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朔良さん

のんびりまったり。 読むのは綺麗で残酷な話が好きです。 こちらで掌編・短編小説の勉強をさせていただいています。 遡って皆様の作品を読ませていただいてます。 古い作品に突然コメントすることがありますが、失礼があった時は申し訳ありません。 マイペースですが、頑張ります^^

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メリー・ウィドウ

14/01/23 コンテスト(テーマ):第二回OC【 馬 】  コメント:20件 朔良 閲覧数:2105

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 久しぶりに会った悪友たちに「今日は飲まない」と言ったら、疲れてるのかと気遣われ、「明日早いし」と答えたら、槍でも降るんじゃないのと不審がられ、「牧場に馬を見に行く」と白状したら、どうかしてると笑われ、「別に馬が好きなわけじゃないけど」と付け加えたら、馬鹿じゃないのとあきれられた…後で真顔で心配された。
 まったくもってそのとおり。今の私は、疲れてるし、どうかしてるし、馬鹿みたいだ。でも絶対にそうすると決めていた。

 さらさらの雪を恐々踏みしめる。欠伸を噛みながら朝一の飛行機に乗り、最寄りのバス停からとは言え歩いて牧場に向かうなんて、我ながら酔狂が過ぎる。馬になんか興味ないのに何してるんだか。馬好きだったのは彼で、それはもう終わった話だ。
 それにしても寒い。寒さは痛みに似てると考える余裕があったのは最初だけだ。徐々に感覚がなくなり手足が痺れてくる。防寒着や腹巻なんて気休めだ、空港で買った冬靴を履いた足元も危うい。
 黙々と歩きながら私は、気を紛らすために彼女に思いを巡らせた。彼女…メリー・ウィドウを初めて見たのは一昨年。彼に連れて行かれた地方競馬場だ。全国交流競走とか言うもので地方から来た彼女は、他の馬とは違い、慣れない場所に神経を尖らせた様子もなく妙に楽しげだった。競走の成績は振るわなかったし、ひたむきに走る健気さもなかったので、血眼になって馬券を握る人たちには人気がなかっただろう。でも彼は、名前の通り陽気な未亡人に見えた葦毛の馬を気に入ったようだった。

 忘れていた名前を思い出したのはネットで調べ物をしていた時だ。検索するとメリー・ウィドウはすでに競走馬を引退していた。重賞に出走するような馬でさえ、引退馬の大半が過酷な運命を辿ることは聞いていた。だから牧場のHPで彼女を見つけた時は驚いた。居てもたってもいられず、冬の間は観光客の受け入れはしてないという牧場主に強引に頼み込んで極寒の地に向かった。

 ブブーと、背後でクラクションが鳴った。振り返ると軽トラに乗った中年の男と目が合った。
「あんた…電話くれた人?」
 あ…と小さな声が出た。雪焼けした柔和な顔はHPで見たのと同じだ。頷くと、男は牧場主だと名乗り、観光客慣れしたなまりのない調子で「本当に来るとは思わなかった」と笑いながら車に乗せてくれた。
 車内の温かな空気にほっと息をつく。
「ありがとうございます。助かりました」
「買い出しのついでだ。それより、電話でも言ったけど、柵の外から見るだけだよ、遠くから来てくれたのに悪いが」
「はい」
 短く答えて黙り込んだ私に男は訝しげな視線を向けたが、それ以上は何も言わず車を出した。

