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タックさん

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性別 男性
将来の夢
座右の銘 明日の自分に期待は持たない。

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不自由な命に憧れ

14/01/18 コンテスト(テーマ):第四十八回 時空モノガタリ文学賞【 昭和 】 コメント:6件 タック 閲覧数:1756

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――やあ、来てくれたのか。悪いね、こんな格好で。痛々しいだろう? 僕も嫌なんだが、機械に繋がれていなければ心臓を自発的に動かすことも出来ないんだ。まったく、滑稽だね。こんなにまでして延命する必要はあるのだろうか。今日はまだいいが、酷いときは胸を締め付ける痛みで言葉を発する事も出来ない。ただ一人、暗黒の世界でもがき続けるんだ。苦しいよ。生きるのは。健康な君たちが羨ましい……なんて言っても君に嫌な思いをさせるだけなのだろうが、たまには弱音も吐きたくなるんだ。懸命な家族の前で、僕は必死に疾患とたたかう息子を演じなければいけない。友人である君の前ぐらいは、普通の懊悩する高校生に戻りたくもなるんだよ。まあ、友人であることを恨んでくれと、そう言うしか僕には術がない。すまないね。

……そうか、下で会ったのか。どうだった、母の顔は。以前とは見る影もないほどにやつれているだろう。それはすべて、僕が生み出した疲弊なんだ。まったくやるせないよな。意味がないと知っているだけに、家族の介護が必要以上に身に沁みる。ほっといてくれ、と叫びたいのを堪えるときもあるんだよ。ああ、慰めはいらない。医者の宣告はまだないが、分かっている。僕はもう長くない。こんな痛みを宿す人間が、平穏な人生を迎えられるはずがない。もう、手術も治療も限りなく効果が薄いみたいだよ。この部屋を埋める大袈裟で高価な機械の群れは、だから文字通りの延命措置なんだ。この金食い虫を維持するために両親は粉骨砕身、一層と体を痛めつけている。弟も、すっかり快活さを失っているよ。既に僕を兄として見ていないんだ。同情すべき悲哀の病者。そういった目で僕を捉えている。隔たりの視線は、君の想像以上に辛いものだよ。幼い故の純粋さが真っすぐに心を貫くんだ。この世の中でも上位に位置する痛苦なんじゃないだろうか。少なくとも、僕は今までの人生で弟の変化ほど悲しく鈍痛を受けた出来事はなかった。まったくの現実で、混じり気のない絶望だね。 
 
 君に問うても仕方がないが、一体、僕の意味って何なんだろうな。先天的な疾患を持って生まれた僕に、それこそ生きる目的は与えられていたのだろうか。他人に迷惑をかけ、社会には何一つ貢献することなく死んでいく。そんな僕が世界に在籍する意義って、何かな。長期間の入院に束縛されると、そんな思考ばかりが頭に充満して離れなくなる。
 
 僕の最近の流行を教えよう。一学期に、社会の授業で特攻隊について勉強したのを覚えているかい。黄島先生が熱く語っていた、あれだよ。あの話にはみんな辟易していたよな。現代の若者にはあまりに現実味がなさ過ぎて、あくびを噛み殺すのに必死だった。まるで、大昔のおとぎ話に思えたよ。
 でもね、最近、それについて考えを巡らせる事が度々ある。死んでいった特攻隊の彼らが羨ましいな、と感じる時があるんだ。死にたい、とかいう事じゃないよ。僕が羨望しているのは、彼らの死に方についてなんだ。彼らが進んで特攻したとはとても思えない。遺書を読んでもそれは伝わるし、その悲痛さは、現代に生きる僕にも多少の想像はできることだ。しかしね、一方ではこうも思う。彼らは少なくとも「何か」に命を使うことが出来たんだ、とね。国家のため、国民のため、対象は何でもいいし、たとえ嘘でもいい、そうした信条を持って死ぬことが出来る冥利。生命を消費することが、守るべき存在に好影響を及ぼす可能性を抱える至福。彼らがもし、わずかでも自身の有意を信愛することができていたのなら、それはとても幸福なことだったんじゃないかと、僕はそう考えるんだ。それに比べ、ただ金を無価値に消費している僕はなんて愚劣な存在なのだろう。こんな身上だとね、寝ていてもそんな思いに自縛されてしまうんだ。自分の下らなさに、疾患以上の痛痒を覚えてしまうんだよ。

