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馬泥棒

14/01/22 コンテスト(テーマ):第二回OC【 馬 】  コメント:1件 五助 閲覧数:1287

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 草原を赤く夕日が染めていく。
「兄貴、日が暮れてきましたぜ」
 背の低い男が馬上で言った。
「急ごう」
 こちらは細身の男で同じく馬上にいる。二人は兄弟ではない村のごろつきである。馬泥棒の話を聞き、馬主に取り返してやろうと話を持ちかけた。もちろんただではない。最初は馬の売値の三分の二、最終的に売値の半分で落ち着いた。ただし取り返したらの話だ。二人は手早く旅支度を済ませ馬泥棒の後を追った。
 東に馬四頭分の足跡が残っていた。その中の一頭の足跡が深く沈んでいる。つまり馬泥棒は一人。

 馬泥棒は、ほくそ笑んだ。
 四頭の馬が手に入った。発情期の雌馬の尿を柵の近くで蒔き、馬をおびき寄せ柵を壊し、質のいい馬四頭を選び連れ出した。その内の一頭に鞍をつけ馬泥棒が乗っている。残りの三頭は手綱をロープで縛り腰紐に結びつけている。市場のある町まで行って馬を売り別のところで馬を盗む。そんな生活をしていた。夜になり馬泥棒は木に手綱を縛り付け、たき火を燃やし寝た。

 二人の追っ手も、たき火をしながら休んでいた。
「追わなくていいんですか」
「走らせれないこともないが馬が怪我をしたら終りだ」細身の男は言った。
「あっちは四頭も馬がいるんですぜ。代わる代わる乗ったら四倍早く走れますよ」
「いや、三頭の手綱を引きながら走ることになる。それほど早く走れない」
「なるほど、さすが兄貴」

 二日たった。馬泥棒は、西に、たき火の明かりがあることに気がついた。さらに一日たつと、たき火の明かりが近づいていることに気がついた。
「追っ手か」
 だが、まだ距離はある。馬泥棒は石を積み、たき火の明かりが見えにくいようにした。

「どうやら気づいたようだな」
 細身の男が暗闇を見つめた。
「どうしてわかるんです」
「たき火が消えた。やめたか隠したかどちらかだ」
「どうします」
「取りあえず枯れ枝を集めよう」

 さらに二日たった。
 西に二人の馬乗りが、かすかに見えた。追っ手が思いの外、近かづいていることに気がついた。無理をして駆けてきたとしたら奴らの馬は持たない。馬泥棒はそう考えた。

 昼、追っ手の二人は、ほとんど眠るように馬に乗っていた。

 夜、馬泥棒は寝付けなかった。暗闇の中、追っ手のたき火が見える。距離は変わっていない。ということは、夜間移動し距離を縮めていることになる。たき火は変わらずそこにある。夜間移動するならたき火はいらないはずだ。どうやって距離を縮めている。
 わざと残しているのか。枝を多めに用意して、たき火を残す、こちらを油断させるために。
「まずい」
 馬泥棒は慌てて立ち上がった。

 夜、二人の追っ手は馬の手綱を引きながら走っていた。
「兄貴、そろそろ休んだ方が」
 背の低い男が息も絶え絶え言った。ここ二三日ろくに寝ていない。
「まだだ。このまま夜を徹して進めば昼に追いつくはずだ」
「じゃあ、せめて馬に乗りましょうよ」
「だめだ。怪我が恐いし、追いついたとき馬の足がないと逃げられる」
「ひぃぃ」

 朝、馬泥棒は焦っていた。馬の機嫌が悪い。日が出る前に移動させたせいか反抗しがちである。追っ手の姿が近づいている。このままでは逃げられない。

 追っ手の二人が、そろそろ追いつくぞと道を曲がったところで、盗まれた馬の内の二頭が木につながれていた。
「一人一頭、山分けってわけか」
「どうします兄貴、置いていった分、あの野郎身軽になってますぜ。二頭取りかえしたんだ。わるかないですぜ」
「ふふん」

 馬泥棒は機嫌の悪い馬を二頭置いてきた。もったいないがその分早く移動できる。逆に追っ手の足は二頭分遅くなる。
 背後から馬蹄が響いた。
「まさか」
 振り返ると、何かが飛んできた。石。乗っていた馬の尻に当たり馬が驚き竿立ちになる。
 馬を落ち着かせている間に、男が一人、いた。
「追いついたぜ」
 馬に乗った細身の男は馬泥棒の首筋に刀を突きつけた。顔色は悪く目が血走っている。
「早いな」
 もう一人はどこに行った。背後から人の乗っていない馬が駆けてきた。一人をおろして、二頭の馬を交互に乗ってきたか。乗っていない馬は付いてくるに任せる。常に行動を共にしている馬ならそんなこともできる。
「悪い取引じゃないと思ったんだがね」
 馬泥棒はため息をついた。
「悪いが、俺が欲しいのは信用なんだ。二頭連れ帰ったって、残りの二頭をうっぱらっちまったんだと思われるのが関の山だ。俺は酒を飲んで、けんかして女を抱いて、そういう、そこらのごろつきで終りたくねぇんだ」
 そのためには信用だよ。笑った。
「負けたよ」
 馬泥棒は馬からおりた。
 乗っていた馬とは違う馬を横目で確認した。追っ手の馬は疲れている。こっちの馬は疲れていない。
「あんたは、馬泥棒で終わりたいのか」
 目があった。


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このストーリーに関するコメント

14/01/24 そらの珊瑚

五助さん、初めまして。

投稿ありがとうございました。
逃げる馬泥棒と追っ手の相手のてのうちの探り合い、とても緊迫感をありました。
そしてこのラスト。
いってしまえばどちらもごろつきであるがゆえの連帯感が生まれたのでしょうか。
利害を分かつ立場で、馬泥棒を殺しても大義名分はあるのにそうはしない馬を追う男の懐の深さを感じました。
いいチームになったらいいなあと思います。

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