったり。 読むのは綺麗で残酷な話が好きです。 こちらで掌編・短編小説の勉強をさせていただいています。 遡って皆様の作品を読ませていただいてます。 古い作品に突然コメントすることがありますが、失礼があった時は申し訳ありません。 マイペースですが、頑張ります^^

性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

7

明日、世界が

14/01/25 コンテスト(テーマ):第四十九回 時空モノガタリ文学賞【 絶望 】 コメント:16件 朔良 閲覧数:1844

この作品を評価する

 明日、世界が滅びたらいいのに。
 全部全部、無くなってしまえばいい。

 帰りの電車の中、筋を引いて流れていく灯りを睨みつけるように顔を歪めて、私はそう願った。

 たかが失恋。されど失恋。
 メガンテでもバルスでもなんでも、唱えられるもんだったら唱えたい。明日なんか永遠に来なきゃいい。

 ブブブ・ブブブ
 バッグに突っ込んだ携帯が震えた。誰かのツイートかラインか、それとも…。いつもなら、誰かとつながってたくて、強迫観念に憑りつかれたようにすぐ反応せずにはいられないのに、今はそれも億劫で…ううん、他の誰かとはつながりたくなくて、シカトを決め込む。
 …馬鹿みたい。もうあいつにつながることなんかないのに。
 そう思った途端、鼻の奥がつんとした。瞼を閉じてこみあげてくるものを抑えこむ。
 いい年をして人前で泣いてたまるか。涙をこぼしたら負けだ。一度気持ちが崩れればきっと、今はまだ痛すぎて現実感のないさよならに容赦なく襲い掛かられて、みっともなく泣きじゃくってしまう。そんなの嫌だ。
 なけなしのプライドにしがみついてぐっと奥歯を噛みしめると、喉の奥から苦いものせり上がってきた。
 
 なんで? どうして? なにが? いつから?

 頭の中でくるくるまわる疑問符。
 まさかこの年で男に振られるのが初めてのはずもない。今までだって何度も大事なものを失ってきた。こんな時に自分と折り合いをつける方法はいくらでもある…あったはずだ。
 なのに。
 バッグを抱えた腕に知らず力が入る。
 なのに、なんで今回はこんなに痛いんだろう。
 どうやって諦めて、どうやって忘れてきたか、全然思い出せない。自分の心と向き合おうとすることすら痛い。

 どうして。どうして。どうして。

 車酔いの悪感に似たリフレイン。
 頭の中に響くのはそればかりで。

 …やっぱり、明日世界が滅んだらいい。
 あいつがいないならなんにもいらない。 
 全部なくなればいい。 

 がたん、と電車が揺れて私は現実に引き戻された。電子音と無駄に爽やかなアナウンスがいつもの駅に着いたと告げる。
 腹の底でどす黒く凝る思いを抱えたまま、私は条件反射のように定期を握ってホームに降りた。切るような冷たい風に身を縮め、人ごみに押されながら改札を抜けて駅から出る。
 白く零れる溜息と夜の街の喧騒。こんな田舎町でも駅周辺はそれなりに賑やかで、一杯きこしめしたサラリーマンや寒さなどどこ吹く風の身軽な若者達が繁華街に吸い込まれていく。響く嬌声と笑い声。陽気で楽しそうな見知らぬ誰か達の姿に苛立ち、後ろ姿を睨む。

 …明日、世界が。
 
 胸の中の黒い染み。

 私はネオンから目を逸らし、くるりと繁華街に背を向けて狭い1DKに向けて歩き出した。
 苦しいのは自分だけじゃない。悩みのない人間なんかいない。みんなそれぞれ痛みを抱えてるんだと頭ではわかっていても、世界を呪うことを止められないまま。

「…ああ、そっか」

 だから、か。

 目を伏せてぎゅっと唇をかみしめる。

 だから、駄目になったのかな。
 だから、間違ったのかな。
 好きだったのにな。…好きなのにな。

 なら、今、私が消えればいい。
 たかが失恋で世界の終わりを願う醜さごと全部。
 現実を受け入れられない弱さごと全部。
 消えてしまえばいい。 
 自滅する呪文ってあったっけ? 世界を道ずれとか、誰かの身代わりとか、仲間を救うためとか、そんな御大層なのじゃなくって、バカな自分だけを消してしまうシンプルで合理的な呪文。相応しい呪文は一向に思い浮かばない。