 放牧地は白銀に覆われていた。厩舎の掃除が終わるのを待つ馬たちが、黒々とした足跡を残しながら行き来している。目指す葦毛の馬は放牧地の奥の方にいた。記憶の中にある姿より小さく…でも腹部はふっくらと膨らんでいる。HPで見たとおりメリー・ウィドウは身ごもっていた。馬はほぼ一年をかけて子どもを産む。命をかけて。それはやっぱり喜びなんだろうか。
 なら、私は? ……私はどうしたいんだろう。防寒着の上から腹部にそっと手を当てる。彼を…夫を亡くした後で分かった妊娠を私は素直に喜べなかった。ひとりで育てる覚悟も持てず中絶も出来ず、迷う中でメリー・ウィドウを見つけた。答えを探すためにここに来た。でも彼が好きだった馬に会っても答えは出ない。私には、彼がどうして馬を好きだったのかも、自分がどうしたいのかもわからない。
 腹巻をしてまで極寒の地に向かい、冬靴を買ってまで慣れない雪道を歩く。体を冷やしたくなければ家にいればいいし、転びたくなければタクシーを使えばいいのに。矛盾した行動と矛盾した想い。かじかんだ足でよろめきながら私は、このまま滑って転んでしまえば、なにも選ばなくて済むと思ってはいなかっただろうか。だとしたら、答え以前に私には母親になる資格などない。もし…興味がないと切り捨てず、もっと彼を理解しようとしていたら、こんなふうに迷わずに済んだんだろうか。
 ふっと気配を感じて顔を上げると、メリー・ウィドウが目の前にいた。耳を立て、黒い瞳に気遣わしげな光を浮かべて、私をじっと見ている。
「あんたのこと心配してる」背後から牧場主の声。
「まさか」
「馬は敏感なんだ。それに優しい」
 馬は優しい生き物だから。夫の声が不意に耳に甦った。するりと心の中の何かがほどけた。
 あなたは幸せ? と問う必要はなかった。彼女の黒い瞳は競馬場でも放牧場でも同じように、笑うような陽気な光を湛えていた。
 牧場主を振り返って聞く。
「夏にまた来てもいいですか」
 その頃ならきっと仔馬の顔が見れる。馬好きの子はやっぱり馬好きに育つんだろうかと考え、私は小さく笑った。


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このストーリーに関するコメント

14/01/24 そらの珊瑚

朔良さん、拝読しました。

メリー・ウィドウと呼ばれる馬と、未亡人という身の上になって
これからのことに迷っている主人公が出会ったのは、どこか必然という気がしました。」
―誰かに、もしくは何かに招かれてそこを目指す、ということが人生の節目にはあるようなきがするからです。
丁寧に描かれた描写と人と馬の無言の邂逅、そしてタイトルに込められた遊び心(未亡人であっても子供を産むことはありえる)
これぞ正統派の掌編だとしみじみと感じ入りました。

14/01/24 そらの珊瑚

投稿、ありがとうございました。

14/01/24 草愛やし美

朔良さん、拝読しました。

運命的出会いですね。きっと、天空からの彼の想いがメリー・ウイドウに託さたのではないかと思います。

主人公が迷うのもよくわかります。覚悟のいることですもの。でも、彼女自身のなかで、道は決まっていたけれど、その確認が欲しかったのではなかったのかしらと思います。

珊瑚さんのおっしゃるように、タイトル、メリー・ウイドウに込められた意味合い凄いです、ありがとうございました。

余談ですが、馬って優しいです、そして人のことが凄くわかるようですね。以前、乗馬して海へ行くというツアーに参加したことがありますが、見事に、馬に馬鹿にされました。言うことなんか聞いてくれず、他の馬はみな進んでいくのに、私の馬は歩くのさぼって道端の草や葉っぱを食べるんですよ、「こら、こっちこっち」なんて言っても知らん顔されて……。乗り手が自分より上位だと思ったら言うことをきくけど、下位だとわかれば、こんなもんなのです、ほんま困りました。馬というとそれを、思い出す私です。苦笑

14/01/24 クナリ

徐々に明らかになっていく彼女の身の上に、読み進めるうちに引き込まれていきました。
人の思いが、前向きなほうと悲劇的なほうのどちらかに転ぶかは、何で決まるのでしょうか。
思い出。思わぬきっかけ。置いてきぼりにした思いとの再会。その他いろんなもの。
ひとまず快方へ進んだ主人公に、快哉を送りたいですね。

14/01/25 朔良

そらの珊瑚さん、こんばんは。
コンテストオーナーお疲れ様です。
この度は、素敵なテーマをいただきありがとうございます^^

読んでいただき、ありがとうございます。

御題を拝見してからずっと馬・馬・馬…と考えていたのですが、なかなか良いアイディアが浮かばず…。
頭の中で「馬なんて好きじゃない」と主人公の女がつぶやき、馬に興味がなくても馬を見に行くってどんな状況だろうという考え、馬の名前をメリー・ウィドウと決めた時に、話の大筋が決まりました。
なので、その部分をくみ取っていただけてうれしいです。
運命…というには大袈裟ですが、人生には、必要な時に必要な出会いが準備されていると感じることがあります。
彼女にとってはメリー・ウィドウがそれだったのかもしれません。