……ふふ、苦い顔だね。君の言わんとすることは分かっている。おそらく、僕は精神も病んでしまっているのだろう。せっかくお見舞いに来てくれたのに、こんな話で悪かったね。ほら、そろそろ外も暗くなり始めている。帰った方がいい時間だね。
 
 あ、その前に、一つお願いしてもいいかい。その台に爪切りが入っているはずだ。それを取ってくれ。……うん、ありがとう。これぐらいの刃でも、機械のケーブルは切ることができそうだ。恩に着るよ。これでいつでも決着がつけられる。……なんて冗談だよ。ただ、すがる物が欲しくてね。これが近くにあることでちょっとは安心できる。人生を終幕させる意志をそばに置けるからね。じゃあ、また。暇があったら寄ってくれ。もう少し、居れると思うから。

――無理で作られた貧相な笑顔を背に、男は病室を出る。静かな廊下。磨かれたリノリウムの床。男は重く歩みながら、二度と来ることはないだろうと考えた。


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このストーリーに関するコメント

14/01/20 草愛やし美

タックさん、拝読しました。

生きていく意志も死に対する意志もどちらも、人として、とても大切だと思います。ただ生かされている病苦を背負った時、何かの役に立って死ねればと考えを持った主人公の思いは切ないです。このような立場になったことがないので、簡単に言及できないですが、苦悩は筆舌に尽くすもの。そこから、昭和の特攻隊員への生死の意志を考えられたこの作品は、深いと思います。尊厳死や安楽死についても考えさせられました。
私自身、戦争を知らない戦後生まれの者、そんな私が言うのもなんですが、命、生きる、死する、どれも一言では言えないものだけに、昭和のあの時代に必死で生きた者たちの姿が、現代の若い人々にも、何か伝わるものがあればいいなと思っています。

タックさんの意欲的な作品、とても楽しみにしています、ありがとうございました。

14/01/24 クナリ

読み応えのあるとんがった作品が、毎回楽しみです。
生死について、改めて自分の価値観がどんなものなのか考えさせられますね。

14/01/25 タック

OHIMEさん、コメントありがとうございます。

特攻隊に対するある種の憧れ、というのは以前からありまして(もちろん、自らに災厄が降りかからない、という臆病な前提の下ではありますが)何かに命を使えたらな、と駄目な自分なんかは思うことが多々あるのです。おそらく、そういった状況に際したら逃げ出したくなるのでしょうが、特攻隊や自爆テロといった、圧倒的な監視下における強制された茨道は、ある意味で幸せな道なのかな、と考えることもしばしばです。これも平和の障害なのかもしれませんね。

よろしければまたご一読ください。ありがとうございました。

14/01/25 タック

草藍さん、コメントありがとうございます。

日本の平均寿命が長いのは、優れた医療により死ぬはずだった命が生かされているから、という話を聞いたことがあります。その話が確かかどうかは分かりませんが、もし、尊厳死を望む患者がその統計の中に入れられていると思うと、非常に居たたまれない気持ちになります。もちろん、生が一番であることは言うまでもありませんが、尊厳死や安楽死が法律で認められたら、という思いもあります。目の前で苦しむ人に、もっと生きて、と私は言える勇気がありません。

よろしければまたご一読ください。ありがとうございました。

14/01/25 タック

クナリさん、コメントありがとうございます。

読み応えのある、といっていただき非常に光栄です。読む人に何か残せれば、どこかに引っかかってくれれば、という思いがありますので、クナリさんのお言葉は本当に骨身に沁みます。自分の進むところはここでいいのかもしれない。そう、温かく感じることが出来ました。

よろしければまたご一読ください。ありがとうございました。

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