「はは…」掠れた笑い「なに考えてるんだろ、かっこわる」

 ちっぽけな私の、ありきたりでありふれた薄っぺらな絶望。
 陰で裏切られてたとか、ひどく傷つけられたとか、劇的な何かがあるわけじゃない。ただ単純に男に振られただけだ。お為ごかした優しい言葉で別れを告げられた、たったそれだけ。
 なのに、この世の終わりみたいに絶望して上手に落ち込むこともできないとか、情けないにもほどがある。
 足を引きずるようにして階段を上り、盛大なため息とともに鍵を開け暗い部屋に入る。靴を脱いで、バッグを玄関に放り投げ、最低最悪の気分でベッドに倒れ込む。着替えるのすら億劫で、私はもそもそと虫みたいに這って毛布の中にもぐりこんだ。

 見栄っ張りで、独りよがりで、弱虫で、馬鹿な私は、世界を破滅させる呪文も自分を消滅させる呪文も知らない。
 でも、泣き始めるための呪文ならわかる。知ってる。

「もう、いいよ」

 我慢しなくていい。小さな私のお城の小さな砦の中なら。
 毛布にくるまって、私は子どものように声を上げて泣いた。
 終わらない世界と夜が明ければ何食わぬ顔をして始まるだろう明日に、抗議するように。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

14/01/25 そらの珊瑚

朔良さん、拝読しました。

「明日、世界が」絶望の中で生まれた呪いの言葉はイタイ。でも、だからこそ、リアル。
でも失恋の悲しさをかつて知るものにとっては、たとえ黒い感情だとしてもわかる、わかると同情してしまいます。
どうそ思い切り呪ってください! そして思い切り泣いてください! そしたら明日はあっけないほど晴れてます、と声をかけてあげたくなりました。

一人称がすごく成功していると思いました。
この女の子が世界のどこかに存在していて、今まさにその切実な絶望にむかいあっていると思ってしまうほどでした。

14/01/25 朔良

そらの珊瑚さん、こんばんは。
読んでいただきありがとうございます。

ありきたりでありふれた絶望…ということで、失恋のお話にしてみました。
誰でも経験したことがあって、世界全体からは取るに足らないことなのだけど、本人にとっては、つらく苦しい物ですよね…。
一人称、褒めていただきありがとうございます。
「この女の子が世界のどこかに存在していて」というお言葉がすごくうれしいです。

いつもコメントいただき、ありがとうございます。励まされます。これからもがんばります^^

14/01/26 草愛やし美

朔良さん、拝読しました。

まずは、呪文という言葉に若さのある作者だと、凄く反応した私です。これは、私には思いつかない話だと感心しました。
誰もが一度はある失恋の絶望感が凄くわかる内容です。世界の終焉も、自己の消滅のどちらの呪文も知らなくて――魔法がつかえるならと切に思う心の痛さがひしひしと伝わってきました。

あんな男、こんなことくらい、言い乍ら未練ある自分が余計惨めで嫌悪してしまう。主人公の今を感じるとても迫力のある作品ですね、ありがとうございました。

14/01/26 yoshiki

読ませていただきました。

失恋の痛さがひしひしと伝わってくる、よどみなく流れるような文章でした。若き日を思い出しちゃいました。

傷ついた心をいやすものは時間だけかもしれません。
主人公の女の子が、また不死鳥のようによみがえる事を祈ります(*^_^*)

14/01/27 朔良


草藍さん、こんにちは。
読んでいただきありがとうございます。

失恋って誰にでもあることですが、本当に辛いしダメージ大きいですよね…。
しかも、他人にはとっては取るにたらないこと。そのぶん辛いような気がします。
心の中で言い訳ばかりつのるけど、やっぱり…すぐには割り切れないですよね。
みじめで情けなくてでも…という主人公の気持ちを感じ取っていただいてありがとうございます。

いつもコメントいただきありがとうございます。励みになります。

14/01/27 朔良


猫春雨さん、こんにちは。
読んでいただきありがとうございます。

猫春雨さんにも自分を消してしまいたいってことありましたか。
そういう思いは誰しも一度は抱くことがあるのかもしれませんね。
自分を消しさる→自分に関する記憶を消す…。なるほど! 確かにそうかもしれません!
認識してくれる他人がいないのって存在しないのと同じですよねぇ…。
さすが猫春雨さん、そこをつなげる発想はありませんでした。
リセットではなくオフスイッチの話、興味あります、ぜひ読んでみたい! 
誰か書いてくれないでしょうか(^m^)

