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洞津タケシさん

うろつたけし と言います。本と創作が好きで、妄想少年のまま大人の階段を上った感じです。 少しでも面白い物を書けるように、頑張ります。

性別 男性
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馬にまつわること

14/01/14 コンテスト(テーマ):第二回OC【 馬 】  コメント:4件 洞津タケシ 閲覧数:1303

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 僕は足が遅い。
 うちの中学の陸上部短距離チームで一番遅いし、体育の授業で野球部にも負けたくらいだ。
 それでも、駑馬十駕、いずれは人並みになると思って、3年間やってきた。
「井戸場は何で短距離やってんの」
 時々聞かれるが、速く走れるようになりたかったからに他ならない。
 
「ドバさんドバさん!タイム上がったっすよ!」

 僕のことをドバさんと呼ぶのは、朝倉疾風という、短距離チームの2年生エースだ。
 両親が陸上経験者の疾風は、まさに純血のサラブレッドであり、両親がメタボで駑馬の僕と真逆に位置する、雲の上の存在である。
 だが、僕らは何故かウマがあった。
 自分よりも3秒あまり遅い僕のタイムが僅かに伸びたことを、飛び上がって喜んでくれるのは、素直に嬉しい。

「マジで。俺もまだまだ伸びるな」
「そりゃそうっすよ、俺らまだ中坊だし。次俺のタイム取ってください」

 校庭の100メートル先で、疾風がクラウチングの姿勢になる。
 引き締まった体が弓のように引き絞られて、しなやかなバネの力が溜め込まれていくのが分かる。
 僕が手を叩くと、その力が爆発した。
 疾風はその名の通り、風のように走るのだ。
 チームの誰とも違う、足から伝わる力の全てが残さず推進力に変わる、そんな走り方。
 僕は、彼の走る姿は、とても美しいと思う。
 疾風が僕の体を吹き抜けていく。
 天馬空を行くが如く。
 そんな言葉が浮かんだ。

「今の良かったぁー! 何秒でした!?」
「へ?あ、ごめん止めんの忘れた」
「もぉー!どんだけっすかー、ドバさーん!」

 悪い悪い、と謝る。
 まさか、見とれてたなんて言えやしない。

「後でもう一回やろう」
「頼みますよ、ほんと」

 階段に腰かけて、野球部やサッカー部の練習を眺める。

「どうやったら、疾風みたいに速く走れるのかな」
「俺もまだまだっす。それより、俺はどうやったら試験で学年1位とれるのか不思議っす」

 僕はテストだけは出来た。運動はからっきしで、せめて走ることくらい出来るようになりたくて入部したのだ。
 まさかそこで、中学1年生で関東王者になるようなサラブレッドに走り方を教えてもらえるとは、思いもしなかった。

「俺、日本人で最初に9秒台出して、オリンピックで金メダルとる予定なんすよ」
「はあ?」

 突然、疾風が言う。

「出来ると思うんですよねー。でもその前に、次の大会、ドバさん最後じゃないっすか。俺が全中連れていきますから、絶対」

 真顔でいうのだ、そんなことを。
 こいつバカなんだろうかと、思う。

「ねぇねぇ、朝倉くん。あたしにも教えてよ」

 階段の上から話しかけてきたのは、陸上女子の2年生だった。
 全国区で、顔立ちも悪くない疾風は、女子たちの間で結構人気があるらしい。
 だが、当人は面倒臭そうな顔を露骨に示す。

「なんで?」
「え、いや、だって、朝倉くん速いから」
「文ちゃんに聞けよ、顧問なんだから。俺いま忙しいもん」

 忙しいことなんて何もないだろう。僕がオロオロしていると、女子部員は、キッと僕をにらんで「そう、じゃあいい」と言って去ってしまった。
 いらぬ怨みを買った。それも、結構高くつきそうなやつを。

「……お前さ、女子には優しくしろよ」
「なんでっすか?」

 原因がキョトンとしているから、ため息もつきたくなる。

「俺には、女子よりドバさんのが大事っす」
「……変だな、お前」
「なーんでっすかー! 俺はこんなに真面目なのにー!」

 頭を抱えて悶える疾風を眺めて、目眩がする。名馬に癖ありとは、まさにこの事だ。
 その数日後。
 前年の関東王者は、地区大会予選でフライングし、失格となった。
 竜馬の躓き。
 彼がサラブレッドであることを取り上げた地方紙の見出しは存外冷たく、泣いて僕に謝る疾風の姿を思いだし、こんなものかと僕は怒りに震えた。

 時は流れる。
 熱気の渦巻く競技場に、疾風はいた。実況のアナウンサーが、やや早口に話す。

「日本の朝倉、落ち着いた様子です。朝倉は中学生1年のとき短距離で関東を制し、2年の大会、予選でまさかのフライング。それが岐路だったと語ります。
 頭が真っ白になりました、もうダメだと思った、でも先輩がこう言ってくれました『牛も千里、馬も千里。お前は遅かれ早かれ同じ場所にゴールするよ』
 その言葉に導かれてここまで来ました。その先輩とは日本短距離チームのキャプテン井戸場です。まさに二人三脚、日本人初の9秒台、さらにその先のメダルへの挑戦。ゴールはもう、手の届くところにあります」

 一拍の、間。

「…………いいスタートだ、朝倉!」

 疾風は今日も、風のように走っている。


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このストーリーに関するコメント

14/01/14 草愛やし美

洞津タケシさん、拝読しました。

おお! この馬同士?の友情、素晴らしいです。とても良いコンビがあったからこそ、偉業を到達することを可能にしたのでしょう。
男通しの友情に、女である私には憧れるものがあります。まさに、その憧憬を描ききったモノガタリと思いました。
読みごたえのある疾風馬と駑馬という、馬さんたちの作品で、楽しませていただき、ありがとうございました。

14/01/14 そらの珊瑚

洞津タケシさん、はじめまして。拝読しました。

投稿ありがとうございます。
あたかも駆け抜けていく馬を見ているような、
なんとも爽やかな読後感が残りました。
何より二人の掛け合いが楽しく、それぞれのキャラクターを表していて、読者として応援したくなりました。
二頭の馬、いえいえ二人の素敵な友情がこんな風に実を結んで幸せな気持ちでいっぱいです。

14/01/17 洞津タケシ

草藍さま
 ありがとうございます、楽しんでいただけたなら、幸いです。
 男同士の友情ってなんか微笑ましいですよね
 これからも精進します、ありがとうございました

そらの珊瑚さま
 恐縮です、ありがとうございます。
 馬というテーマに相応しいか、少し迷いましたが
 投稿させていただいました。
 これからも精進します、ありがとうございました

14/01/17 クナリ

テーマにふさわしい、一陣の風のような、さわやかな友情が
薫る作品ですね。
世間の手のひら返しなどにとらわれずに立ち直る姿は、まさに
雄雄しい駿馬のそれですね。

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