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来良夢さん

まだまだ未熟……書くのは好き。

性別 女性
将来の夢 作家
座右の銘 おいしいものは正義。

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サンキュー、マイフレンド。

14/01/13 コンテスト(テーマ):第四十七回 時空モノガタリ文学賞【 再会 】 コメント:0件 来良夢 閲覧数:1236

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 あーあ馬鹿ばっかり。つまらない。
 コバルトブルーのドレスに包んだ体を壁にもたせ掛けた。しっとりした音楽、うすぼんやりとした照明、センスの良いインテリア。
 そのすべてを台無しにするような怒鳴り声と嬌声が響いていた。
「はい飲む飲む! そっちも酒足りてないんじゃねえの? お?」
「おいそっちの瓶持って来い!」
「ちょっとー、飲みきれるのー? あたし酔っ払い連れて帰んのヤだからねー?」
「きゃあちょっと触らないでよ! もう!」
 ぎゃははははは。きゃははははははは。
 頭が痛くなる。もう帰っちゃおうか。中学時代の同級生たちは見た目こそ二十歳になれども中身は昔のまま、いやお酒が加わった分前よりひどくなっていた。騒がしい。下品。話してることに、何の知性も感じられない。
 そもそも同窓会をなんでこんな都会のど真ん中で開くことにしたのか。大したことない大人になりかけのガキの集まりなんだから、地元でこじんまりやればいいのに。わざわざ高い服着て高いお店に来ることないのに。
 ……でもそれに浮かれてしまった私も、馬鹿の一人か。
「きったねえ! ちゃんと飲めよ!」
「ふうぅ! おいカメラカメラ!」
「ねえ私のバッグ知らない?」
 地元の中学から進学校に進んで、有名大学に入って、それからも必死に勉強して。いつの間にか「こいつらとは違うんだ」という観念に取りつかれていた。自分の失敗を、上手く飲み込めなかった。
 大学の期末試験で単位を落とした。それはちょっとしたミスどころの話じゃなくて、進級が危うくなるほどの大失敗。初めて学校が嫌になった。成人式の同窓会で昔の友人に会えば、学校が楽しかった頃の気持ちが思い出せるかもしれないと思っていたのに。
 はははははははは。ははははははははははは。
 やっぱりこの中には混じれない。こんな人たちと自分が同じだなんて感じたくない。
 この人たちの中で、同じように一緒に笑えていた時期もあったはずなのに――。
 耐えられなくなって、こっそり扉を押し開ける。
 空気が冷たい。鼻の先が凍りそう。コートの前をぎゅっと合わせた。
 お洒落なレストランやバーが並ぶ明るい街。こんなところほとんど来たことがない。二十歳になったというのに、まだ自分も大人の世界に入りきれていないのか。白くなった息で目の前の景色がぼんやりかすんだ。
「あれっ」
 麻子ちゃん?
 低くて聞き取りにくい声が、すぐ隣からした。はっと振り返る。スーツを着た、知らない男の人。
「ああやっぱりそうだ。麻子ちゃんでしょ」
 警戒して手に力を込めると、彼は人懐こそうな笑顔で自分を指さした。
「昔隣に住んでた、ほら、青木雄介」
「え、ゆうくん!?」
 嘘でしょ!? 思わず大きな声が出た。通行人がびっくりしてこちらを見る。恥ずかしい。赤くなった頬を押さえて顔を上げた。
「久しぶりだね」
「おう。その恰好、そっちも同窓会か何か?」
「そう。ゆうくんもなんだね」
 幼稚園に通っていたころから隣の家に住んでいた幼馴染。なぜか学校が一緒になったことはなかったし、中学に上がってからは向こうの家族が引っ越してしまったから連絡も取っていなかった。それでも、よく一緒に遊んでいた仲のいい友達だ。
「俺のところは高校の同窓会」
「そっか」
 面影は残っているけれど、小さい頃の彼とうまく一致しない。何年も会ってなかったら、そんなものか。
「それにしても、どうしたの? なんかよくないことあった?」
「え、そんなことないよ? 久しぶりに顔見れて嬉しい」
「そうじゃなくてなんか」
 さっきまで、ちょっと困ってそうだったから。
 どきりとした。まじまじと彼の顔を見つめる。
「困ってるときね、麻子ちゃん、手の親指だけ曲げてじっと見るの、昔から」
「何それ知らない!」
 また顔が赤くなった。確かにさっきまで、そんなふうに手に力を入れていた記憶はある。
「大人っぽくなったから最初わからなかったけど、それ見て、あ、この子もしかしたら麻子ちゃんかなーって」
「気づかなかったよ……」
「ははは、昔と癖が変わってなくてよかった」
 変わったけど、昔と変わらない、私も。
 ふとあの薄暗い空間が目に浮かぶ。騒がしい、落ち着きのない同級生。
 でも、それだけ?
 もしかしたら、私が見てなかっただけ?
「大丈夫、もう、困ってないよ」
 少しだけ、頑張って笑ってみた。
 そう? 彼も笑顔で首を傾げる。
 私、そろそろ戻るね。自然とそんな言葉が出た。
「麻子ちゃん、住所まだ変わってないんだっけ? 遅いけど、年賀状出すよ」
「うん、ありがとう」
「で、せっかく二十歳になったんだし、酒飲もう」
「なんで男の子ってそればっかりなのかなあ」
 笑い声に乗って、白い息がふわりと舞った。かじかんだ親指は、まっすぐ私の胸を押さえる。


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