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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

性別 女性
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La main chaude

14/01/06 コンテスト(テーマ):第四十七回 時空モノガタリ文学賞【 再会 】 コメント:7件 光石七 閲覧数:1893

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 夢を見てた。小さい頃の夢。
「このおじさんと大事な話があるの。和葉、外で遊んでて」
ママに言われて、私は一人家を出た。川沿いの道をてくてく歩く。懐かしい旋律が聞こえてきた。河原でギターを弾きながら歌ってる人がいる。私は注意しながら土手を降りた。――そこで目が覚めた。
 隣で髪の薄いおじさんがイビキをかいている。数時間前に会ったばかりの人。私はベッドから起き上がって服を着た。前払いでもらってるし、先に出ても問題ない。私はさっさとホテルと後にした。
 ダルいけど、一旦家に帰った。ちょっと休んだら学校の準備だ。ママとはほとんど口を利かない。ママも私に何も言わない。昔からどこか母親らしさが欠けてると思う。いきなり外に出されるのもしょっちゅうだったし。ママがその時何をしてたのか……。今は別の人が相手みたいだけど。パパはパパで女の所に入り浸って、滅多に帰ってこない。
 昼休みにスマホでサイトの書き込みをチェックした。――Q駅に6時、か。ご飯もおごってくれる、ラッキー。OKの返事をした。
 夕方、着替えてQ駅に向かった。時間が早いので、少しぶらつく。ロータリーを抜けようとしたら、横でギターが鳴り始めた。路上ライブか。……あれ? この曲どこかで……。

  世界が全て偽りでも
  この温もりは信じていたい
  君こそ僕のたった一つの真実……

 曲が終わると、まばらな拍手が起こった。一人がギターケースに小銭を投げた。
「ありがとうございます!」
にこっと頭を下げるストリートミュージシャン。この笑顔……もしかして……。
「広夢お兄ちゃん?」
おそるおそる声を掛けた。ミュージシャンは少し怪訝そうだ。私をじろじろ見る。
「あの、香津岐川でよく今の曲を……」
こう言うと、動きが一瞬止まった。
「……和葉ちゃん?」
目が合う。私は頷いた。
「うわー、大きくなってー……って、俺、オッサンみたいじゃん」
広夢お兄ちゃんにつられて私も笑ってしまった。
 昔、一人で外をブラブラしてた時に出会ったのが広夢お兄ちゃんだ。当時、お兄ちゃんは高校生だった。河原で曲を作ってて、物珍しそうにギターを見ていた私に声を掛けてくれたのが最初だった。そして時々会うようになり、お兄ちゃんの作った曲を聴いたり、弾き方を教わったり、一緒に歌ったりしてた。お兄ちゃんが引っ越して以来だ。歌手になりたいって言ってたけど、まだ夢を追いかけてたんだ。
「広夢お兄ちゃん、歌もギターも上達したね」
「あのね……」
怒っているようで目元は優しい。昔のまんまだ。
「ホントに良かったよ。もっと聴きたいけど、待合せなの。いつもここでやってるの?」
「ああ」
「じゃ、また来るね。あ、これ」
私は財布から千円札を2枚抜き取り、ギターケースに入れた。
 その後、広夢お兄ちゃんの路上ライブが私の楽しみになった。その時間だけは約束を入れない。ライブの後に一緒にご飯を食べたりもする。
「親はいい加減諦めて定職に就けって言うんだけどさ。もうちょっと粘りたいわけよ」
「お兄ちゃんの歌いいもん。デビューできるよ」
「お、頼もしいお言葉。和葉ちゃんの夢は?」
「えっと、私は……」
「まだ若いもんな。ゆっくり探すのもいいさ……って、なんかジジくさっ」
お兄ちゃんといるとホッとする。
 お兄ちゃんは小さなライブハウスに出ることもある。私はもちろんチケットを買って行く。他のバンドも出るけど、お兄ちゃんの曲が一番しっくりくる感じがする。
 3ヶ月ほど過ぎたある日、いつものように路上ライブ後に話しかけたら、お兄ちゃんの表情が曇った。
「どうしたの? 何かあった?」
広夢お兄ちゃんは私をじっと見た。
「心配事があるなら言ってよ。私、聞いてあげるよ」
お兄ちゃんはしばらく黙っていたけど、ゆっくり口を開いた。
「和葉ちゃんさ……いつも来てくれて、カンパとかチケットとかありがたいんだけど……
お金、どうしてるの?」
「お小遣いとか、バイト代だよ」
私は努めて明るく言った。
「高校生でそんなにもらえる? ……この間ライブハウスに来た人がさ、和葉ちゃん見て……その……」
……まさか、前に相手した人? それとも見てた人?
「その人の勘違いだよね? 人違いとか……」
言葉が出てこない。気付いたらその場を逃げ出していた。
 ――どうして? 誰に知られようが補導されようが構わないと思ってたはずなのに。私、なんで泣いてるの? 私、私は……。

