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日向夏のまちさん

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捨て子達の贖罪

14/01/13 コンテスト(テーマ):第四十七回 時空モノガタリ文学賞【 再会 】 コメント:4件 日向夏のまち 閲覧数:1410

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小春日和に快活な市場。うららかな日差しが日常を運ぶ、今日この頃。
しかし招かれざる客が、雑踏を一時騒然とさせていた。
「あぁっ!? 待てガキ!」
そそり立つ人をすり抜ける様に、体勢低く駆け抜けた灰色の影。追いかける怒号もお構いなしに、悲鳴と共に身を引いた人の道を抜けていく。
「ほぉ」
小道に身を滑らせて姿を消した盗人。感嘆を上げたのは、気色ばむパン屋の客人である。
呆れた様なパン屋の声。
「感心してる場合じゃないよ、お兄さん」
「いや、元同業者として大変興味深いんだ」
顔にはてなを浮かべたパン屋へ、客人の男は薄く笑む。そして「今の子供の分」と言って銅貨を二枚弾きパン屋に寄越すと、何時もの表情を取り戻した雑踏に一瞬で紛れてしまった。

「見事なお手前だな」
湿っぽい路地裏の片隅。隠れる様に座り込み丸パンをかじる盗人に、実質パンをおごってやった先程の男が声を掛けた。
「皮肉か」
「褒めてんだ」
不愉快そうに眉を顰めた盗人。男は無遠慮な問いを飛ばす。
「捨て子?」
「てめェには関係ねェな」
「は、図星か」
捨て子が強い眼差しで男を射る。しかし否定は、なかった。
「……半端な同情は要らねェぞ」
周囲を威嚇する野犬の様な唸り声。男は特に怯まない。それどころか、
「俺もそう思う」
そう、単調に同意する。
虚を衝かれた様な捨て子を置いて、男はその場を後にする。慣れ親しんだ道を歩く気軽さで、あまりにあっさりと家路に着いたのである。

それからというもの、男は毎日捨て子を訪れた。
煙たがる様に、面倒臭そうに、男を見る度毒を吐く捨て子。男はそれに憤る事も無く、すぐに立ち去ってしまう。
しかし、それでも捨て子が男を嫌っていないのは明白だった。
煙たくて、面倒臭いなら姿をくらませばいいのだから。
それでも同じ場所に留まるのは、何か思う所があるからではないのか?
もっともこれは、本人ですら認めたくない事象ではあったろうが。

捨て子と男が、非生産的な会話に互いの何かを感じ始めた頃。それは、丁度冬が訪れるのと同じ頃であった。
日に日に酷くなる冷え込み。暖を取る手段も無い捨て子は、いやにゆっくりと憔悴していく。このままでは冬を越せずに命を散らすであろう。しかし男は、何を差し入れするでもなくただ訪れる事を繰り返した。
それに、たとえ男が何を差し入れしたとしても捨て子は無碍に断っただろう。
捨て子は、決めていたから。

雪の日。いつもの様に男が捨て子を訪れた時だ。
捨て子は男に気付いていながら、顔を上げようとしない。
訝しむでもない男は、膝を抱えた捨て子の髪をぞんざいに鷲掴み、無理矢理に顔を上げさせた。瞳を、覗きこむ。
恨めしそうな目つき。死んではいなかった。しかし、消えた事の無かった光が、あの強い眼差しが、今日ばかりは消え失せていた。
今晩、持つかどうか。
「施しなんざ、いらねェからな」
しかし依然捨て子は強がる。それに男は、
「だろうな。だから、お前は寝てる間に攫われた」
言って、捨て子を抱きかかえる。
安心した訳でもあるまいに、捨て子の意識が途切れた。

次に捨て子が起きたのは、温かな部屋の中である。
見渡せばオレンジの光に満たされた食卓の風景。
「起きたか」
背後から男の声。捨て子は反射的に振り向いた。
「ほら席に着け。飯だ」
施しはいらねぇと言いかけた捨て子の口にロールパンが突っ込まれる。
降るのは、実にいたわりに満ちて、見透かした、言葉だった。
「食える時食わねぇと死ぬぞ。一人で、生きて行くんだろ?」
「!?」
両親に棄てられて、もう、何もかもが信じられなくて。
誰にも寄り掛からず、頼りにせず。
一人で生きて行くんだと。
確かに捨て子は、決めていた。
――知った様な口利いてんじゃねェよ。
パンに阻まれ毒も吐けない捨て子を、男は鼻で笑って。
「なんだ、やっぱ図星じゃねぇか」