こちらこそ、参加させていただき、ありがとうございます。
コメントにいつも励まされています。
応募期間が終わるまで、気の抜けないことだと思いますが、ご無理なさらないでくださいね。
他の方の参加作品も楽しませていただいています。
本当にありがとうございます。

14/01/25 朔良

草藍さん、こんばんは。
読んでいただき、ありがとうございます。

そうですね! あらゆる情報があふれているネットで、メリー・ウィドウを見つけることができたのは、亡くなった彼の導きなのかもしれません。彼の想いがあって、彼女は馬の元に導かれたのかもしれませんね。
子どもを生み、育てるということは、やはり簡単なことではないと思います。

馬が優しいというのはよく聞きますよね。自分も怪我をしているのに落馬した騎手を気遣ったとか聞いたことがあります。
あらら、草藍さんは馬にあしらわれてしまいましたか^^; 草藍さんが優しい人だと読んで、馬の方が草藍さんに甘えてしまったのかもしれませんね。
犬もそういうところがありますが、動物って本当に鋭いです!

コメントいただき、ありがとうございました。いつも励みになっています。

14/01/25 朔良

OHIMEさん、こんばんは。
読んでいただき、ありがとうございます。

淡々とした話に、そのような褒め言葉をいただいてもったいないくらいです。ありがとうございます。
馬の名前を、メリー・ウィドウに決めたことが、少なからず物語の構成に影響してしまったので、そこに注目していただけて光栄です。
ひとりで子供を産み、育てていくのは、本当に難しいですよね。
それを乗り越えたシングルマザーの友人たちはみんなすごくたくましいです。

試行錯誤はしているのですが、皆様のような重厚な作品はとても書けそうにないので、自分らしくのほほんといくしかないなと最近開き直りつつあります。作品の1ファンであるOHIMEさんからそう言っていただけるのは本当にうれしいです。
励みになります! ありがとうございました。

14/01/25 朔良

クナリさん、こんばんは。
読んでいただき、ありがとうございます。

運命の分岐点はいろんなところにあると思いますが、些細なことで180度違う方向に変わってしまうこともよくありますよね。同じ出来事でも、心の持ちよう、受け止め方によって、まったく結果が違ってしまう…平穏を手にするか、悲劇に沈むかは、やはり本人次第のように思います。
今回、主人公は前向きに進みましたが、子どもを持つ幸せはあっても困難な道であることは間違いないので、躓かないで歩いて行ってほしいです。
コメントいただき嬉しかったです。励みになりました、ありがとうございます。

14/01/27 朔良

猫春雨さん、こんにちは。
読んでいただき、ありがとうございます。

人生の中で迷うことは多いですが、妊娠・出産は大きな人生の節目なので迷いも深描くなると思います。
迷いの出口を求めて、最後にすがったのが、自分と同じ身の上の馬…猫春雨さんのおっしゃるように、単純な答えではなかった故、馬と会っただけでは答えは出せなかったのでしょうね…。そこを汲み取っていただけてうれしいです。
希望の残るラストにしたかったので、そう言っていただけて光栄です。ありがとうございます!

コメントいただき、大変励みになりました。うれしいです。ありがとうございました!

14/01/27 泡沫恋歌

朔良さん、拝読しました。

良い話ですね。
メリー・ウィドウっていうオペレッタがありましたね。
未亡人なのに楽しいって、なんか複雑な表現です。

主人公の女性がメリー・ウィドウという馬に同じ子どもを身ごもる
者としての母として生きる勇気が貰えたらいいなあと思います。

女性目線の優しい物語に深く共感しました。

14/01/28 朔良

泡沫恋歌さん、こんばんは。
読んでいただき、ありがとうございます。

恋歌さんからよい話だと言ってもらえてとてもうれしいです。
そうそう、同名のオペラありますね。不勉強で見たことはないのですが…。
未亡人になっても、悪いことは笑い飛ばして、元気で陽気な女性って逞しくていいなと思ったのです。
余談ですが、このお話のラストの一文は“私もメリー・ウィドウに負けない陽気な未亡人になろう”にするつもりで書き進めてました。でも、何度手直ししてもそこへ行く流れが上手く作れず…。力不足だなとしみじみ思いました。
陽気な未亡人になる決心まではできませんでしたが、メリー・ウィドウのおかげで、憑き物が落ちて、子どもを産む決心はできたと思います。これから前向きに生きてくれるはず…です。