コメント感謝しています! 素晴らしい発想もありがとうございました^^

14/01/27 朔良

yoshikiさん、こんにちは。
読んでいただきありがとうございます。

ありきたりな話ですが、yoshikiさんの記憶に触れるようなものがあって幸いです。
失恋は結局日にち薬ですよね〜。思いっきり泣いて気持ちを吐き出して、時間が癒してくれるのを待つしかないです。
優しいお言葉ありがとうございます。
きっとそのうち復活して、がしがし新しい恋に邁進してくれることでしょう^^

コメントいただきありがとうございます。励みになりました^^

14/01/27 泡沫恋歌

朔良さん、拝読しました。

失恋した女性の感情がリアルタイムに表現されていて、そう、そんな風に
思うよねと、妙に説得力がありました。

うんうん。
分かる、分かると彼女の背中に手をかけて慰めてあげたいと思うくらいの
リアりズムな表現でした。

上手いなあー、
この創作者はもっともっと伸びそうだという予感がしました!

14/01/28 朔良

泡沫恋歌さん、こんばんは。
読んでいただき、ありがとうございます。

特別ではない普通の絶望をリアルに書けたら…と思っていましたので、恋歌さんのお言葉嬉しいです。
失恋の苦しみは、誰もが経験してる分、痛みを共感していただきやすいのかも…。

素晴らしい書き手である恋歌さんからそのような褒め言葉をいただけるなんて、身に余る光栄です。
泡沫恋歌さんの作品にはいつも引き込まれてしまいます。これからもご活躍を楽しみにしていますね!
コメントいただきありがとうございました。

14/01/28 鮎風 遊

突然のコメントで申し訳ありません。

一人の女性の、鬱々とした心情が、
明日、世界が滅びたらいいのに、と思う気持ちが伝わってきました。

きっとこういうことなんだろうなあと、妙に納得しました。

14/01/28 朔良

鮎風 遊さん、こんばんは。
読んでいただきありがとうございます。

女性ならではの失恋話ですが、少しでもなにか伝わるものがありましたらとてもうれしいです。
バカだな…と思いながらも、全部なくなっちゃえばいいのにって思ってしまうのですよねぇ…。

コメントいただき、すごくうれしいです! ありがとうございました!

14/02/06 gokui

 読ませていただきました。
 泣き始めるための呪文は知っていたのですね。よかった。それなら、元気を取り戻す呪文もそのうち覚えることでしょう。
 主人公は本気で、世界が終わる呪文や自分が消えてしまう呪文を唱えようとしているのじゃないんですよね。本当は、元気を取り戻す呪文を探してるんじゃないのかな。人が何かから立ち直るための物語ということで楽しく読ませてもらいましたよ。

14/02/07 朔良

gokuiさん、こんばんは!
読んでいただきありがとうございます。

主人公が失恋してうだうだ落ち込んでいる話に希望を与えてくださってありがとうございます^^
gokuiさんはきっと優しい方なのでしょうね、コメントで私の方が元気をいただきました。
涙は自浄作用を持つとも言いますから、思いっきり泣いて彼女も元気を取り戻すことでしょう。泣くための呪文だけでも知っていてよかったです。
コメントありがとうございました。嬉しかったです^^

14/02/11 朔良

OHIMEさん、こんばんは。
読んでいただいてありがとうございます。

OHIMEさんはもしかして恋愛面倒くさい派!?(そんな派閥はないですが^^;)こちらのサイトでコメントや作品を拝見しているだけでもOHIMEさんってとても魅力的な方だと思うので…身近にいる方でも、そういう魅力的な女性ほど、もう恋愛は面倒くさいからいいやって方多いのです。

筆力なんてとんでもない^^; 延々と失恋を愚痴って絶望して泣き寝入りで終わってしまったこの作品、OHIMEさんの「過ぎし春」を拝読して、もう少し救いを感じさせる絶望にできなかったのかと後悔しきりです。
いつもOHIMEさんの作品には勉強させていただいています。
コメントいただき、ありがとうございました。すごく励みになりました。

ログイン