捨て子の寝床と命を保証したその日。
しかし夜が明けてみれば、捨て子の姿と貸し付けた毛布は無くなっていた。
そうなる事を予想していた男は、また「だろうな」と呟いてから、捨て子の将来をも保証する。
それは、昔の自分を見ている様で、全く別の人物が自分の人生を辿っている様で、昔の自分に再会した様であったから。

しかし一連の行動は、かつての捨て子であるこの男を拾った、“私”に対する贖罪のつもりだったのかもしれない。

「一人で生きていく」。これは、かつての男の口癖で。
そんな男が大人になって、あの捨て子に自分を重ね、自分にかつての自分を助けた酔狂な女を、私を重ねたのだとしたら。
それは、不器用な彼による精一杯の贖罪だ。
誰かに寄り掛かったという記憶が、苦しかった。
だから、私がした事そのままに、あの捨て子を助けてやったんだろ?
そういえばあいつも、見透かしたセリフが嫌いだったっけ。


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このストーリーに関するコメント

14/01/17 クナリ

「贖罪」という表現には、ちょっと疑問がわきました。少なくとも、『私』への
贖罪というのは。
プライドを貫けなかった自分へのあがない、というのならわかりますけども。

三人称と見せかけて、実は一人称。面白い趣向ですね。
けれどこの作品のすばらしいのは、そのようなギミックよりも、心理描写の
ほとんどない男や『私』のキャラクター性が、ストーリーの中でしっかりと
表現されていることです。
三人が三人とも、出番の量に関わらずフルに存在感を出しています。特に『私』の存在感ときたら。
なんだか大げさにほめているように思われるかもしれませんが、中盤までの
ストーリーラインから、「かわいそうな少年に、ツンデレ気味のお兄さんが
おせっかいにもパンを食べさせてやるだけのいい話」で終わらせなかった
構成に舌を巻いているのです。

そして、『再会』というテーマに対する応え方。
ポイントは今現在多くはありませんが、間違いなく良作です。

14/01/17 日向夏のまち

いらっしゃいませ、クナリ様!

ほんとですね。最初は、「贖罪」という単語がぴったりなストーリーだったのですけれど。推敲によるストーリーの大幅改編と、時間がない中での執筆がケアレスミスを起こしてしまったようです。自分で読んでも違和感を醸しています。
言い訳にすぎませんが。もう泣きたい。

面白い趣向、ですか。ありがちではありませんか?
あ、いや、否定しているわけではないのです。純粋な疑問です。どこかで見かけて、一度やってみたいと思っていた技法なので。

はわ、クナリ様に舌を巻いて頂けるとは。逆に信じられませんよ。
中身がぺらっぺらの文章は日向夏の得意分野なので、と思っているので、最早プロの域に達していらっしゃるクナリ様にそう言われてもなんだか現実味が湧きません(笑)

良作、ありがたく頂戴します。実のところ少し自信作だったので、上がらないポイントに気を落としたりしてました。
酷いミスがありましたけど!

ありがとうございました!

14/01/25 むあ


 最後にやってきた私、の登場。
実は彼女が話していたと言う観点は、私にはできないのでとても素晴らしいなと思います。表現する語彙の多さにも驚きました。
 感想をかけるほど実力もない私ですが、良い作品だと思いました。
 楽しませていただきました。

14/01/26 日向夏のまち

いらっしゃいませ、むあ様!

楽しんで頂けたなら、一物書きとしては本望ですよ。読者の実力なんて関係ありません。
じつは彼女が話していた――というのは、途中まで三人称の視点で書いた後思い付きでつけ足せばOKですし。
そう、最後の最後にふと思いついたんですよ。完全に後付け設定です。
だから、大したもんでもないのです。

語彙に関しては、完全に読書のたまものですかね?
いや、自分でもわかりませんが、それしか思いつかないので……。

コメント、励みになりました。
ありがとうございました!

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