コメントいただき、ありがとうございます。いつも励みになってます^^泡沫恋歌さん、こんばんは。
読んでいただき、ありがとうございます。

恋歌さんからよい話だと言ってもらえてとてもうれしいです。
そうそう、同名のオペラありますね。不勉強で見たことはないのですが…。
未亡人になっても、悪いことは笑い飛ばして、元気で陽気な女性って逞しくていいなと思ったのです。
余談ですが、このお話のラストの一文は“私もメリー・ウィドウに負けない陽気な未亡人になろう”にするつもりで書き進めてました。でも、何度手直ししてもそこへ行く流れが上手く作れず…。力不足だなとしみじみ思いました。
陽気な未亡人になる決心まではできませんでしたが、メリー・ウィドウのおかげで、憑き物が落ちて、子どもを産む決心はできたと思います。これから前向きに生きてくれるはず…です。

コメントいただき、ありがとうございます。いつも励みになってます^^

14/01/28 朔良

あらら。泡沫恋歌さんへのコメントのお返しが二重コピーになってしまっていますね^^; 貼り付けるときに失敗してしまったようです。
大変失礼しました。

14/01/29 かめかめ

「今の私は、疲れてるし、どうかしてるし、馬鹿みたいだ。」
この文と上の一文との対比。
こういうリズム、好きです。

14/01/30 朔良

かめかめさん、こんばんは^^
読んでいただき、ありがとうございます。

わ、その部分、推敲する時に削るかどうか悩んで(話の大筋にはあまり影響を与えないので)でも、自分では気にいってて削らなかった文章なので、そこを気にいっていただけてうれしいです。
文章のリズムって人それぞれだと思いますが、特徴の出る部分でもあると思うので、好きと言っていただけて光栄です^^
コメントいただき、ありがとうございました。すごくうれしかったです^^

14/02/02 光石七

拝読しました。
「『メリー・ウィドウ』ってオペレッタのあれだよね?」とまずタイトルに惹かれ、冒頭の軽快な文章で一気に引き込まれました。
読み進めるうちに主人公の状況がわかりますが、馬に癒され、読後感は爽やかです。
素敵なお話をありがとうございます。

14/02/02 murakami

こんにちは。

とても良い小説でした。別れたと思っていた彼が、ご主人だったは…。
構成も文章も素晴らしく、感服いたしました。

こういうリアルなお話、好きです。

14/02/02 朔良

光石七さん、こんばんは^^
読んでいただいて、ありがとうございます。

はい、同名のオペラありますよね! 不勉強で見たことはないのですが…。
かねてから、陽気な未亡人っていうのが逞しくていいな〜と思っていたので、今回馬の名前にしてみました。
冒頭部分は削るかどうかで悩んで残した部分ですので、そう言っていただけてよかったです。
希望のある話にしたかったので、光石七さんのコメントとっても嬉しいです。
こちらこそ、コメントいただき、励みになりました! ありがとうございます^^

14/02/02 朔良

村上さん、こんばんは。
読んでいただき、ありがとうございます。

こちらの皆様の作品を拝読して勉強中ですので、村上さんに良い小説だと言っていただけて嬉しいです。
ここに書くことではないですが、作品読ませていただいています。
離婚/結婚。の手紙だけで表現する見事な復讐に唸り、告白の口裂け女の独白には衝撃を受けました。
初恋のさわやかさも好きでしたが、シンデレラサイズが一番好きです。
本当にお上手な方だなと思っていたので、お褒めの言葉をいただくなんて光栄です。
コメントいただきありがとうございました!

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