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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
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一重白彼岸枝垂桜 ( ひとえ しろ ひがん しだれざくら )

14/01/12 コンテスト(テーマ):第四十八回 時空モノガタリ文学賞【 昭和 】 コメント:8件 鮎風 遊 閲覧数:2822

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 夜の闇を打ち割るように、ライトアップされた一本の枝垂れ桜がある。老木だが、浮かび上がった姿は艶(あで)やかで、時折吹き来る夜風にひらひらと花びらを散らす。
 花木洋介は空(くう)に舞う一片(ひとひら)を掴み取り、ベンチに腰を下ろす。それから缶ビールをシュパッと開け、ゴクゴクと。これでやっと喉の渇きを潤すことができた。そしてブツブツと。
「知恵理さん、今年も会いに来ましたよ。いつも妖艶ですね」
 昭和世代の洋介、長年この桜を見続けてきた。そのためか知恵理さんと勝手に愛称で呼ばせてもらってる。

 思い返せば、初めて出逢ったのは小学六年生の頃、妹、美希の手を引いて花見に来た。
「お兄ちゃん、たこ焼きが食べたいよ」と美希がねだった。母からの小遣い10円を握りしめ、夜店へと。変な臭いのカーバイトランプで照らされた屋台、すべてが揺れていた。
 生まれて初めてたこ焼きを見た。もちろん夜店で買うのも初めてだ。胸をドキドキさせ、1フネ買った。それを落とさないように桜の木の下へと持って行き、妹と3個ずつ分け合った。
「お兄ちゃん、熱くて食べられないよ」
 美希が突然泣き出した。フーフーと目がまうほど息を吹き掛け、冷ましてやった。これで美希は泣き止み、二人で頬張った。
「お兄ちゃん、美味しいね」
 ニコニコと、幼ない妹に笑顔が戻った。
 あれから幾年月が流れただろうか。今は母も、あの愛々しかった妹もいない。
 洋介の目の前には、桜花爛漫の世界が広がってる。されど、それとは裏腹に洋介の目に涙が滲み、目頭をそっと拭く。

「ここに座ってもいいかい?」
 突然、一人の婦人が声を掛けてきた。
「どうぞ」と答えながら女性を窺うと、亡くなった母と同年代のようだ。
 おもむろに腰掛けた婦人が小さく呟く。「また会えましたね」と。
 洋介は、婦人がこの桜に会いに来たのだと思った。こんな二人、ベンチで肩を並べ、しばらく桜に眺め入っていた。そして、その沈黙を破ったのは婦人。
「お兄さんは……昭和育ちかい?」
 いきなりお兄さんに、昭和とは。思いも付かない問い掛けに、洋介は缶ビールを頬にあて、一拍の間を取った。
「そうですよ。お母さんもでしょ?」
 わかり切ったことだ。それでも話しの流れで訊いた。
 婦人は凜としたまま、桜から目線を外さず、「戦前生まれでね、いろんなことを見てきたんだよ」と静かに語り始める。

 進退窮まった太平洋戦争、学徒動員でね、学生さんたちがここから戦場へと。それからすぐのことだった、ここに多くの人が集まって、玉音放送を聴いたんだよ。
 洋介は戦後育ち、戦争を知らない。大変でしたねとしか言葉が浮かばない。

 敗戦で、世の中ががらっと変わった。この桜の周りにも闇市が立ってね。だけど、それも束の間、桜の木の下に紙芝居がやって来てね、子供たちが集まるようになったんだよ。缶蹴りや三角ベースで賑やかだった。花見の頃はぼんぼりが灯り、たくさんの露店が並ぶようになり、たこ焼きが売られ始めたのも、その頃のことだったかな。幼い兄と妹が桜の下で分け合ってたこともあったね。
 洋介はこんな話しを聞いて、胸にじんとくる。

 婦人はそれに構わず──
 街頭テレビが設置され、プロレス観戦で黒山の人だかりになった。それからしばらくして学生運動が勃発し、ここで開かれた集会に機動隊が突入した。その後、高度経済成長で、女の子のスカートが短くなり、挙げ句の果てにバブルとなった。花見はドンチャン騒ぎとなり、女たちは扇持ってクネクネと踊り出す始末──と昭和時代を一気に喋り、最後は丸っきり品がなくなったんだよね、と締めくくった。

 確かに昭和、いろんな出来事があった。洋介は婦人が話す一つ一つが懐かしい。しかし、一番の思い出はやはり桜の木の下で、妹と初めて食べたたこ焼きの味だ。あれが俺にとっての昭和だと思っている。すると婦人は洋介のセンチメンタルに気付いたのか、「最近、静かに花を愛でる人が増えたんだよ」と言い、腰を上げた。
 それから微笑み、「それじゃ、来年もお会いしましょう、……洋介君」と。

 えっ、このご婦人が、なんで俺の名前を知ってるの?
 洋介は不思議で、歩き始めた婦人の背に「どちらさんでしたか?」と声を掛ける。それに応え、婦人は振り返り、きりりと姿勢を正す。そして……
「チェリーと申します」

 チェリーって、知恵理?
 洋介がこの桜に名付けていた名前だ。これって、どういうこと?
 きょとんとした洋介に、婦人はさらに……
「美希ちゃんも時々ここへ来るんだよ。いつか会えたらいいね」

 その瞬間、一陣の風が吹く。
 花びらが夜空へと舞い上がり、婦人はその下を通り抜け、
 樹齢90年の祇園の夜桜、正式名:一重白彼岸枝垂桜(ひとえ しろ ひがん しだれざくら)へと消えて行った。


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このストーリーに関するコメント

14/01/13 草愛やし美

鮎風遊さん、拝読しました。

昭和のあの移行期というか戦後の40年ほどを集約して見せて戴きました。
チェリーさん、意味深。桜は、日本人の魂ですから、いつの世になっても咲き続け世を見届けて欲しいものです。
樹齢90年、大丈夫、もっと長生きできますよ。そういう古木ありますもの。素敵なお話をありがとうございました。

14/01/14 朔良

鮎風遊さん、こんばんは。
拝読いたしました。
セピア色の昭和の風景が目に見えるようでした。
知恵理さん…素敵ですね! このままずっと見守り続けていてほしいです。
いつか妹さんとも再会できるといいですねぇ、もちろんチェリーさんの側で。

14/01/14 そらの珊瑚

鮎風さん、拝読しました。

戦争からバブルまで、振り返れば昭和という時代は
怒涛のようにめまぐるしい時代だったのかもしれません。
チェリーさん、桜の精の化身だったのでしょうか。
古い樹には何かが宿っている気がしますね。

14/01/14 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

昭和の歴史を静かにひも解くようなチェリーさんのお話は
さぞや、昭和生まれの我々世代には懐かしいことばかりでしょう。

昔は良かったというと年寄りみたいだけれど・・・
確実に平成になって失われた、日本人の心はあると思います。

14/01/14 鮎風 遊

草藍さん

チェリーさん、そうなんですよ、意味深なんでよ。

きっと1世紀は生きてくれるでしょう。
今年も会いに行くつもりです。

14/01/14 鮎風 遊

朔良さん

コメント、ありがとうございます。

昭和は、そう、セピア色になってしまいましたね。
しかし、懐かしい。

知恵理さん、妹ときっと会わせてくれるかな。

14/01/14 鮎風 遊

そらの珊瑚さん

そうですね、怒濤のようでしたね。
チェリーさん、それをずっと見てきました。

今年も会えるかな。

14/01/14 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

随分早いものです、あの昭和から。

今度、この課題が「平成」であれば、続きが書けるのですが。
昭和は遠くなりにけりです。

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