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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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無敵のファイター

12/05/28 コンテスト(テーマ):第七回【 結婚 】 コメント:3件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2700

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一瞬のスキをついて剣先士郎の、腕ひしぎ十字固めががっちりきまり、さしものワフー・デビルもたまらずレフェリーにギブアップをつげた。
15分にわたる熱戦をくりひろげた両選手に対して、観客席からさかんに拍手がおくられた。
ただひとり、峰子だけは、うなだれた顔をしきりに左右にふりつづけていた。
リング上で勝利の叫びをあげた士郎が、いきなりロープの間から身をすべらせるなり一散に、峰子のところへかけよってきた。
その顔に勝者の驕りをべったりはりつけて彼は、声も大きく峰子にいった。
「峰子、勝ったぞ、結婚しょう」
きょう試合に勝ったら結婚するぞと、一方的に宣言した士郎だった。
峰子にしても、試合に臨む彼に向って、がんばってねと、励ましの言葉をかけてはいた。
彼女はしかし、彼がこれ以上プロレスをつづけることには正直、反対だった。
このまえもはずみがつきすぎてトップロープからリング下に転落し、そのときは肩の脱臼ですんだものの、一歩まちがえていたらどうなっていたことやら。これまでも似たようなことはいくらでもあった。峰子にしたらはらはら、どきどきのくりかえしで、ちっとも心のやすまるときはなかった。
プロレスは、前もって打ち合わせがあって、殴ったり蹴ったりするのもある程度手加減しているぐらいは、レスラーを恋人にもつだけに峰子も承知していた。
それでも大男たちの肉体がとびかい、ぶつかりあうのだ。最初は峰子も、その醍醐味に酔いしれた。が、士郎と結婚の約束を交わしてからというもの、いつどうなるかもしれない危険なレスラーという職業に、拒否感を抱くようになっていた。

「なにかほかの仕事、みつけてくれないかしら」
藪から棒に峰子にそんなことを切り出されて、士郎はあっけにとられた。
午前中に会いたいと電話してきて、喜びいさんでいつもの喫茶店にでかけてきた彼だった。
「なにをいいだすんだ。おれからプロレスをとったら、いったいなにが残るというんだ。このあいだのワフーとの試合だって、きみが客席からみてると思うから、ハッスルして勝てたんじゃないか。きみはおれの、力の源なんだよ」
「もうわたし、こわくって。いつあなたが大怪我を負うんじゃないかと思うと、気が気じゃないのよ」
ほとんど泣きださんばかりにいう彼女をみては、士郎もそれ以上つよくは出れなくなった。
士郎ももうあと少しで35になる。肉体のあちこちにガタがきているのも事実だった。彼よりまだ若い選手でも限界をおぼえてやめていったものは少なくない。
「あとひと花咲かせるまでは、やめたくない」
そのひと花というのは、一週間後に迫ったNWS世界選手権トーナメントに出場することだった。
「お願いだ。このトーナメントだけは、やらせてくれ。トーナメントに勝ち残れば、世界王者への挑戦権が得られるんだ」
これに負けたら引退する。必至の決意が士郎の顔に浮かびあがった。

トーナメント初日、客席に峰子の姿があった。
士郎の対戦相手は、ジンギス・剛。ベテランのストロングファイターだった。
試合は両者のパワーが拮抗し、切れ味鋭い技と技の激しいかけあいに客席がわきにわいた。
しかし、引き分けでは点数は上がらない。焦った士郎は捨身のバックドロップをねらった。剛はそのうらをかいていちはやく士郎のバックをとるなり、十八番のジャーマンスープレックスをくりだした。。
士郎の体が宙に大きく弧を描き、そのまま後頭部からマットに落下した。
いやな音が場内いっぱいに響きわたったのはその直後のことだった。
峰子は悲鳴をあげた。周囲の客たちにもまた動揺がひろがった。
士郎が受け身をとりそこなったのは、だれの目にも明らかだった。レフェリーもカウントをとるのをやめてあわててリングドクターを呼んでいる。
ピクリも動かない士郎に、他の選手たちも心配そうに集まってきた。

士郎は、もうろうとした意識の中で、おれはもう死ぬんだなと思った。レフェリー、ギブアップだ。
そのとき彼の耳に、力強い調子で語りかける声があった。
「あなた、負けちゃだめ。この試合に勝ってわたしたち、結婚するんじゃなかったの。あなたはレスラー剣先士郎、無敵のファイターよ」
士郎の目がふたたび開いた。
すぐまえに、マットに手をつき、両肘を大きく曲げてこちらをのぞきこんでいる峰子の顔があった。その顔に、ぱあっと笑みがひろがるのをみた士郎は、その笑顔につられるかのようについ冗談を口にした。
「こんなところでなにプッシュアップしてるんだ。きみもレスラーになるつもりか?」




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このストーリーに関するコメント

12/05/31 かめかめ

プッシュアップって、なんですか???

12/06/01 W・アーム・スープレックス

腕立て伏せのことです。じつはこれをタイトルにするつもりでした。

12/06/02 かめかめ

なるほど^^

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