 3日後、授業を終えたら広夢お兄ちゃんが校門の外で待っていた。
「電話もメールも無視ってひどくない?」
逃げようとする私の腕を掴む。引き寄せられてしまった。
「これだけは言わせて。俺は何があっても和葉ちゃんを嫌いにならないから。――また俺の歌聴きに来てよ」
お兄ちゃんが私の頭をポンポンと叩いた。とても温かい手だった。


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このストーリーに関するコメント

14/01/06 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

このお兄ちゃんがいれば、大丈夫だよね。和葉ちゃんに、私も頑張って欲しいです。
人生の出会いはとても大切だと思います。再会が、人の生き方を変えるってありだと思います。とても、心が温かくなる素敵なお話を、ありがとうございました。
文中の歌詞、素敵! きっとデビューできますよ、広夢お兄ちゃん。登場人物の名前も、とってもいいです、今からでも子供につけたいなあ。いや孫か、孫の前に嫁だった。苦笑

14/01/07 光石七

>OHIMEさん
いつもありがとうございます。
広夢の口調、OHIMEさんの他サイトの作品のキャラに似てませんか?(笑)
あ、光石のとこの百瀬っちにも似てるかも。
自分の好みが大いに反映されてるようです(爆)
人称や口調を変えることで登場人物を差別化しているつもりですが、結構パターン化してますね(苦笑)
書きたかったことを汲み取ってくださったようで、ホッとしました。

>草藍さん
いつもコメントありがとうざいます。
ラストは迷いましたし、わかりにくいかもと懸念していましたが、意図した方向に受け取ってくださり安心しました。
作中の歌詞ですが、昨年他サイトに掲載した詩の中から人間性を疑われなそうなものを選んで手を加えたものです(苦笑)
ネガティブなシャウトが多いもので……
登場人物の名前を気に入ってくださり、うれしいです。

14/01/07 光石七

>猫春雨さん
コメントありがとうございます。
和葉の心を読み取ってくださり、うれしいです。
和葉と広夢の関係は、作中では兄妹のようなものにしたつもりです。
二人が今後どうなっていくかは、ご想像にお任せします。バッドエンドではないと思いますが。

14/01/14 朔良

光石七さん、こんばんは。
拝読いたしました。

夢が再会の兆しだったんでしょうか。和葉ちゃんが無意識のうちに救いを求めていたのかもしれません。
大丈夫だと自分で思っているより、疲れていたり傷ついているってありますよね。
お兄ちゃんとの再会で、和葉ちゃんの心が癒されてよかったです。
最後のシーンのお兄ちゃん、かっこいいです! ジーンとしました。

14/01/14 光石七

>朔良さん
コメントありがとうございます。
和葉の心はうまく説明できないのですが、伝わったようでうれしく思います。
広夢は私の好み丸出しです(苦笑)

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